第20話  アキラお袋に会いに行く

ここは東京、北区赤羽。埼玉県の川口市と荒川を挟んだ所にある街だ。

 其処にはアキラの、お袋が小さな居酒屋をやっている。繁華街のはずれに古ぼけた提灯に灯りが入っていた。暖簾面倒みの良いお袋とは言えなく、ぶっきら棒な所はあるが優しかった。

 幼稚園くらいの時だ。親子三人で鎌倉に海水浴に行った思い出がある。

  それが唯一の思い出かもしれない。それ以外に記憶に残るのは両親のいつもケンカだ。今、思うと子供の事は考えず、身勝手な親だったと思う子供なりに傷ついた。

 そんな父はとうとう家族を捨てて行方知れず。おかげでアキラは大学を中退し働くしかなかった、どうして、もっと家族を大事にしなかったのかとアキラは嘆く。


 親子三人仲良く暮らせたら、ポンと両親に一億円くらい渡して父と母の喜ぶ顔を見たかった……なのに家族は崩壊した。いくら現代っ子とは言え、子供の時の環境が大きく影響するものだ。親も身勝手に生きれば、子供はそれ以上に乱れた生き方をする。本当はアキラも寂しかったのだろう。体は大きくても繊細な神経なのだ。アキラは一年ぶりに店の前に立った。

 とっ! その時だ。突然、居酒屋の窓ガラスが割れて悲鳴と罵声が居酒屋の中から聞こえてくる。「表に出ろ!!」そのあとから「お客さん止めなさいよ」

 と、お袋の声がした。客どうしの取っ組み合いのケンカだ。

 その客の間に、お袋が割って入ったが弾き飛ばされた。

 そこへガッツリとアキラがお袋の体を支えて言った。 

 「母さんただいま!! どうしたんだい?」

 アキラの母、山城秋子は振り返って見上げた。

 「アキラじゃないの? ちょうど良いところへ来てくれたねぇ、お客さん同士が酔っ払って喧嘩になってさぁ、本当に時々コレなんだから困っちゃうよ」

 今日のアキラは冷静だった。普段はおとなしいが、なにせ短細胞の持ち主である。

 一旦キレルと手に負えない性格だ。この体格だから誰にも止められない。


  つづく

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