第29話

 各地からの被害報告で王宮は混乱していた。地底国家の建国宣言が行われたことも騒ぎを酷くさせた原因の一つだった。前代未聞の大掛かりな魔術が使われて全国民が聞くことになり、王宮への問い合わせが相次いでいるのだ。


 ラファイエは兄たちや帝王からまわされた仕事をしながら、できる限りの情報を集めようとリンエイ家のマイランを呼び寄せた。


「今、外はどうなっている? ――地震の被害については十分聞いているからそれは省略してくれ」

「はい、かしこまりました」


 マイランは目を伏せて軽く一礼した。


「まず、『地底国家建国宣言』で告知された扉というものが帝都にて出現しております。国境にもあると報告が上がっているので、サンライン王国、イエンディ王国の王都にもあると思われます」


 扉の撤去や安全性についての緊急会議が今ちょうど大臣たちで行われている。


「その帝都の扉ですが、四名ほどが破壊して地下へ入っていきました。これについてはリンエイ家以外ではまだ出回っていないかと」


 ラファイエは眉を上げて目を細めた。


「また、先程からメリルで空に島が浮かんでいるとの目撃情報が多発しております。国内で数件、地面に模様が浮き上がっているとの情報が国内で相次いでおります。以上でございます」

「ご苦労だった」


 マイランが一礼して部屋から出ていく。ラファイエはそれを見送り、執務室の窓から外を見た。今朝の地震で庭の木が根から倒れていたり、文官や騎士が慌ただしく走り回っていたり、いつもの美しい王宮ではない。帝都に住む人々の避難は学園の庭園を解放して完了しているらしいから、王宮の一歩外に行けば人もいない。


「まったく、何してくれているんだか……」


 ラファイエは椅子に座り直し、サラサラとペンを走らせて手紙を二通書いた。窓から送り出すと手紙は右と左にそれぞれ空を飛んで行った。


「――地底国家なんて夢があるよね、本当」


 こっちはそのせいで執務に追われているのに、とラファイエはため息を吐いて窓を閉めた。

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