第24話 アキラ 退職届提出

 当った宝くじの一部三百万を母、秋子に喜んで貰おうと渡しが、悪い事をして稼いだ金と誤解され実家を飛び出したアキラ。板橋のボロアパートに戻って来たアキラは深く傷ついていた。

「なんだいお袋の奴! ようし、こうなったら好きな事をしてやるぞ~~」

 真面目で純粋ではあるが単細胞の持ち主である。ついに自暴自棄になったアキラ。ゴリラと異名をとるアキラは檻から放たれた野獣となるのか? せっかく浅田美代と社長である相田剛志の恩恵を受けながらも退職する事に決めた。人の親切を無にする行為とは分かっているが最愛の母から疑われた事が許せなかった。大金があるのに働く理由あるのか勿論働くことに意義があるのだが、今のアキラは働く気力をなくした。


 翌日、西部警備の本社へ出向き、あの嫌な総括部長に退職届を提出した。

 それを見た総括部長がまた、嫌味でも言うのかと思ったが

 何も言わずに怪訝な顔をして受け取った……いや言えなかった。

 今日はとても嫌味なんか言えるような雰囲気ではなかったアキラだ。

 アキラの殺気めいた顔をして、総括部長を睨むように渡したのだから。

アキラは総括部長にペコリと頭を下げると、そのまま本社をあとにした。

総轄部長は、流石にアキラを一人の判断で採決できずに社長室を訪れた。

 「失礼します」とノックする。社長室の奥から入るようにと声が聞こえた。

「おはようございます。社長……実はですが……」

 そのまま越を折り曲げて社長の机にアキラから預かった退職届を置いた。

「退職届? なにかねこれは君が辞めると言うのかね」

「しゃ社長! めっそうも有りません私のじゃなく、あのゴリ……いや、やっ山城くんの物であります。社長の温情も考えずに失礼にもホドがあります」

「よしっ分かった。しかしだな、君も社員に怒鳴るばかりじゃなく、ひとりひとりを把握して相談に乗ってやる事も君の役目じゃないのかね」

「ハッハイ申し訳御座いません。これからそのように致します」

 総括部長にはとんだ、とばっちりだ。百十度に越を折り曲げて社長室を出て行く。

社長宛てに退職届けの他に一通の詫び状が入っていた。


【突然このような退職届を出した事に心からお詫び申し上げます。先日、社長と浅田さんの御好意には大変感謝しております。 そして生涯忘れる事の出来ない程に心が癒され胸がいっぱいでした。 私も社長の期待に応え頑張る覚悟でありましたが、今回の退職は家庭の事情に依り、自分の人生に疑問を抱いております。つい先日、母と揉めまして改めて見つめ直し時間が必要と感じました。誠に身勝手で恐れ多い事とは思いますが機会があったら相談に乗って頂ければと存じます。いずれ心の整理が出来ましたら、ご挨拶に伺いたいと存じます。社長のご好意に背く形となり申し訳御座いません。繰り返すようでは有りますが社長と浅田美代さんへのご温情は今でもそしてこれからも胸に刻まれる、お言葉でした。きっといつかは、そのご恩に報いたいと思います。そして本当に、本当にありがとう御座いました】 

山城旭


つづく

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