第21話 アキラ客の喧嘩を収める
目の前では興奮した客同士が激しい殴りあいになっていた。
見かねた他の客が一一〇番通報しようと携帯電話を取り出していた。
そこへアキラは「お客さん、ちょっと待って下さい、いま収めましから」と携帯電話を持った手をグローブのような手で優しく制した。
そして取っ組み合いの二人の襟をムンズと掴んだかと思うと左右の手を一気に上に持ち上げた。二人は宙吊りになり足をバタつかせた。なんという怪力だろう。
驚いた二人はクレーンで吊り上げられたと思ったようだ。
「お客さん、もういいでしょう仲直りして下さいよ。 分ってくれるかい。 それとも放り投げますか」
二人は吊り上げられたまま「わっ分かった。分かったから降ろしてくれ~~」
客は何者かと驚くばかりだ。周りにいた人も唖然として、その光景をみていた。やがてアキラは言った。
「みなさぁん、お騒がせしました。今日は僕のおごりですから飲み直しましょう」
アキラの母、秋子はビックリした。喧嘩を収めてくれたのは良いけどそんな金、安サラの息子に何処にあるんだ。と心の中で叫んだ。
しかし言い出した以上、酔った客はしっかりその気になっている。
「まぁ母さん心配すんなって、多少は持っているから大丈夫だよ」
と胸を叩いた。両手で胸を叩けばもう本物のゴリラと同じだが?
「へぇ女将さんの息子さんかい。こんな立派な体格で凄いね。これじゃ喧嘩したら息子さんすっ飛んでくるかもな」
みんなはゲラゲラと笑った。だがこんな用心棒が居るなら喧嘩は出来ないが客を守ってくれるだろうと思ったのかも知れない。だがそれだけではなかった。アキらも客と一緒に飲んだが笑わせてくれる。話術が上手いのか客はアキラの話で楽しそうだった。
いまはもう殴り合いとなった客も酒の上の事だと言う訳で楽しく飲んでいる。
それでもまた始めようものならゴリラに半殺しにされる恐れもあるからだろうか。
客達はみんな〔居酒屋 秋子〕の常連客達だ。評判が悪くなれば当然に客足は途絶える。母秋子は嬉しそうに客達が飲む姿に安堵している
それにしても久しぶりに会った息子アキラは少し逞しく見えた。
つづく
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