第27話
(神功路花蓮視点)
「……行きましたね」
「それで、何で俺を残したんだ?」
「それは彼らを二人きりにする機会が必要だと思いまして」
「まあ、それはそうだが」
「それに、相談したかったことがあるんです」
前から一度は話してみたいと思っていた、宮崎先輩。高校に入ってから一度も彼を裏切らなかった家族以外で唯一の存在。そんな彼だからこそ、聞いてみたかったことがあった。
「先輩ってどのくらい壊れてますか?」
「……なるほどな」
「それによっては今後の方針を変える必要があるので」
見た感じ、まだ先輩は大丈夫そうだ。でも、それは表面上だ。中はどうなのか、それは見ただけではわからない。
「彼の精神状態がわからないんですよ。落ち着いた今、聞こうと思いまして」
「そうか……」
そして少し悩んだ後、彼はこう告げた。
「無理だな」
「え?」
「彼はもう壊れている。あいつの目について、今まで誰も指摘しなかったろ」
「目、ですか?普通じゃないですか」
「まあ、普通ならそうだよな。でもな、花本と俺と後あいつの妹以外、多分気づいてないだろうけど、あいつの目はもう死んでるようにしか見えない。あれがデフォルト?馬鹿言え。入ったばかりの時のあいつの目はもっと光があった。なのに今のあいつにはそれが無え。あいつはとっくに壊れてたんだよ。それにな、篠崎にやられてからもっと酷くなってる。花本があいつに対して奥手なのはそれが理由だ」
「っ!?」
「あいつはな、自分の心を騙してるんだよ。まだ大丈夫だってな。元村をこっちに引き入れたのも、元村の謝罪に対して何も感じていないのに、元村に対して怒りが湧くように自分自身に錯覚させている。今のあいつにあるのは全てが偽りだ。本当は元村には一切友情なんか持っていない。そういうふうに言うと聞こえが悪いが、実際にはそうだ。元村を赦さず交流する、友情関係を持つ。あいつは打算ありって言ってたけど、そうだとしても普通なら赦さない相手に対して友情なんて結ぼうとは思わない。俺だったら嫌だ。しかし感情が欠落しているあいつにはそれがわからない。だから赦さず友情を結ぶなんて矛盾したものが生まれた。自分にはまだ感情がある、まだ他人を赦すほどの心の余裕がある、そう言うふうに自分を騙し続けた」
「そこまで……とは……」
「まあ、初見で気づけ、なんて言う方が難しいほどあいつの仮面は精密に出来ている」
今まで見てきて、あんな事をされているのにそれが嘘みたいに感情的に動いていた先輩。しかし中身は既に壊れていた……これ以上はきついのかもしれない。
「もし、もしですよ。前島先輩が篠崎先輩に復讐みたいなのが出来たとしたら、少しは元に戻るんでしょうか?」
「無理だ」
「ですよね」
はあ。もしかしたら花本さんと一緒にさせたのは間違いだったのかもしれない。
私は一抹の不安を抱えながら、二人の帰りを待つのだった。
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