第8話
(花本沙耶香視点)
あの事があってからもう一年以上が経った。
今でも大月のことは許せない。私の人生を台無しにした上に、付き合っていた彼とも別れなければならなくなった。今ではお互いを避けあっている始末……
私は彼のことが好きだった。彼から向けられていた好意がたまらなく嬉しかった。毎日が幸せだった。なのに……
今の私には『浮気したクズ』という噂が流れている。大月が去り際に流したものだ。おかげで私は先生のいないところでいじめられている。まだ暴力的なことはされていないが、陰口を叩かれたり、軽蔑するような目で見られたり、果てには物がなくなったりしている。
これも全て私が彼を裏切ったから起きていることだ。ならば、これは甘んじて受け入れよう。でも、大月がしたことは許せない。何より彼に対して行ったことが、その行為が許せない。私はもうこれ以上幸せにならなくてもいい。でも、彼には不幸になってほしくない。
嫌われてもいい、少しでも彼に償いをしたい。今の私の気持ちを知ってもらわなくてもいい。この気持ち───彼のことが好きという気持ちは胸の奥底にしまおう。彼の為に、その為だけに私は動くんだ。
そう決心した私は、今の私に出来る事を考え始めたのだった。
次の日の放課後、私が向かった先は新谷の担任だった桃萱先生の元だ。
「どうしたんだ、花本」
「先生に協力していただきたい事がありまして」
「なんだ?」
「今からでも被害届って出せますか?」
「っ!?」
私がまず始めたことはまだこの学校に根付いている彼のレッテルを剥がすことだ。
その為にはまず彼が無実であると証明しなければならない。
大月が仕向けた彼についての噂、それを少しでも取り除くことで彼自身の負担を少しでも減らす。
私がやっていることは彼にとって鬱陶しいと思うのかもしれない。
それでも、私はやる。これ以上彼の悲しむ姿を見たくない。
「……誰に、だ?」
「もちろん大月にです。彼が来る前のことを知っている先生ならわかるはずです。私が大月に強姦されたと警察に届け出たいんです。証拠の映像も先生が持っているんでしょう?それを提出すれば十分だと思いますが」
「……何故、今更、なのか聞いてもいいか?」
「……私は彼に、前島君に酷い事をしました。それが大月による強姦だったとしても、私は彼を裏切った。私は彼に償いたい、そうで無くてもせめて、彼に付いてる悪評を少しでも無くしたい、それだけです」
「……そうか」
そして先生は少し考えた後、私に対してこう言った。
───残念だが、それでは協力できない、と。
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〈お知らせ〉
1話をまた少し修正しました。
申し訳ございません。
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