第41話 番外編


 「おはよう、新谷君。準備できた?」


 「……早くね?」


 「うん。待てなかったから、来ちゃった」


 そう言って笑った彼女は、俺の愛する花本沙耶香だ。

 今日は受験勉強の息抜きとして前々から計画していたデートをすることになっていた。

 


 時は夏休み。暑い中勉強詰めの日々は俺にとっては地獄という他なかった。そんな中に現れた女神こと花本沙耶香様の一つの提案は俺を地獄から解放してくれた。まあそれは一日だけなのだが、それでも俺は素直に喜んだ。受験勉強で忙しく、学校で会ったり一緒に勉強したりする時以外会うことが無かったのだ。

 

 「よし、それじゃあ行くか」


 「うん!」


 舞台はそう───学生の青春の地、海だ!!










 「しょっぱ」


 「まあ、海水だしね」


 着いてすぐに着替えて準備運動をして早速入った。その瞬間、俺たちは重荷から一時的だが解放されたのだ。ここにいるのは高三の受験生ではない。ただのカップルだ。

 いやぁ、本当に嬉しい。彼女の水着姿を見れただけで本当に嬉しい。彼女の水着は黒で統一されたビキニで、デザインはいたってシンプルだった。しかし還ってそれが彼女の魅力を引き出していた。最初見た時、俺は語彙力を失った。それくらい、本当に可愛かったのだ。すれ違う人たちはみんな彼女のことを見ていて、中には邪な目線を送ってくる輩がいたが、彼女は気にもしなかった。


 今の俺の精神状態はいいとは言えないと思う。もしまた彼女が知らない間に他の男とヤっていたりしていたら今度こそ俺は死ぬだろう。文字通りの意味で、命を絶つだろう。そう確信している。故に俺の精神を守る為にも今日俺は彼女をあらゆる外敵から守らなければならない。


 「よし」


 「ん?」


 俺は気合いを入れ直した。







 それから俺たちはまるで子供のようにはしゃいでいた。二人とも海は初めてだったからなのか、色んな発見があってとても楽しめた。やはり高二までのストレスが溜まっていたのだろう、俺たちはそれを叩きつけるかの如く、今までの苦しみを吐き出すかの如く、とにかく遊んだ。受験生?何それ美味しいの?とでも言わんばかりに、俺たちは日頃の重荷を捨て去って遊んだ。そして気がつくともう日が暮れていた。夜に近づいたからなのか、気づいた時にはちょっと肌寒くなっていた。


 「あ〜、疲れた」


 全身が痛い。全く使ってこなかった筋肉も使ったのでそう思わず言ってしまった。もうヘトヘトだ。


 「本当にね。最後はもうヤケクソだったでしょ?」


 「今までの恨みを込めました」


 最後に俺たちはビーチバレーをしていた。その時俺は熱が入ったのか、沙耶香に向かって本気の球を打っていたのだ。しかし普通に返された。解せぬ。


 「なんで俺よりそんなに運動神経いいんだよ」


 「う〜ん、多分中学の時にサッカー部に入っていたからかな」


 「あ〜、そういえば言ってたなそんなこと。レギュラーだったんだっけ?」


 「うん。フォワードだったから沢山動いたから自然と運動神経が鍛えられたんじゃない?」


 俺たちは更衣室に戻る合間もこうした会話が続いていた。しかしそれは唐突に終わりを告げた。


 「ねえねえ、君可愛いじゃん?俺たちとこれから遊ぼうよ」


 突然俺たちの前に三人組の大学生らしき男たちが話しかけてきた。それも俺の彼女に向かって。

 俺たちはそのまま通り過ぎようとすると、男の一人が彼女の腕を掴んできた。


 「ねえねえ、俺たちが話しかけてんの、分からなかった?」


 なので俺はその男の腕を掴んで質問を質問で返した。


 「じゃあ逆に聞いますけど、何で人の彼女に手を出しているんですか?」


 「は?そんなの関係ねえよ。俺たちは彼女に話しかけたんだ。お前じゃねえ」


 「人の彼女に話しかけるだなんて、随分と節操がないんですね」


 「っ!?こいつっ!?舐めんじゃねえ!」


 そう言って男は俺に殴りかかってきた。俺は咄嗟に沙耶香を後ろに下げる。


 「おい、それはやばいって!?」


 「うるせえ!!」


 他の男が止めようとするがそれを振り切り俺に向かってくる。


 「ふっ」


 俺は一息入れるとその男が俺の顔に向けて殴ろうとしていたので左に避けて、隙だらけの腹に向けて一発拳を入れた。


 「ふぐっ!?」


 偶々鳩尾に入ったのでその痛みは計り知れない。男は思わず腹を押さえて蹲った。

 俺はこいつらに怒っていたのでその怒りも乗せて殴った。なのでいつもよりかは威力は出ていたと思う。


 「先に仕掛けたのはお前らだからな。とっとと失せろ」


 そう言うと男らは蹲っていた男を引きずって元来た道を戻っていった。危ない危ない。鳩尾に入っていなかったらもっとやばかったかもしれない。


 「ありがとう」


 「ん、気にすんな」


 そして俺たちはさっき起きたことをすぐに忘れて二人で帰ったのだった。














 「レポート終わった?」


 「……全く」


 起きたらもう夕方。大学のレポートの締め切りは今日の夜。全く手をつけていない。……ああ、終わった。

 起きた時に沙耶香に聞かれて思い出したほどだ。頭の片隅にすら置いていなかった。


 「お願いしますパクらせて」


 「頑張れ」


 そう言って彼女は台所へと戻っていった。今回のレポートは量は少ないものの、いかんせん面倒くさい内容だ。やる気が起きない。それに今は夏に入る直前。湿度が高くジメジメしている。こんな状況で誰がレポートをするのだろうか。いや、誰もしないだろう。というかしたくない。


 「あ゛〜」


 親父臭い声を出しながら俺は寝転んだ。そしてもう夏なんだなあと、ふと思う。そういえば高三の時の夏は沙耶香と海に行ったっけ。懐かしいなぁ。まあ数年前の話だけど。


 「もう、しょうがないわね」


 そう言いながら沙耶香は晩御飯も持ってきてくれた。


 「レポート終わらなかったら海行ってあげないわよ」


 「なぬ」


 助けてくれる、そう思っていた俺に思わぬ言葉が帰ってきた。

 高三の時に海に行ってから俺たちは毎年行くようになっていた。そして彼女は海に行かないと脅して俺にレポートをするよう迫ってきた。俺はそんな脅迫には決して屈しないぞ!


 「新しく水着変えたかったなぁ」


 「レポートすぐ終わらせる」


 俺はあっさりと折れた。それだったら絶対に終わらせなければ。それに、言っていることは彼女が圧倒的に正しいと俺はわかっていたという事もある。

 俺は体を起こすといつも以上の速さでレポートを終わらせたのであった。


 「………欲望に忠実なのね」


 ご飯を食べていた時に彼女がボソッと何か言っていたが、俺は聞こえなかった。ことにした。



____________________________________


 基本的にこの番外編は特に何も考えずに書いた物なので、時系列や『もしもの話』などがかなり曖昧なものになっています。なので、そこら辺を了承してもらえるとありがたいです。 


 まあ、何が言いたいのかというと、難しく考えないで読んでね。


 後、今後もうちょい……いや、結構……いや、めっちゃペースが落ちます。受験勉強結構キツイので。ご了承の程よろしくお願いします。


追記

タイトル変更しましたので、宜しくお願いします。

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