第18話 山城 旭 本日より 億万長者なり!!

路上で手をあげるとス~~~とタクシーがアキラの前に停まった。

 「〇〇銀行に行ってくれ!」そう運転手に告げた。

 「……お客さん〇〇銀行なら歩いて十分もかからないですがね」

 「いいからチップ出しから行ってくれ!」アキラは例え五分でも心配だったのだ。

 運転手はそれ以上、何も言わなかったが、殺気だったアキラを見て。

 これはきっと犯罪に絡んだ人間だ。逆らったら命が危ない。と思ったか?

 そして銀行の前に着いた、アキラは千円札を渡した。

 当時初乗りが六百六十円だが釣が三百四十円をアキラはチップと言った?「ありがとうございます」と運転手は頭を下げドアを開ける。 しかしアキラは降りず怒鳴った、。

 「オイッ釣りだ。釣りはどうした。ああー」

 「へっ? お客さんチップをくれるかと」

 「ああ? そんな事は知らん! オメェ俺が、気が弱いと思ってナメてるのかぁ」

 「ひぃーお客さんとんでもねぇ、ハッハイお釣りですー」

 「まぁな誰でも勘違いはあるさ、今日の俺は気分がいいからな、ありがとよ」

 とんでもない事だ。アキラは自分が言った事など覚えてなかった。

 タクシー運転手は呟く、なんだぁ嘘つき危ない男だなぁ強盗でもするじゃないかと。

 だが内心、命が助かっただけで儲けものだとホッとする。

 つり銭を受け取ったアキラは周りに注意を払いタクシーから降りた。

 アキラはサングラスをかけている。カバンをしっかりと両手に持って左右の確認、危険人物なし! 注意には怠りない万全の態勢だ。

 おいおいアキラ! 危険人物って誰だぁ自分じゃないのかい?


 アキラは銀行に入って行った。一斉に周りの空気が凍りついた。

 百九十八センチの長身にサングラス、顔は興奮し引きつっている。

 誰が見ても銀行強盗に見えた。

 当のアキラは、そんな雰囲気に気付くはずもなくカウンターへと進む。

 そのカウンターの女子行員が「ヒィーーー」と声をあげそうになる。

 そこに銀行の警備員が駆けつけそうになったが……

 そう、アキラは強盗に来たのではなく宝くじの当選金の換金に来たのだ。

 しかし厳めしいゴリラ顔に、この体格でサングラスと来た。

 奪った現金を入れるカバン? 条件は整っていたから無理もない。

 だが、アキラはサングラスを外して行員にボソボソと囁く。

 「あの~~宝くじの事ですが……」

 その女子行員は引きつった顔を営業用の笑顔に切り替えて

 「ハイッ、それでしたら、お二階の方へどうぞ。私がご案内いたします」

 周りの空気が、やっと軟らかくなった感じがしたが。

 あの人は高額当選者だわ、きっと。そんな囁き声が聞こえた。


 アキラは行員の案内に従って、応接室に通された〔念の為に取調室ではない〕

 「では、お客様、宝くじ券を拝見させてくださいませ」

 と言って、アキラから宝くじを預かって奥の方に係りの人が消えて行く。

 しかしアキラは不安になった『お客様残念ですが当選番号には該当しません』

 な~あんて言われたらどうしょう。またまた大きな体が震いを覚えた。

 その緊張の時間が長く感じた。暫くすると係員は、にこやかな顔でこう言った。

「お客様おめでとうございます。前後賞合わせて三億円が当選なされました」

 ウワ~~~やったあ!! たしかにアキラには聞こえた。おめでとうと。

アキラの心臓がバクバクと、今にも飛び出しそうな勢いで激しく鼓動する。

銀行員がまだ何かを言っているが良く聞こえない興奮して耳に入らない。

「お客さま? 大丈夫ですか?」

と親切に冷たい水を持って来てくれた。 一般サラリーマンの平均年収は四百万から六百万円とされている。但し四十代後半から五十代が一番高く六百万。二十五才なら三百五十万弱である。

 しかし現実は大企業の社員、そして重役などの高額な年収を含めてであるので一般庶民のサラリーマンは六百万円に満たないのが大勢いる訳だ。

 単純計算で給料五十年分に相当する三億円なのだ。 金には一生、苦労しなくて済むが但し普通に暮らして行けばだが。 しかし人間は普通じゃなくなるのだ。 人と言う者は大金が入ると、それなりの生活をするものだ。


 アキラは「あ、ありがとうございます」と応えた。

「お客様、運転免許証または健康保険証と印鑑をお持ちでしょうか?」

それはアキラも心得て、ちゃんと用意して来ている。

「お客様、本日は当選確認と手続となり後日現金に換金も出来ますが、それでは受け取るまで一週間程度の時間を要します。受け取りは現金または預金と、どうするかは自由で御座いますが安全の為に当行に、お預けになるのが肝要かと思いますが、いかがでしょう」

 「ハ 預金でハイッそうして下さい」アキラは短く答えた。

 「ありがとうございます。それでは、そのように手続させて頂きます。では新しい通帳、カードを作らせて頂きますので暫くお待ちください」

 結局アキラは二億円を定期にして一億円を普通預金にして、全ての手続きを終えた。

 一時間程して、アキラは銀行を後にしたが、雲の上を歩いているようだった。

 翌日からすべてを忘れ無心で働いた。


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