第3話

 ──あれは高校に入学して数日経ったある日のことだった。


「私と付き合ってください!!」


 目の前には、ポニーテールの明るい雰囲気の容姿端麗な茶髪の女の子。そして、純粋な僕に対する好意。

 これが最初の彼女で、トラウマの素となった、花本沙耶香との出会いだった。








「ねえねえ、新谷、放課後カラオケ行こうよ」


「うん、いいよ」


 俺は初めての彼女に浮かれていたが、酷いことをして別れたくないという思いもあった。

 だから、彼女持ちの友達のアドバイスを貰いながら、沙耶香と少しずつ距離を詰めていった。

 この頃が一番幸せだったかもしれない、そう思うほど、毎日が楽しかった。

 何もかもが初めてだった。初めての彼女、初めてのデート、初めての………


 でも、そんな楽しい日々はあっという間に終わってしまった。



 ───沙耶香の浮気によって。



 この日は沙耶香から“用事がある”ということで、珍しく別々で帰っていた。しかし俺は帰っている途中、忘れ物に気付き学校に戻った。今思えば、それが間違いだったのかもしれないが、これがなければ、あんなと今後関係を深めようだなんて思っていたのかもしれない。


 俺は自分の教室について、ドアを開けようとした時、それは聞こえた。


『や、やめっ……あっ』


 そして肉と肉がパンッ、パンッと聞こえてくる。

 その声を俺は信じたくなかった。でも、俺はドアを


「──っ」


「あっ」


「っ!?」


 目の前には、まさに行為の真っ最中だった。



 ──俺の彼女と、同じクラスの男子との。



 俺は全てを悟った。あの告白は嘘だって事に。俺はあの女に踊らされていただけなのだ。

 良い様に遊ばれた。良い様に、俺を弄んだ。


「そっか。うん、そうだよな」


「ち、ちょっと待って……これは……」


「俺はただ浮かれてたんだ。初めての彼女が出来たって、浮かれてたんだな。本当、自分が嫌になる」


「ち、違うの……これは……」


「何が違うんだい?いいや、何も違わない。はあ、いつもそうだった。。結局俺が奥手だっただけなのに。俺は結局ヘタレなだけなのに。それを他のせいにして逃げていた。その結果がこれだ。やっぱり俺には無理だったんだな」


「待って……ねえ……」


「さよならだ。沙耶香。いや、。別れよう。その人と幸せに、ね」


「……っ!?待って!!」


 俺はドアを閉め、廊下を走り、帰り道を走り、家に着いて自分の部屋に引きこもった。


「あ、ああああ、あああああああああああ!!!!!!!!!」


 今回の失恋はどの失恋よりも辛かった。

 俺の心臓を抉るように、俺の中身が一瞬で空っぽになるくらいに、全てを吐き出したくなるくらいに。そして、さっき見た光景が俺の全身を縛りつけ、少しずつ締め上げてくる。既に豆腐よりも弱い俺のメンタルはこの鎖によって締め壊された。


「ああああああははははははあは、ははははははははは!!!!!」


 裏切られた裏切られた。あんな素直な好意を向けられたことがなかったから、それが尚更俺の胸を締め付ける。僕は全力で彼女のことが好きだった。容姿もさながら、その性格が、仕草が、そしてその好意が、好きだった。でもそれは全て偽りだった。


 メンタルが弱かった俺には到底耐えられなかった。裏切られたことが。心の底から愛した故に。この感情が重いということは分かっている。学生如きが愛している、などと普通は言わない。でも俺は過去に。その影響が出ているのかもしれない。


「………はあ」


 明日は学校に行けそうにない。休もう。あの光景を見せられたらあの学校に行く気が失せた。

 俺は自己嫌悪に陥りながら、ベッドに横たわった。もう、何もしたくない。

 夏が終わり、秋に差し掛かるこの時期。俺の春から始まったこの恋は、あっさりと、季節が無情に変わるように、消えたのだ。




_____________________


12月20日 修正を入れました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る