第二話




 「おはよ〜」

 「あ、おはよ〜」


 教室内はいつも騒がしい。横目で挨拶をし談笑するクラスの子達を流し、自身の机に向かう。


 「おっはよ!リンくん!」

 「うわっ……って、アズサ……いきなり後ろから抱きつかないでくれよ」


 僕は苦笑しつつ挨拶をする。


 「えぇ〜いいじゃん。どうせリンくんなら受け止めてくれるしさ」


 軽くむくれる様な顔をしつつもそう言うアズサ。相変わらずおしゃまなことだと思い、そっと離す。


 「あ…」


 と声が聞こえた様な気がしたが聞こえてないふりをし、椅子に座りながら鞄を置く。


 「も〜ほ〜んとそっけないなぁリンくんは」

 「君はもう少し淑女然とした態度になりなよ」


 肩肘をついてアズサを見ながら軽く微笑う。教室の灯りに照らされる彼女の綺麗な碧みがかった金髪に目を細める。



 「はぁい、それじゃあ二人一組になってね〜」


 先生の言葉で各々が動き始める。


 「あ、なぁリン。組まねぇか?」

 「あ、いいのかい?ありがとうジ……」


 お礼を言おうとした瞬間に袖を引かれる。


 「ごめんね〜ジンくん。今日、あたしと組む約束してるんだ」

 「マジか。悪いな誘っちまって」


 右手を顔の前で片手で拝むような形で謝るジン。


 「いや、全然謝らなくてもいいよジン」


 というより、そんな約束した覚えないんだけどなとジト目をアズサに向けるがどこ吹く風といった態度で「さ、一緒にやろ!」と言う。


 「はぁ〜はいはい、わかったよ」




 氷で出来た矢が向かってくる。僕は顔を右に傾けつつ躱し、お返しとばかりに同じ氷の矢をアズサに射出する。


 「なんの!」


 ニッと笑い彼女は焔の剣で叩き斬る。———そう。彼女はダブルキャスト。つまりは二つの属性を操ることができるのだ———そして距離を詰めてくる。僕は左手に握る獲物———太刀の柄を握り、あと一歩踏み込めばその焔の剣が届くであろう瞬間に太刀を抜き放ち逆袈裟の状態で受け止める。


 「ぅえっ!?嘘、なんで受け止め切れるの!?」

 「鞘から出した瞬間に氷の冷気で包み、それを断続的に続けてるだけだよ」

 「ま、魔力保つの?」

 「それだけなら全然平気だよ」


 ジュゥゥゥと刃を合わせたところからそんな音が響くが次第にその音が小さくなる。


 「アズサ。冷やされ続けた刃って摂氏何度なんだろうね。その剣しっかり保持してないと………」

 「………っ!?」


 僕は不敵に笑い、振り抜く。アズサは飛び退き真っ二つになった焔の剣を見る。


 「まさか真っ二つにされるなんて……」

 「僕は『これだけしか出来ない』しね」


 僕は鞘をそっとその場に置き、下段に構えアズサを見据える。実際、僕は魔法は氷関係の属性しか使えない。しかも魔力もそれなりでアズサと比較すれば魔力量は断然彼女の方が上だ。


 「行くよ」

 「ふふ、来なさい。今日こそ勝ってやるんだから」


 僕はフッと笑い返し、上体を倒しながらも突進する。するとそれを読んでいたようで氷と焔の二種類の矢が複数飛んでくる。それを躱しつつ太刀で斬る。


 「……疾っ!」


 ほぼ水平に踏み込みつつ薙ぎ払う。瞬間———。


 「消え……」

 「せぇやっ!」


 そう。それは幻影で陽炎のように揺らめいたのだ。その奥から本体であるアズサが焔の剣が垂直に振り下ろされる。僕はすでに太刀を振り抜いている。だがまだ動く。僕は鋭く息を吐き、左手を地面につき彼女の足を刈る様に軸足を蹴る。


 「きゃっ!?」


 体勢を勿論崩した彼女に追い討ちをかけるように右手首を握り、そのまま床に組み伏せる。


 「あっぶなかった……けどこれは僕の勝ちでいいよね?」


 真下にいる彼女を見る。


 「うぅ〜負けたよ〜」


 その声を聞き、僕は彼女の上から退いて立ち上がる。屈んで左手をアズサに向ける。


 「うぅ〜また負けたぁ〜」

 「僕はたまたま隙をつけただけだよ」


 手を掴んで起き上がる悔しがるアズサに苦笑しつつ手を離し、鞘を置いた場所に戻り鞘を手に取り納刀する。


 「それに」

 「それに?」

 「魔法の面で見たら、僕より君の方が断然優秀だよ」


 実際事実である。魔法は苦手だ。だからこそ僕は剣術———剣術だけで進んでいこうと決めたのだ。



 実習後僕は学園の敷地内にある図書館棟に来た。僕が参加する授業は今日はもうないしそのまま手持ち無沙汰になるのも嫌だったからだ。


 「…………………」


 前後左右本棚に囲まれた本独特の匂いに包まれつつ階段を上がり手近の本棚から本を一冊手に取る。どうやらこの本棚は錬金術に関する本棚の様だ。剣一筋の僕には縁遠いものだけれど、手に取った以上読まざるを得まい。

 静かな空間にただ本の頁を手繰る音が響く。そんな時。


 「錬金術に関心でもあるのかいリン」

 「………っ!」


 本棚に背を預けつつ読んでいたため耳許で声が聞こえるまで気づかなかった。僕は思わず息を飲んでしまうがゆっくりと右側に顔を向ける。


 「驚かせてしまったかな?申し訳ないね」


 そこにいたのはここの図書館棟の噂たる所以の人だった。


 「……えぇ、まぁ驚きましたけどね………ユナリさん」


 

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