第42話 番外編

 俺たちが通っている高校で大規模な改革があった。主に先生にだが。

 校長や教頭などの学校内でのトップは揃って辞任。これだけで凄いものだが、新たに就任した校長は就任直後にこう言った。


────君たちの信用は無いに等しい。


 生徒を信じない校長がここに誕生した瞬間だった。









 とは言いつつも、話を聞いた感じだと生徒思いのちゃんとした先生みたいだった。前任が酷かったからそう見えるのかもしれないが。


 「にしても第一声がアレとは……凄いな」


 しみじみと、隣を歩く幸太郎はそう言った。先生とは思えなかった第一声。それは俺たち学生に衝撃を与えた。仮にも校長なのだからとか、そんなのは何処かへと捨てたのか知らないけど、PTAで問題になりそうな言葉を発して本当に大丈夫だったのだろうか。後ろにいた先生がなんか慌てていたが、大丈夫だったのだろうか。


 今、俺は珍しく幸太郎と元村の三人で帰っていた。沙耶香がその話題の校長に呼ばれていたからだ。なんで俺は呼ばれていないのかって?……知るかよ。

 まあ、呼ばれた理由は大体見当がついている。なので一応心配はしていないが、それでも残ればよかったかなぁ、なんて思っていたりする。


 「そして案の定……」


 「潰れたな。修学旅行」


 高二の時に行くはずだった修学旅行はいろんなことがありすぎて延期になっていた。そして高三になってもしかしたらと思っていたが、結局中止となった。

 理由はやはり、“信用がない”だった。まあそりゃあそうだろうなぁ。あんなこと言ったんだし。


 「今頃荒れてるんだろうなぁ……」


 「人の本質はこんな短時間に変わるわけねえだろ」


 荒れているだろう元クラスメイト達。自分達のことを棚上げにして憤っていることが簡単に想像できる。

 篠崎が消えた今、俺たちと彼らとの間にはとてもとても、どんな状況であっても塞ぐことができない溝が出来上がっている。そしてそれを彼らは自ら更に広げた。高三になりクラス替えも行われ、その彼らの一部とも同じクラスになったが、一度も目を合わせたことはない。更に彼らは今学校内で孤立状態にある。まさに自業自得だろう。こっちに逆恨みされても困る。


 「奴らは奴らで結託してるからなぁ……」


 「こっちを殺さんばかりな目を向けてくるしな」


 「自分のことを棚上げてな」


 こうして彼らと帰っていると愚痴ばかり溢れてしまう。三者三様な意見だが、思っていることは一つだった。


 「「「うざい」」」


 この一言に尽きる。


 「ま、実害しかないけど、無視しとけば問題ねえだろ」


 幸太郎がため息を吐きながらそう言った。そして元村も同意するように頷いた。


 「新谷、あいつらは馬鹿だ。馬鹿だから無視しても問題ない。いいな?」


 「幸太郎どんだけアンチなんだよ」


 「でも実際馬鹿だし」


 「……元村まで」


 友人二人のアンチ度が凄い。

 この日は友人の闇を見てから家に帰ったのだった。







 次の日。


 「前島、放課後に職員室に来いよ」


 「……わかりました」


 昼休みに担任の先生にそう言われた俺は放課後に一人職員室に来ていた。今日も沙耶香と一緒に帰れていない。とても辛い。とても辛い。


 「失礼します」


 「来たか。ついてこい」


 先生についていって行った先はなんと校長室だった。昨日沙耶香に話を聞いたが何も話してくれなかったので、内心不安でいっぱいである。


 「失礼します」


 『入れ』


 中から声がし、それに従い校長室に先生と共に入る。そして中には校長先生と教頭先生の二人がいた。


 「よく来てくれた。前島新谷君。そこに座りたまえ」


 校長先生に言われた通りに目の前のソファーに座る。その後に、俺の目の前に校長先生が座り、その後ろに教頭先生が立っていた。


 「単刀直入に言おう。学校を代表して君に謝罪する。済まなかった」


 そう言って校長先生と教頭先生は揃って頭を下げた。

 俺はその光景にしばらくの間、硬直してしまった。


 「えっ……えっと?」


 「我々学校側が何も助けられなかったのだ。元校長を始め、数々の教師がこれ程腐敗していたとは思わなかった。君には我々を非難する権利がある。何でも言うがいい。我々はそれを真摯に受け止め、そしてお詫びとして慰謝料も払おう」


 「は、はぁ……わかりました。俺はそれで構いません」


 「ありがとう。君の寛大な心に感謝を」


 あまりにも急すぎて何が何だか分からないが、向こう側が非を認めたと言う事だろう。なんか今更感が強い。

 

 「まぁ、今後の再発防止を徹底して欲しいですね。これ以上俺みたいな人を出さないように」


 「当たり前だ。我々はもう二度と間違えない。私は少なくともあのクソ野郎とは違うとこの一年で君に証明して見せよう」


 「……まあ、期待しないで待ってます」


 そう言って後はいつ慰謝料を受け取るかなどを話してから俺は校長室を出た。

 

 学校を出て、歩きながら俺は考えていた。

 何で俺は篠崎に目を付けられたのだろう。今回これだけは全くと言っていいほど心当たりがなかった。彼女が今どんな気持ちで、どんな状況に陥っているのか俺にはわからない。俺には彼女の気持ちを理解することはできない。

 確かなことが何一つ無い。あるのは彼女たちが犯罪に手を染めたことと、俺たちを傷付けたことという事実のみだ。

 事実の中に埋もれた彼女の真意は誰にも掴むことはできない。掴もうとすると、それは実体があるようで無い。あってもそれはどんな常識にも当てはめる事ができない、そんな得体の知れない空虚で虚しく、それでいて悍ましい何かを掴む事しか出来ないだろう。なら、これ以上考える必要が無い。必要性を感じない。無駄だからだ。


 深呼吸をし、頭の中を切り替える。

 大人はいつしか子供の頃の記憶を忘れてしまう。特に、大人に対して持っていた感情は。前校長はそれが顕著だったのだろう、子供の立場になって考えられなかった。そして保身の為に俺たちを捨てた。だから彼は消えた。故に俺はこのことを反面教師として生かさなければならない。しかし、きっと俺はこの感情を忘れないだろう。苦く、辛い、悲しい感情として俺の心に永遠に刺さり続けるだろう。 それはきっと悲しいことなのだろうが生憎俺はそれに慣れていた。


 「はぁ……」


 高三ならきっと受験のことを考えなければならないのだろう。しかし俺にとってそれはもうどうでも良くなっていた。

 大事な物の基準が既におかしくなっているからだ。

 憂鬱な気持ちを隠すことなく、俺は家まで歩き続けた。







 




 「ねぇ、あの時の金、まだ残ってる?」


 「多分」


 「新谷君、一銭も使ってないでしょう?」


 「当たり前だ。あんな汚れた金、誰が使うか」


 「じゃあ、私が使うね。ここの家賃として」


 「……まあ、いいか。てかそんなに家賃キツかったっけ?」


 「最近大学が忙しくなってきたでしょう?だからバイトできないじゃない。だからよ」


 「なるほど」


 俺はあの時校長から貰った慰謝料に全く手をつけていなかった。正直あの時は金がいくらあっても意味がなかったからだ。買うものがなかった。趣味がなかった。だから金を使わなかった。汚いなど理由をつけて。

 でもここの家賃として使うのなら問題ないだろう。きっと。


 「後は、もっと二人の時間を過ごしたいじゃない?」


 「……そうだな」


 俺は興奮を隠せなかった。

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 これ絶対書籍化できない作品だと今更ながら気づいた作者だった……

 文字数が圧倒的に無理。

 膨らませれば文字数は稼げるかもしれないけどきちい。

 それと、大学の話は作者の偏見によって出来上がっていますので。大学で出る宿題(?)とかレポート(?)とかのシステム、よく知らないんですよね。あれってなんですかね。



 

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