第一話




 「………疾」


 静謐な空間に響く風斬り音と少し低い声。それが立て続けに二度、三度。残心をとりゆっくりと体を起こし、刃渡りの長い片刃の剣を二度ほど血振りしてから鞘に納刀する。

 壁に歩み寄りその得物を立てかけながらもタオルを持ち、汗を拭う。


 「———ふぅ……」


 息を吐き道場の小窓から覗かれる視線に目を向ける。左眉を軽く浮かせ首を傾げつつもその小窓を開ける。


 「なんでこんな小窓から見てるんだい?」

 「い、いや……まぁ、その……邪魔しちゃあれかなぁって」


 なるほど。確かにそれは言い得て妙だ。僕は待っててと伝え、小窓を閉め、獲物を刀袋に入れそれを持ちながら道場の戸を開け、道場の方に振り向き礼をし出る。戸を閉め鍵をかけた後、中庭で待っていた彼女に顔を向ける。


 「お待たせ。おはよう———姉さん」



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