第31話

 (第三者視点)


 大月康弘は焦っていた。最初は息子の照史の不登校から始まった。康弘は当初直ぐに終わるものだろうと楽観視していた。しかし職を追われた今、息子の存在が邪魔でしょうがなかった。

 追放紛いの退職を受けて一週間程呆然として何もしていなかったが、遂に彼は動き始めた。まずは職を探すことから。

 


 しかし、そこに立ちはだかったのは息子の噂だ。



 彼自身も知らなかった息子の噂、と言うよりも事実。それは既に近所には知れ渡っており、家の近くでは就職できなかった。バイトさえも無理だったのだ。

 ここに来て初めて息子が引きこもっている理由を知った彼はまた呆然した。自業自得過ぎたそれに、怒る気すら失せたのだ。

 それにどこから漏れたのか知らないが、自分が過去に会社で行ってきたことが流出していたのだ。それも彼が就職できないことを後押ししていた。


 そして康弘の就職活動が難航していた時、彼らに更なる悲劇が起きた。



 康弘の妻である三津子がいなくなっていたのだ。


 

 康弘の妻の三津子は近所では良い人として知れ渡っていた。その噂に漏れず彼女自身も性格は、康弘らと本当に家族なのか疑ってしまう程によくできていた人だったのだ。そのお陰で大月家の面子は何とか保っていたのだ。

 しかし、その三津子ですら、この状況は手に負えなかったようだ。正確には近所の友人から逃げるよう勧められそれに三津子が乗っただけなのだが、それは今の彼らに知る由もなかった。


 「三津子ぉぉぉおお!!!ふざけやがってぇぇぇ!!!」


 今朝康弘が起きたら、机に手紙と離婚届が一緒に置いてあったのだ。それを確認した彼は直ぐに彼女に連絡したが繋がらず、三津子の実家にも連絡してみたが“知らない”の一言だった。

 

「クソがああアァァァァァァ!!!!逃げやがってえぇぇぇぇ!!!」


 康弘は発狂した。これに耐えられるような精神は持ち合わせていなかった。

 そして康弘が静まった後に照史がそれを知り、同じように発狂したそうな。







 その後二人はなけなしの金を使い別の街へ引っ越した。そこで照史は新しい高校に通い始めるが直ぐに引きこもるようになり、康弘は就職できず借金とバイトで何とか凌いでいた。

 そんな生活が続いていたある日、とある人たちが彼らの家を訪ねた。

 その中の一人がインターホンを押す。


 「すみません」


 「はい」


 丁度康弘は家にいたので、玄関へと赴きドアを開けた。


 「……………………え?」


 「大月さんのお宅で間違い無いですね?大月照史さんに逮捕状が出ています。署まで同行をお願いします」


 「…………………………はい」


 康弘は今後起きる最悪の事態にただただ怯えるしかなかった。


 

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