第17話 大当たりして我を忘れたアキラ

 体に似あわぬ小さな冷蔵庫から缶ビールを取り出して飲む。これは美味かった。

 まさに格別の味だ。興奮して喉が渇いていからまさに最高に美味い。しかし気持は 落着かない、何度も、何度も宝くじを眺める。

 狭い殺風景な部屋も今日ばかりはスポットライトを浴びたように輝いていた。

 まるで歌手がスポットライトを浴びているようにアキラはその主人公になった。


 しかし気持は穏やかではない、誰かに話せば安心する、そんな心境だ。

 アキラに女性には縁のない青春だが、同性の同僚や友人には人気があった。

 以外と面白可笑しく話して皆を笑わせる。出来れば宝くじが当った話しをしてみようか? いやいや我が先にと金を貸してくれと言われたら外見とは裏腹に断ることの出来ない性格だ。逆に貸せ、返えせと友人を失いかねない。普段考えたりしない事が次々と脳裏を過ぎっていった。

 とうとう朝になってしまった。会社に出勤する時間が刻々と迫っている。

 もう会社どころではない。しかし先日、美代と社長の計らいで恩を受けている。

 いくら大金が入るからといって辞める訳にはいかなかった。理由はともあれ礼儀に反する行為だ。

 『そうだ仮病を使って遅刻することにしょう!』

 まあ誰でも考えつきそうだが早速にアキラは西部警備に電話をいれた。

 「あっ警備二課の山城ですが夕べから腹痛を起こして、それで少し遅れますが病院に行ったあと出社したいですが……あっハイそうです申し訳ありません」

 なんとか、ごまかし事が出来たが多少の後ろめたさを感じた。

 アキラは早速、印鑑と身分証明書と当たりくじの入ったカバンを持ってアパートを出た。勿論、周りの注意は怠らない。サングラスに帽子をかぶって準備万端? しっかりカバンを両手に持って、表通りに出る。 

 しかし、余計にヘンに見えるが本人はそれが最良の方法だと思っている。

 最良どころか、怪しげな不審者そのものだ。警官にでも出くわしたら間違いなく職務質問されるだろう。


つづく

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