千金楽麗珠の事情聴取…2

「では、紅茶を届けたあとは何も注文を取っていないんだね?」

「えぇ。紅茶と一緒に餡蜜を持って行ったけどそれだけよ」

「なるほど」


刑事さんがメモを取る音だけが聞こえる。

その光景をジっと見ている麗珠が「あ…!」と唐突に声をあげる。


「何か思い出したのかい?」

「思い出したっていうか…。もしかしたら英なら何か知ってるかもって思って」

「英さん…?えっと…、あぁ。あの日一緒に働いていた東雲英しののめはなぶささんのことかな?」

「えぇ。確かあの日のキッチン担当は英だったから、珈琲の件も何か知っていると思うわ」

「なるほど。教えてくれてありがとうね。最後に、そのスーツの茶髪の男性は見たのかい?」

「見たような気もするけど…、覚えてないわ」

「ありがとうござました。またお話をお伺いするときがくると思うので、そのときはまたよろしくね」

「…家にくるの?」

「ダメだったかね?」

「…貴方は大丈夫そうだけど、後ろの刑事さんは腰抜かして尻もちついちゃいそうね」

「はは。コヤツはまだまだ若造だからね」

「そ。来る前にアポ頂戴。じゃないと家には入れてもらえないから」


麗珠はそう告げると会議室を出ていく。

そのまま外に出ると、そこには一台のリムジンが止まっていた。真っ黒のスーツを着た女性が麗珠にお辞儀をし扉を開ける。優雅に乗り込む麗珠を会議室から二人の刑事が覗いていた。


「あの、加賀かがさん。あの人、一体何者なんですか?」

「はぁ。池山いけやま、もっと業界について勉強しておけ。この事件、お偉方さんに気を付けながらやんねぇと痛いめあうからな。注意しろ」


さっきの優しい口調とは違う厳しい口調に池山は背筋を伸ばした。

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