第28話

 花本との会話は無いままリクエスト通りのものを買い、俺たちは神功路たちの元に戻った。


 「只今戻りました」


 「ありがとうございます花本先輩」


 そして俺たちが席に着くと確認作業を終えた神功路が話し始めた。


 「さて、それでは今後についてなんですが───」







 それからかれこれ1時間くらい話し合った。因みに俺たちが買ってきたものは彼女自身が欲しかったもので、今回全く使わないらしい。自分で買いに行けよ。


 「それでは今後はこんな感じで行きましょうか」


 そして今日はこれで解散し、俺は帰路についた。

 その途中もうすぐで家に着くというところで一人の男が俺の前に立っていた。


 「っ!?」


 俺は横を通り過ぎようとしたが、突然その男に腕を掴まれ後ろに引っ張られ俺は思わず地面に手をついてしまった。

 さらに男は怯んだ俺に攻撃を仕掛けてきた。俺は咄嗟の判断ができずに食らってしまった。


 「ガハッ」


 俺は何とか立ち上がり、男と対面する。俺よりも背が高く、フードを被り、全身黒で揃えられているが、既に夜で周りが暗いことから顔などは確認できなかった。

 血の味がする。どうやらさっき殴られた際、口の中を切ったようだ。俺はどのようにして逃げるか、それだけしか考えていなかった。こいつとは戦わない。危険すぎる。


 睨み合いが続き、痺れを切らしたのか男は俺に向かってきた。俺は後ろに下がりながら男の攻撃を避ける。

 そして丁度街灯の真下に来た時、偶々顔を確認できた。


 「っ!?」


 その顔はあの屋上で、俺の目の前で、篠崎と一緒に俺に見せつけるかのように絶望を与えてきた男。俺の学校の一つ上の学年。名前は、そう。



 ────安元。



 その時、俺の中で


 バキッ、と。


 顔から、頭から、僕の中から感情が抜けていくのを感じる。それはまるでひびの入ったコップから水が漏れるように、少しずつ、少しずつ。

 安元からの攻撃を避けながら、俺は無意識にこれを避けていたことを悟る。感情が無くならないように、まるであるかのように振る舞っていた。無くなるものは取り戻せない。少しずつ消えていく感情。そこに悲しさは無かった。当たり前だとでも言うかのようにそれを受け入れていた。


 

 はあ。


 帰ろう。


 そう決めた俺は直ぐにポケットに入っていたスマホを取り出してから安元の写真をフラッシュで撮り、その光で怯んだ隙に俺は家の方向に駆け出した。

 後ろを安元が追いかけてくるが気にせずに全力で走った。三回くらい曲がったところで安元も諦めたのか追ってくることはなかった。

 俺はその場で写真のバックアップを取ってから神功路にメッセージと共に送った。


 

 

 ────安元を潰すぞ、と。


 

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