第28話 第三章 アキラ旅に出る

第三章 アキラ旅に出る


山城旭二十六歳と二ヶ月、青春まった中である。

とにかく今は幸福の頂点にいる。但しこの幸福とは金があるからで、真の幸福を意味しない。ただ先のことは神のみが知る。

目的地のない終点のない旅、言い換えれば滅茶苦茶な旅だ。今回の旅は真田小次郎以外、誰にも知らせていない。

マンションも前払いで留守とは言え、とやかく言われる事はないがマンションの管理人には、しばらく留守にする事は伝えておいた。

特に何もないとは思うが念の為、携帯電話の番号を知らせてある。

アキラの新車は新車特有のいい匂いがする。もちろん新車を買うのは初めてだが。アキラは都内から第三京浜道路を、横浜から国道一号線を西へと向かう。

急ぎ旅じゃないので高速道路ばかり走る理由もない。車は湘南海岸へと出た。空は晴れわたっていた。

海岸を見るとウェットスーツを来た若者がサーフィンをしている。

そろそろ木枯らしも吹く季節というのに、まったく関係ないらしい

同じ世代のアキラは特に寒いだろうかと言う思いはなく勝手にやってろだ。

しばし車は海岸添えに湘南バイパスを走る。

そこから暫らく走ると小田原市に入った。その先は箱根方面に進路を変え一時間半ほどで芦ノ湖湖畔にさしかかった所で車を降りた。

季節外れのせいか、あまり観光客はみあたらない。

紅葉も終り掛けているが此処だけではあざやかだ。カエデが見事な赤い葉に変って心をなごませる。アキラは今日の宿泊を此処でとることに決めた。

予約はしてないが部屋は空いていた。

ここは有名な温泉地ではないので風呂は期待できないが、それなりの客を満足させる料理と湖畔の眺めだった。昨日は久しぶりの運転のせいか良く眠れた。

朝九時にチェッアウトして支払いを済ませた。その金額二万七千六百円。

いまのアキラには、ほんの小銭にすぎない。金銭価値が麻痺しているようだ。

最初に解雇された頃は一万円が大金だったのに、人間こうも変るのか? アキラは再び南に向かって車を走らせた。

なんの目的もなく、何も考えずに心の赴くままの旅は始まったばかりだ。


つづく

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