第19話  高額当選者に配れる小冊子(その日から読む本)

 銀行から無料で配られる「一千万円以上の高額当選者」にのみ無料で配布されるという小冊子がある、それは(その日から読む本)である。間違った使い方をしないように心得が書かれている。その一部

  受け取った当せん金は、とりあえず安全な場所へ

  安全のため、当せん金は銀行等の口座へ

  絶対に必要でない限り、現金は持ち帰らない

  当せん証明書の発行を依頼しておく

  暫くは仕事を辞めず普段通り働く。


一週間後もう襲われても心配がない。山城旭名義の大金が、銀行口座に記録された。

 事実である証拠に、証明書と二億円の定期預金と一億円の普通預金通帳がアキラのカバンにしっかりと、入っていた。しかしアキラはこれから会社に行って仕事をしなければならない。アキラはまた不安に襲われた。この通帳を持ったまま仕事を出来るのか、いや『仕事なんかどうでもいいじゃないか』そんな心の葛藤が始まった。

 そう思ったがやはり、そうも行かないだろうと悩んだ。結局カバンを大事に持ち歩くしかなかった。アキラは、心配しながらもいつも通り銀行の警備に着いた。

 「大城くん最近様子が変だけど何処か悪いのか」と同僚に優しく声を掛けられたが まさか宝くじが当り、銀行に三億円貯金してきた。など言えない。

 落ち着かない一日だったが、なんとか今日の勤務は終えた。アパートに帰ってホッとはしたものの、やはり落ち着かない。それに通帳とカードをアパートに置くのも危険だ。どうすれば良いのか少ない脳で考えたが結論が出るまでもなく、他人からみたら何と嬉しい悩みと思うだろう。また今夜も眠れないのだろうか、寝不足で目にクマがいやこの場合はゴリラに熊が遊びに来たのかも知れない。

 誰かに打ち明ければスッキリするだろうが、誰かに話せば楽になるが。

 そうだ! 久しぶりに、お袋の所へ言ってみようか母の顔が浮かぶ。

 やはり、なんと言っても親子関係は大事にしなくては、今更感じるのだった。


 アキラは両親が離婚してから一人暮らしを始めたが父は未だに行方知れず一人っ子のアキラは母とも最近は連絡が途絶えている。お袋も離婚して、かなり落ち込んでいたが挫けることも無く頑張っている。

 母はもう五十二歳になる少しは楽をさせてやってあげようとアキラは思っていた。

 お袋は息子より娘が欲しかったじゃないかな? 息子じゃ話し相手にもならない。

 そう思うとアキラも何ひとつ親孝行らしい事はしていない駄目息子だが、お袋を喜ばせようと母に逢いに行くことを決めた。なんとか一周間働いて休みの日まで頑張って仕事をした。 やはりその間、熟睡が出来なかったが心は充実していた。

 そして今日、始めて預金を一部降ろすことにした。

 銀行に聞いたら貸し金庫が便利だと教えられ通帳や印鑑など大事なものは、みんな貸し金庫に預けた。世の中には金さえ出せば便利なものだなぁと改めて感じたアキラだ。


つづく

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