第5章 贈り物の行方

6日の夕方。

「もしもし」

「和美?母さんよ。東京に来てるから今からそっちに寄るけどいい?」

「母さん、今どこから掛けてるの?」

「え、恭平のアパートよ。ねえ、ちょっと祐二さんたら」

「お母さん、ねえ、プレゼント持ってきてくれた?絶対に忘れないでよ」

「え、これ持っていくの?」

「そうよ!何言ってんの、ちゃんと持ってきてよね、着くのは7時ぐらいかな。祐二も帰ってくると思うから」

「あらそう、じゃあ寄らせてもらうわね、祐二さんによろしくね」


ピンポーン。

「お義母さん、着いたんじゃない?」

「はーい」

二人が玄関を開けると、和美の母が立っていた。手には風呂敷に包んだ荷物を下げている。

「ああ、祐二さん、お久しぶりね」

「お義母さん、さあ、どうぞ、入ってください。それは持ちますよ」

「お母さん、早かったじゃない、電車で来たの?」

「いいえ、荷物があるからタクシーで来たわよ。ふう」

三人がリビングのソファに腰を下ろすや否や、和美の母が言った。

「ちょっと、祐二さん、あんな高価なものをありがとうね。恭平も大喜びするわよ」

「お母さん、何のこと?」

「あら、あれよ。和美、絶対持ってきてって言うから苦労して持ってきたわよ」

と和美の母は持ってきた風呂敷包みを指さした。

「よく分からないけど、あれってキャンプの時に使うものでしょ?」

祐二は嫌な予感がして風呂敷包みをほどいた。出てきたのはフュアーハンドのランタンだ。

「祐二さん、恭平がキャンプ道具をそろえ始めたの知ってたの?」

「え、あ、まあ、でもそれは」

「和美、凄いでしょ、あんた本当に幸せよね、母さんなんかお父さんにだってそんな贈り物もらったことないわよ」

え、あたしも貰ったことないけど、祐二、恭平にプレゼントしたの?え?

和美は祐二を睨みつけた。その視線に気づいた祐二が慌てて言う。

「そう、そうなんですよ、この前電話で話した時に、恭平君道具揃え始めたって言うから、ね、どうせ始めるんだったらちゃんとした道具を、ね、まあ、そういうことですよ」

そう言ったあと、祐二は大きな溜息をついた。あーあ。


「あ、お母さん、化粧品はどうした?持ってきてる?」

「ああ、あれね、ありがとう。でもちょっと私には派手かしらね。でも口紅は使ったわよ。ほら、これ」

そういいながら和美の母は自分のバッグから、小さなポーチを取り出した。ポーチには某高級ブランドのロゴが描かれている。

え、使った?なんで?確かに母の唇は、あの色鮮やかなルージュの色だ。

「あれ、お父さん何か言ってなかった?」

「え、お父さんが?何で?何も言ってないわよ。ちょっと、祐二さんこれ見て。これって高いブランドのやつでしょ?。和美ったらあたしにこんなもの送って寄こしたのよ。しかもリボン付きで。全くどういうつもりだか。ちょっと和美、あんたなんか企んでるんじゃないの?まったく」

肩を落としていた祐二が、はっと気づいたように和美を見た。

その視線に気づいた和美が慌てて言う。

「そんな、企みなんてないわよ、あるわけないじゃない。お母さんもそれ位おしゃれしてちょうだいってことよ」

そう言ったあと、和美は大きな溜息をついた。あーあ。

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