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 その答えを聞いたジョシュアの瞳が嬉しそうに笑った。まだ友達の関係から上手く抜け出せず、でもそれだけではもう満足もできず……そんな気持ちは互いにあった。目が合うと少し照れくさくなり、視線を逸らされると何だか寂しくなる……。

ジョシュアが自分の小指にはめていた指輪を外した。金の指輪の分厚い淵には美しい模様の彫刻が、そして真ん中に堂々とはめてある大きな楕円のルビーが、まるで王座に座る王様の様に貫禄を表している。




ドラキュラ

「手、かして。」



ミイラ男

「………?」




 戸惑いながらそっとクリスが差し出した左手をジョシュアが優しく掴み、その薬指に指輪をはめた。そしてそのままその手を自分の口元に持っていき、クリスの瞳をじっと見つめながらチュっとキスをした。




ドラキュラ

「今日からお前は、俺の恋人。」




 クリスの心臓がドクン……と大きく高鳴り、頬が熱くなってゆく。夢でも見ているのだろうか?恋物語のワンシーンのようなシチュエーションに思考が上手くついていけず、クリスは反射的にジョシュアを責め立てた。




ミイラ男

「ジョシュお前上手すぎ……絶対慣れてんだろ!」



ドラキュラ

「何が?」




 喜ぶどころかふてくされてしまったクリスを不思議そうに見つめる。とても大切なことだから、心を込めてちゃんと伝えようと思ってやったことが……返って彼を嫌な気持ちにさせてしまったのだろうか?




ドラキュラ

「喜んでもらえるかなぁーと思ったんだけど……俺、何か気に障ること言った?やっぱりもっと男らしく方が良かった?」



クリス

「……すげぇ感動した。泣きそうになった。」




 口を尖がらせて「ちくしょう……」と呟きながら岩の上の小石でカリカリと落書きをする。話の途中でも、ジョシュアがキスを求めるとクリスもそれに応じた。話をしては、キスをして、また話に戻り、忘れた頃にまたキスをする……。今のジョシュアには、まん丸に光る月も一面に広がる街の夜景も、クリス以外は何も視界に入らなかった。




ミイラ男

「お前らって本当に血飲むの?」



ドラキュラ

「うん、飲むよ。」



ミイラ男

「……グロ!マジで?」




 一瞬引きつった表情を見せたクリス。その反応からして、やはりこれは吸血鬼独特の習慣らしい。険しい顔をしながらも多少興味があるのか、クリスは続けて質問をした。




ミイラ男

「どうやって飲むの?」



ドラキュラ

「え?普通に、噛んで……飲む。」



ミイラ男

「毎日?」



ドラキュラ

「俺は滅多に飲まないけど人によるな。毎日飲む奴もいれば全然全く飲まない奴もいるよ。」



ミイラ男

「必須ではないんだ。」



ドラキュラ

「んー……分かりやすく言えば性欲みたいなもんかな?飲んだ分だけ長く起きてられるけど、多分ほとんどのヴァンパイアはただ単に味が好きで飲んでるんだと思う。別に飲まなくても普通に食事で栄養取ってれば生きていけるし。」



ミイラ男

「人間の血じゃなきゃいけないの?」



ドラキュラ

「いや、何でも……てか好みだな。俺は動物のは臭いからあんまり好きじゃないけど逆にそれが良いって言う奴もいるし、人間専の奴もいるし。」



ミイラ男

「俺ミイラだからマズそうだけど……俺のも飲んでみたいって思うの?」



ドラキュラ

「思うよ!めっちゃ興奮する、それ考えると!……だからあんまりその話しないで。」



ミイラ男

「へぇ~そうなんだ、何か面白い!ヴァンパイアってほんとに面白い生き物だね!」




 キラキラとその目を輝かせて、興味津々にジョシュアを見つめるクリスの首元をクンクン……と嗅いだ。なぜだかこの少年の体からは甘い匂いが漂う。




ミイラ男

「え、何?俺匂う?臭い?」



ドラキュラ

「いや、良い匂いだなぁと思って……」



ミイラ男

「食べないでよ(笑)」



ドラキュラ

「食わねぇよ狼男じゃねぇんだから。」



ミイラ男

「え、狼男ってやっぱり食うの?」



ドラキュラ

「食うだろ、肉食なんだから……てかお前、他の怪物の知識皆無か。」



ミイラ男

「だって他の怪物の友達あんま居ないもん俺。バーで会ったばっかりの奴にいきなり君ってやっぱり肉食うの?とか言えないじゃん!」



ドラキュラ

「確かにな……じゃあもう一回飲み直そうよ、俺の友達紹介するわ。」



ミイラ男

「え……じゃあ俺はリリ誘ってみようかな。」



ドラキュラ

「リリって?あの魔女?」



ミイラ男

「うん、もう一人ノアっていうミイラ男仲間が居るんだけど、そいつは今永眠中だからしばらくは会えないんだ。」



ドラキュラ

「あー、あれって何なの?儀式みたいなもんなの?何かめっちゃ寝るよね、二百年くらい寝てない?」



ミイラ男

「うん、正式な名前はRAPって言ってRest and prayレスト・アンド・プレイの略なんだけど、俺らはあだ名で永眠とかって言ってる。本家のがっつり信仰派な奴らがやるんだよ。」



ドラキュラ

「え、RIP……レスト・イン・ピースじゃなくて?」



ミイラ男

「ぷっ………お前それ本家のミイラに言ったらぶっ殺されるよ?(笑)」



ドラキュラ

「え、ウソ……タブーなの?気を付けよ……」




 ハハっと笑うクリスの手を取り大岩から足を降ろすと、彼の指に自分の指を絡ませる。恥ずかしくて落ち着きが無さそうにしているクリスの頬にキスをして、「……行こ?」と優しく微笑んだ。




ドラキュラ

「……で?何でRIPじゃなくてRAPなの?」



ミイラ男

「別に死んだわけじゃなくて、ただ長期間眠ってるだけだからじゃない?あくまでもあの儀式のモットーは、少しの間眠りながら神に祈りを捧げましょうね。っつー事よ。」



ドラキュラ

「あぁなるほどね、だからプレイなのね。え、じゃあお前もそのうち永眠すんの?」



ミイラ男

「しないよ、俺の家系はそこまでこだわってないから、基本的に自由。」



ドラキュラ

「へぇー、面白いね。」



ミイラ男

「てかさ、さっきポールがお前がターナー家だとか何とか言ってたじゃん?何、お前ん家ってそんなに有名なの?」



ドラキュラ

「まぁボンボンだろうな、親父の特殊能力のレベルが超人並みでさ、なんつーか………探偵みたいな事やってんだよ、それで成功したんででっけぇ屋敷建てて色々顔も知られてて……。」




 ごにょごにょと曇らせた様に喋るジョシュアはどうやら自分の家庭の事をあまり話したくはないらしい。




ミイラ男

「何でそんな良い家出ちゃったの、お前?」



ドラキュラ

「いや別に、喧嘩したとか絶縁したとかじゃねぇよ?今でも十年に一度くらいは親の顔見に帰るし、ただ単に退屈だったから外の世界に出たかっただけだよ。」



ミイラ男

「そんであのおんぼろな廃教会に住み着いたの?」



ドラキュラ

「住み着いたってそんな……ドブネズミみたいな言い方やめてくれる?」




 入り口の押戸を開けバーに入ると二人は一旦別れ、互いに自分の友達を探しに行く。





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