第39話  アキらの説教はしつこい

 それから二人は黙ってアキラの説教を二十分も聞かされた。余計なお世話だなんて言ったら半殺しにされかねない。アキラの前にまるで子供のように正座されられている。

 二人は渋々ゴリラの説教を聞くしかなかった。そうこれがゴリ押しだ。酔いが冷めて、反省と恐怖ですっかり大人しくなった。

 アキラに強引に仲直りさせられた二人は、ママに壊れたグラスなどの弁償と飲み代金を支払って帰ろうとした……が。

「あんたらっ、まだ本当に悪いと思っているんだったらもう少し付き合いよ」

やっと長い長い説教から解放されたと思った二人だがとんでもない事を言い始めた。

ママや他の客も揉め事を起した二人には居なくなった方がいいのに。そう思っていたのに周りの人は怪訝な顔をしてアキラを見る。

これでは、喧嘩した二人は地獄だわなぁ。しょうがなく二人はアキラの前で下手な説教地獄がつづく。


 だが時間が経つにつれて、アキラの本音を理解し始めた。アキラは二人がこのまま帰ればシコリが残り、いずれはこのスナックにも来なくなり店も嫌な雰囲気だけが残ると、リピーター客があるから店は繁盛する。やがて周りの客やママにホステス達も本来の明るさを取り戻した。

 「ねえ、考えてみると喧嘩の理由も他愛のない事だったのねぇ~」

 ママがその喧嘩した二人に優しく声をかけた。

「いやママ、本当にすまないストレスが溜まっていたのかも知れない。それから宮さん、今日は俺が悪かった」

「いや、俺の方こそ話合ってみればアンタいい人だ」

 かくして今宵のスナックは笑い声に、溢れる暖かい空気が流れていた。

 アキラはママに感謝され、喧嘩を始めた相手にも感謝され、あげくに二人はアキラの手を取って「ありがとう」と言われた。

 二人から名刺まで渡されたのだった。のちに、この名刺をくれた一人の男と後に再会するが今はまだ気付く筈もなく。


 アキラは閉店近くまで店で飲んでホテルに戻る事にした。

「山城さん、また来てね。今度きたら、お店を無料貸切で飲みましょう」

 ママに最大限のありがたい言葉を貰って、スナックをあとにした。アキラは旅に出てから最高に気分が良かった。ホテルの部屋に入って、ひと風呂浴びてから寝ようとしたが? 

 少し松野早紀の事が気になった。こんな時間に女の部屋をノックするのも気が引ける。夜這いに来たと思われないかと、仕方なく部屋へ内戦電話を入れた。

プープープー何度電話しても出ない。もう寝たか? しかし気になってフロントに電話を入れた。

「あーもしもし、七百十二号室の松野さんは?」と聞いた。

「あーそれでしたら友人の方と一時間ほど前に外出しておりますが」

「えっ、それは男ですか」

「ハイ三人程の男性の方達ですが」

 アキラは舌打ちした。しまった! ヤラレタッ。アキラは隣の七百十二号室を開けて欲しいとフロントに頼んだ。その部屋の中は案の定、物が散乱していた。

 だが早紀の荷物はそのままだ。やはり強引に攫われたのに違ない。


つづく


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