第30話
(花本沙耶香視点)
放課後、私は桃萱先生の元を訪ねていた。
例の事がどうなったのか聞くためだ。それと先生が来るよう言ったからでもある。
「失礼します」
「おう、来たな。まずは座れ」
私が座ったのを確認してから口を開いた。
「取り敢えず被害届は出した。あの様子だと受理されるだろう。絶対」
「ありがとうございます、私の代わりに行ってくれて」
「いやいや、行きたくない気持ちもわかるさ。感謝されるようなことではないさ」
「しかし先生、一つ疑問があったのですが」
「ん?なんだ?」
「何故最初、警察に被害届を出すのを反対したのですか?」
私はネットに動画を出した後に、被害届の出し方などを調べてみた。すると、証拠さえあれば受理される可能性が高いとあったのだ。
「ああ、それか。簡単だよ。私が警察の事を信用してないからさ」
「っ!?何故……と聞いても良いのでしょうか」
「別に構わないさ。もう気にしてない事だしね。あれは……そうだな、花本と同じくらいか、それよりも若い時かな……強姦されそうになった事があったんだ」
「っ!?」
「私は何とか難を逃れて警察に通報したさ。でも、聞いてもらえなかったんだ」
「……え?」
「証拠不十分だって言われてね。私が通報した警察が酷かったのか、それとも当時がかなり緩かったのか知らないけど、その時は受理されず、犯人もそのまま。私は悲しかったし許せなかった。それから私は警察を信用しなくなった」
「そん……な……」
「だから最初はやめた方がいいなんて言ったのさ……悪かったね」
「い、いいえ。それならしょうがないと思います」
先生の壮絶な過去を知り、私は驚いてしまった。でも、まだ私よりマシだろう、そう思ってしまう。
「それにね、警察の存在を少しでも否定したかったってのもある」
「警察を、否定……ですか?」
「警察を頼って逮捕してお終い、じゃなくて、それ以上に罪の意識を犯人に持たせる機会が欲しかった。自分自身の手で。我ながら身勝手な理由だがね」
本当に身勝手な理由だ。でも、その身勝手な理由のお陰で最近聞いた事だがあの大月が不登校にまで追い込まれるほど苦しんでいるらしい。たとえそれが嘘だったとしても私はそれを聞いた時思わずガッツポーズをしそうになってしまった。人の不幸で喜ぶなど我ながら酷いと思ってしまうが、それでもこの喜びは抑えられなかった。こればかりは先生に感謝している。
「いいえ、私は少しだけ先生に感謝してるんです。何もできなかった、反撃できなかった私に機会をくださった、それだけで私は嬉しかったんです。後は私が自分の力で新谷君を助けます」
「……あの悲劇を君は乗り越えた。その精神力は誇るべきものだ。本当にすごいと思う。何かあったら私に相談するといい。是非力になろう」
「ありがとうございます」
先生の言葉で少し報われた気がする。でも、まだだ。本当に報われる時は新谷君を救った時だ。
私は決意を新たに動き始めるのだった。
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