第37話

 「………ありがとな」


 「………ううん、私もかなり篠崎さんに言っちゃったし。同罪だね」


 そう言いながら笑った彼女は付き合ってた時よりもなんか可憐で、可愛いと思った。

 ………なんか心臓がバクバク言ってる……何だこれ。


 「っ!?」


 その時、横を歩いていた彼女が突然正面から抱きついてきた。

 その体はどこか震えていて、触れたら今にも壊れそうな、そんな感じがした。


 「怖かった」


 「え?」


 「今までの優しい新谷くんがいなくなると思うと怖かった。自己中な考えだけど、私が愛した新谷くんが消えると思うと居ても立ってもいられなかった……おかしいよね?一度私はあなたを裏切ったのに……」


 「………そんなことはないさ」

 

 俺は自然とそんな言葉を発していた。


 「────え?」


 「俺は嬉しかった。あのまま行ってたらきっと俺はおかしくなってたと思う。それこそ篠崎と同じようになってたのかもしれない。それを止めてくれたんだ。それに沙耶香が悪かったことは一度もなかったじゃないか。ずっと俺の味方でいてくれた。俺が誤解で君のことを遠ざけていた時もずっと、ずっと味方でいてくれた。俺は君が愛した俺でいられていることがすごく嬉しい。ありがとう」


 そうやってお互い抱き合ってどれくらい経ったのだろうか。不意に彼女は俺から離れて、真っ直ぐ俺の目を見つめて、そして───


 






 「私はあなたを愛しています」





 

 一度目の告白よりも、その言葉は重く、彼女が持つすべての感情がこもっていた。それは俺の心に深く、深く刻まれていく。


 



 「私と……………付き合ってください」






 

 「ああ」






 俺は自然と、それが当たり前であるかのようにただ一言、全ての想いを乗せてただ一言、そう言った。

 俺の答えは既に決まっていた。まだ感情が欠落しているのは治っていないけど、それでも、この想いだけは嘘をつきたくなかった。

 俺を救ってくれた、ただただ真っ直ぐ俺のことを想ってくれた彼女。そんな彼女だからこそ俺はこの時久しぶりに彼女に対して“愛”という感情が生まれたのかもしれない。



 「────ありがとう」


 

 そう言って彼女は俺に近づいて────




 


 ───そっと、俺の唇に自分の唇を重ねた。






 それから俺たちは近くの公園で一緒に座っていた。少しでもこの喜びの余韻に浸かりたかった。


 「そう言えば」


 俺はつい思い出したのだが、さっきの彼女の言葉で気になった事があったのだ。


 「何で、篠崎の親が篠崎を捨てたことを知ってたんだ?」


 「ああ、それは簡単だよ。さっき神功路さんから連絡が来たんだよ。篠崎の両親が荷造りを始めてすぐに家を出たって」


 「え?まだ張り込んでたの?」


 「なんか一応念の為だって言ってたよ」


 「念の為って……」


 「まあ、良いじゃない……今は……」


 「……ああ」


 それから俺たちはもう一度キスをして、二人で笑ったのだった。

 空には綺麗な月と、街を照らす光が俺たちを包んでいた。

 


 

 

_____________________________


7月19日 修正入れました。

 

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