第29話 アキらの珍道中始まる。

 車は箱根を越えて静岡に入る。東海道五十三里のコースだ。

 ここで少し東海道五十三里のコースに大まかに触れて見よう。

 まず基点は日本橋-川崎-藤沢-箱根-沼津-吉原-丸子-掛川-浜松-岡崎-桑名-亀山-草津-京都と続く。昔は数々の宿場町が賑わったと言う。

 車は沼津に差し掛かった。ここには武田勝頼が戦国時代に戦略の為、海岸にあった松を全部切り倒したと言う。それにより海から風をモロに受けた。漁民たちが大変な苦労をしたとか。

 のちに寺の住職を先頭に、お経を唱えながら一本、一本植えて行ったと言う。それが千本松の由来とか。千本松から沼津から田子の浦まで今でも延々と続く、それはそれは素晴らしい眺めである。


 時折休憩しながらのノンビリ旅、やがて車は浜松市内を抜けて浜松市の外れ舞坂に着いた所で今日の宿を探しことにした。宿はすぐに見つかった。西に浜名湖と東は太平洋が見える七階建ての立派なホテル風だ。窓からは松の木が見える。その先に砂浜と波しぶきが見える。部屋からは見えないが後ろには浜名湖が見えるはずだ。

 ここは、うなぎの養殖場が沢山あり景観は最高だ。

 昨日と同じようにビールと料理は旅の楽しさを満喫させる。

まだ若いのに定年退職した人の人生を振り返る一人旅ようだ。

 翌朝、アキラは大浴場の朝風呂に入り、九時過ぎチェックアウトを済ませてロビーを出掛かった時、後ろの方で何やら泊まり客が騒いでいた。

 どうやら風呂から上がって出ようとしたらサイフが無くなったと言う。

 なにせ、アキラは成金の暇人だ。よせばいいのに興味本位にアキラの好奇心が邪魔して騒いで居る方に引き返したのだった。

  (あ~~ぁまた、この男、問題を起こしそうな予感が)


 朝のこの時間はチェックアウト時間が迫ってくるとフロントは忙しい。

 そこに客がフロントに来て騒ぎ立てたのだから尚更だ。

 フロントスタッフは、他の客の手前もあり対応に困っていた。

 其処に野次馬根性丸出しの、大男の暇人が来た!!

「どうしたのです?」

アキラは大騒ぎしている女性に訊ねた。

と、いきなり、その女性は「あ~アンタが盗ったのね、早く返して!」

「ちょ、ちょっと何、言ってんですか」アキラは慌てた。

 (ホラッ見ろ、言わんこっちゃないかアキラ)

そこにフロントスタッフが割り込んだ。

「まぁまぁお客様、すぐ探しますのでこちらへどうぞ」

案の定、フロントの周りは黒山の人だかりとなった。

「ねぇねぇ、どうもあのデカイ男の人が盗んだらしいよ」

そんなヒソヒソ話が、あっちこっちで囁かれていた。

アキラにその囁きが聞こえ、ピクッと頭のなかで爆発した

「誰だぁ俺が盗ったとか言ったのは!!」

とっギロッとその方向を睨む。まさにそれはゴリラだ。

「すっすいませぇ~ん」と一斉にその場にいた客達は逃げていった。

「ちょっと~~コレってホテルの責任でしょう! どうしてくれるの?」

女はフロントの係りに大声で、吠えまくった声がフロア全体に響く。

アキラも、とんだ濡れ衣を着せられたが、君子危うきに近寄らずだが。

流石のアキラモ退散。巻き込まれかけたアキラはホテルを出た。

遠巻きにしていた客はアキラが犯人じゃないことが分かり何故か、ガッカリしたように散っていった。

    (格言)# 野次馬根性 馬に蹴られても保証なし#


つづく


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