8ページ



死神

「お前ジョシュアから俺らの事何も聞いてないの?……いいか?死神っつっても色々部族みたいのに分かれてて、各々に組織があるんだよ。その組織がやってる仕事内容も組織ごとに全く違って、命を取りに行く組織もあれば、自殺しようとしてる奴と上手く話し合って止めてやったりする組織もあるしな、後は現場仕事じゃなくて事務業が中心の組織だったり……上級者達だけが出入りを許されてる本部だと、お偉いさん達が各組織に命令を出したりしてんだよ。」



ミイラ男

「そうだったんだ……何か深いんだね、死神界って!」



死神

「まぁ言っても死神は死神だからな、俺みたいなのはごく稀だから、基本的に死神には近付くな。良い事ねぇから。」



ミイラ男

「覚えておく……。で、リーパーの仕事ってどんな仕事なの?」



死神

「そいつは秘密だな。」



ミイラ男

「え……教えてくれないの?気になるじゃん!」



狼男

「こんな人混みじゃあちょっと言えないわな。」



ミイラ男

「………?」




 四人はバーを出て街の裏山の頂上付近に自然に湧いている温泉へと向かうことにした。郊外にそよ吹く風は街中を漂っている風とは違い、透き通っていて気持ちが良いものだ。酔いを覚ますように冷たく心地よい風が鼻から全身に行き渡る。




死神

「久々だなぁー、温泉なんて。」



ドラキュラ

「最近肩こってたから丁度良かったわ。」




 「この辺がね。」と左肩をトントンと叩くジョシュアの隣で、ウェアはある事を疑問に思ったのだ。




狼男

「ってかクリスってどうやって入るの?」



死神、ドラキュラ

「…………。」




 ジョシュアとリーパーは「確かに。」と言いたげにクリスを見つめる。




ミイラ男

「え?普通に、包帯取って入る。」



ドラキュラ

「………!!」




 それを聞いたジョシュアは口を抑えて足を止めた。……??すなわちその素顔を拝見することができる?いや待てよ、そんな貴重な瞬間をこんなアホ共と共有するなど勿体無くはないか?いっその事このまま引き返して立派なホテルのワンルームでも借りようか……。

踊り出す下心が生み出す妄想にふけっているジョシュアに構わず、三人はそのまま歩き続ける。




狼男

「……何やってんのお前、置いてくよ?」



死神

「てかやっぱりあれか?あいつから迫ったのか?」



ミイラ男

「……うん、まぁ。」



狼男

「やっぱりそうだよね……ごめんね?何か俺らのダチがちょっかい出しちゃってさ……。」



ミイラ男

「いや、てか俺も別に嫌じゃなかったっていうか……」



死神

「きっとそのうちお互いに気のせいだったって目が覚めるからな、大丈夫だよ。」



ミイラ男

「じゃあジョシュってやっぱりゲイじゃなかったんだ。」



狼男

「俺の知る限りではストレートだね、長続きした事ないけどね。」



ミイラ男

「………?」




 リーパーが後ろを振り返ってジョシュアを確認する。クリスとウェアはそのまま歩きながら会話を続けた。




狼男

「ほら、あいつって眠っちゃうじゃん?必ず目を覚ますから待っててね。っていっつも約束するんだけど、相手はやっぱり寂しくて諦めちゃうんだよ。一年って短いようで長いからね……女の子が一人で待つとなれば尚更。可哀そうな奴なんだあいつは。」



ミイラ男

「そうだったんだ……。」



狼男

「それはそうと、リーパーの仕事のこと、この辺りならもう誰も居ないから教えてくれるんじゃない?気になるなら聞いてみな?」




 ウェアからそう言われたクリスは後ろを振り返り、ジョシュアと並んで歩くリーパーに彼の仕事のことについて質問した。




死神

「あ?まだ言ってたの?……俺はモズだよ。」



ミイラ男

「……モズ??」



ドラキュラ

「MOS《モズ》……Mediator Of Soul《メディエーターオブソウル》 、魂の仲裁人。」



死神

「さっき死神の組織には本部があるって言っただろ?その上に魂界協っていう組織があって、そのまた上に審判協会があって、そんで一番上にケルスっていう死神のトップの12人で編成された組織があるんだよ。本部から上の各組織には特殊部隊みたいなのがあって、その部隊の名前が本部のから順に Assistance《アシスタンス》 of Life and Death、通称ALITH《アリス》。」



狼男

「魂協会の部隊が Justice of Die《ジャスティス オブ ダイ》 の JUDIE《ジュディ》。」



ドラキュラ

「審判協会のが Guidance of Death《ガイダンス オブ デス》 の GODA《ゴーダ》。」



ミイラ男

「………え?じゃあリーパーがいるモズってのは?」



死神

「ケルス直属の部隊、モズ。」



ミイラ男

「………!!」



ドラキュラ

「ほんっとに肩書きだけは一丁前だよなー。」



狼男

「言わなきゃただの飲んだくれの死神なのにね~。」



死神

「うっせぇ。」




 そう言ってケラケラと笑いながら歩く三人の後ろを付いて行くクリスが「すごい……」と言いながらリーパーの背中を見つめる。




ミイラ男

「リーパー超カッコいいじゃん!でも死神の特殊部隊って、何するの?暗殺とか……?」



死神

「死神なんて皆、暗殺者みたいなもんだろ。特殊部隊ってのはただの例えで、まぁ要はただの雑用係みたいなもんだよ。」



ドラキュラ

「何?お前めっちゃクリスから気に入られてんじゃん、俺ヴァンパイア辞めて死神になろうかな。」



死神

「アホか。」



狼男

「転職。(笑)」




 温泉に着いた四人は、各自着ている服を脱いで木の枝に掛ける。ウェアがシャツを脱ぎながらクリスの耳元で言った。




狼男

「リーパーがお面外すの、待ちきれないでしょ?」




 そう言ってクリスにウィンクをすると、一番乗りで温泉に浸かり「はぁ~」と気持ち良さそうにお湯を肩に掛けた。服を脱ぎ終えたジョシュアがクリスの元に来て包帯を解くのを手伝う。




ミイラ男

「あ、いいよジョシュ、先に入ってて!すぐ行くから。」



ドラキュラ

「今度さ……二人っきりで来ような。」



ミイラ男

「……お前何か変な事考えてない?」




 クリスがそう言うと、ジョシュアはクルっと後ろを向いて口笛を吹きながら温泉の方へと歩いて行ってしまった……考えていたらしい。崖の向こう側に広がる絶景を眺めながら、ウェアとジョシュアがほっと体を温める。




ミイラ男

「……気持ちいい?」



狼男

「んん~、もう最高だよ!」




 温泉の淵に座り、そーっと湯に足を浸けて温度を確かめる。「あっち……」と一度足を引っ込ませ、勇気を出してもう一度浸けてみる。




狼男

「え……誰??」



ドラキュラ

「…………。」



ミイラ男

「二人ともよくあっつくないね!」




 包帯を外したクリスの素顔はジョシュアの想像をはるかに超えた美青年だった。俯いたその瞼から伸びる長いまつ毛、そしてブロンドの髪の毛はサラサラとなびく……ジョシュアの目が釘付けになった。すると隣でサブーンっと大きな水しぶきを立て、リーパーが足から湯に飛び込んだ。隣でその水しぶきを豪快に被ったウェアがイラつきながら顔を拭う。




狼男

「飛び込み禁止!!(怒)」




 お面を外したリーパーの顔をクリスが凝視する。




ミイラ男

「……え?どういうこと?」




 その声に反応したジョシュアとウェアがリーパーの顔を見て笑った。困惑したクリスが手で口を押えながら固まっている。




ミイラ男

「何その顔……?」




やっと拝めたと思ったリーパーの顔面は真っ黒いモヤのようにモザイクが掛かっている。




死神

「残念でしたぁー。」




 ケラケラと笑うジョシュアとウェアに一体どういう事なのかと問いただすと、ウェアが笑いながら説明した。




狼男

「リーパーはああやって自在に姿を隠せるんだよ。本来死神として、ターゲットに気付かれない様に背後に近付かなきゃならないからね。」



死神

「まぁ瞬間移動も出来るけどな。居なくなることも出来るぞ、ホラっ。」



ミイラ男

「……へっ?消えたよ?!」



ドラキュラ

「ちょっとちょっと、勝手にクリス君で遊ばないでくれる?俺の許可無しに(怒)」



狼男

「ってかクリス……お前って髪の毛生えてたんだ!」



ミイラ男

「うん。」



死神

「女みてぇな顔だな。」



ミイラ男

「うるさいな、だからいつも隠してんだよ。」



ドラキュラ

「クリス、こっち来て。」




 そう言ってジョシュアが腕を広げる。恥ずかしそうに、座ったままの体勢でクリスが水中の中を移動する。リーパー達が居る事にはお構いなしに、ジョシュアがクリスの垂れ下がった前髪を優しくかき上げようとした時、クリスがパシっ!と勢いよくその手を振り払った。




死神、狼男

「………!」



ミイラ男

「やめろ!こっちの目は………駄目。」



ドラキュラ

「何で?」



ミイラ男

「俺、こっちの目………無いんだ。」




 その言葉に、三人が驚いた顔でクリスを見た。




ミイラ男

「グロいから引くよ、見ない方がいいよ。」



ドラキュラ

「………クリス。」



ミイラ男

「………?」



ドラキュラ

「見せて。」



ミイラ男

「………!」




 ジョシュアの手がクリスの前髪をかき分ける。その目玉の無い右目は窪んでいて少し皮膚が垂れ下がり、半開きした瞼からは目の裏側の皮膚が見えた。ジョシュアは優しく微笑み、クリスの後ろ髪を抑えゆっくりとその顔を自分の方に引き寄せそっとその右目にキスをした。




ドラキュラ

「クリス、お前は綺麗だよ。グロくなんかない。」



ミイラ男

「………!」




 誰にだって言いたくない事の一つや二つはある。それを口にするのが怖いのは、受け入れてもらえなかった時に酷く傷つくから。それでもそんな秘密を打ち明けるのは、その恐れ以上にその人を深く信頼しているから。

クリスの瞳を見つめてジョシュアが言った。「少しずつでいい……お互いを知っていこう。」その言葉にクリスが照れた様子でコクっと頷いた。キラキラと輝く満天の星空の下でキスをする二人を、ウェアとリーパーは何も言わずに微笑んで見守った。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Dusk to Dawn ダスク・トゥ・ドーン 始まりの章 goro @goro-father-in-my-heart

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説