第12話
次の日、俺は朝早くに学校に向かい、途中幸太郎と合流して一緒に登校した。
そして自分のクラスに入って席に座って幸太郎と少し喋っていると、ふと声をかけられた。
「前島、ちょっといいか」
「ん?あ、ああ」
「ちょっと来てくれ」
「ここじゃ駄目なのか?」
「ああ」
「……分かった」
幸太郎が小さな声で“気をつけろよ”と声をかけてきたので素直に小さく頷いておいた。
なぜ彼がそういう風に忠告してきたかというと、声をかけてきたのは高校一年の時の元クラスメイトだったからだ。
俺は言われた通り、彼について行った。その道中俺と彼を見て驚いていた人がちらほらいた。おそらくそいつらは元クラスメイトだろう。おそらくがついた理由としては、あまり覚えていないからだ。あの頃は全てがどうでも良かったからな。それに、気にしていたら直ぐに俺の精神は壊れていただろうし。
彼の事も、ある事があったから偶々他の人よりかは覚えていただけで。
俺は云い知れない不安を感じながら彼について行った。
「本当に申し訳なかった!」
「……え?」
俺たちは男子トイレに入り、二人きりになったところでこちらを向き、体を90度に曲げ、謝ってきたのだ。
「どうしたんだ?急に一体……」
「俺は一年の時にお前をいじめていただろ?今考えると何やってんだろうって思ったんだ。許されないのは分かってる。でも、傷付けたのは事実だ。だからこうして謝りたかったんだ」
そう、俺の噂が回り始めた時、大月と共にいじめ始めたのが目の前にいる、元村雄二だ。
大月と元村が始めたことによって徐々に広がっていった、要は俺のいじめを広げた原因だ。
「何で……何で今更……」
「……そうだよな。お前にとっちゃあ今更だよな。俺は、いや、俺たちはお前に対して取り返しのつかないことをしてしまった。お前の一年を最悪にしてしまった。分かってるんだ。お前は俺らとは会いたくないはずだ。でも……それよりも、謝らずにずっと知らんぷりしてる方がよっぽど最低だって、お前から赦しを貰えなくてもいい……むしろ一発殴って欲しい、そんな気持ちなんだ。あの時の俺は正しいことをしてるんだって、勝手に勘違いをしていた。お前が傷付いてることに目を背け、俺は続けてしまった。本当に済まなかった」
そう言って彼はもう一度大きく頭を下げた。土下座をする勢いだ。
確かに彼は正義感が強い印象があった。それが間違った方向に行ったのだろう。
確かに俺は元クラスメイトに会いたくなかった。同じクラスになった奴もいるが、それでも関わった事がない。関わりたくもない。それでも、そうと分かっていても彼はこうして恥を忍んで俺に頭を下げた。彼なりに葛藤があったのだろう。それでも俺をいじめたという事実は消えない。消せない。
俺は彼を赦せない。でも、彼は謝ってくれた。今の俺にはそれだけでいい。
「頭を上げてくれ」
「だが……」
「いいから」
俺の言う通りに彼は頭を上げた。
そして俺は彼の顔面に向けて一発殴った。
「がはっ……!?」
「俺はお前を赦せない……だが、お前は俺に謝ってくれた。これはお前なりのケジメなのだろう。なら、これでようやく俺たちは対等な立場になれたんじゃないか?お前は凄いよ。恥を忍んで俺に頭を下げたんだ。いくらお前が悪かったとはいえ、そんなことをする奴を俺はほとんど見た事がない。なら、それ相応の対応を俺はしなければならない」
そして一呼吸おいて、俺は言った。
「友達になろう。俺はお前を赦せないが、信用はできるし、きっと友情を結べるはずだ」
「……良いのか?こんな俺が、お前の……友達になれるのか……?」
「悪かったと思ってるんだろう?なら大丈夫じゃないか?次また間違えなきゃ良いんだから。一度間違えたお前なら俺とは別の人が同じような状況に陥ってもその人の味方になれるはずだ」
「俺が……お前を傷付けた俺が……」
「傷付いた俺が言うんだ。なら、後はお前次第だろ?」
「───ああ、ああ。そうだ、お前の言う通りだ。俺は今度は間違えない。今度こそ、俺はあんな最低なことをしない。ありがとう。こんな俺を……信じてくれて。今日から俺たちは友達だ。後で宮崎幸太郎にも謝るよ」
「そうしてくれ」
「じゃあ、また放課後。本当に済まなかった!そして、ありがとう!」
「ああ」
ありがとう……か。
久しぶりだな。そう言われたのは。
確かに彼は赦せない。今後も赦さない。でも、これで改心してくれたら、信用した甲斐はあったのかもしれないな。
久々に感じる嬉しさと共に俺は自分のクラスに戻るのだった。
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