第15話 アキラ 宝くじが大当たり3億円ゲット
それから三日後、アキラは以前と同じように、まごころ銀行の警備に就いていた。
ただ東口支店から西口支店には代わっていた。その理由は分らないが浅田美代と上司は認めても他の行員がアキラの存在を気にしたようだ。因って美代と会う機会は消えた。新聞や週刊誌でも話題になったし物珍しさアキラを見物来ても困るからだろうか。
そしていよいよ、まさに両手に花と〔彼女と大金〕なる運命の時が近づいた。
アキラは宝くじを買ったのを思い出して勤務が終って、あの陽気な宝くじ売り場のおばさんを訪ねた。既に発表されているがアキラは調べもしなかった。
「おばさんこの間、買った宝くじ当たっているか見てくれるか?」
「おや、この間のゴリ……あっいや……お兄さんじゃないか。一等賞だったね」
笑いながら、おばさんはアキラから十枚の宝くじを受け取った。
「どれどれ。え~~と……」おばさんは当選番号表みたいなものを取り出し調べ始めた。当時はまだコンピューターで瞬時に当選番号が分る仕組みがあったかは不明だが、屋台のような売り場には置いていない。拠って当選番号表と照らし合わせるしかない。
「……???……」
おばさんは沈黙した。更に確認するように老眼鏡をかけて何度も何度も見比べている。
「どうしたんだい? ……おばさん?」
「アワワッ! あっ当たっているよ~~~」
「まさかっ? おばさん一万でも当たっているのかい」
「なっ! なに言っていんだい! お兄さん一等だよ。一等賞だよ」
「またぁ冗談はいいけど、それは冗談がきつすぎるぜ。おばさんよ?」
おばさんはパニック状態になった。アキラも急に一等なんて言われても簡単に信用出来る訳もなく、おばさんのうろたえぶりから冗談ではないらしい。気持が半信半疑になった。
「おっ、おばさん……ほっ本当かい、冗談なら怒るぜ」
「あっアタシも心配だがね。お兄さんホラこの番号とあんたの買った宝くじ見てご覧よ」
このおばさんの動揺ぶりは、とても冗談とは思えない。なら年のせいで見間違えたか。それにしては何度も確認して出した答えだ。確信持てなければ言わない筈だ。
アキラも本当かもと思ったら、急に心臓の鼓動が激しくなった。
バクバクといまにも飛び出しそうだ。益々心臓の鼓動が激しく波打ち、おばさんが指を差した番号表一覧と自分の宝くじ番号を照合し始めた。しかし手が震えて思うように確認が出来ない。
「…………」
「…………」
長い沈黙が続く三回も、四回もアキラは見比べた。
何度見ても組番号も枝番号も、すべて同じだった。更に驚く事に前後賞まで当たっているのだった。いや驚く事ではない宝くじは一定の法則で前後賞は当る仕組みになっているそうだ。もう嘘でも冗談でもなかった。
「お兄さん三億円だよ。今日は朝から良いことが合ったんじゃないの?」
おばさんの言う通り、今日は朝から最高の日が続いていた。
女性に縁のないアキラを解雇寸前のピンチから救ってくれた女神がいた。
彼女の名は浅田美代、本当に天使の女神かも知れないと思った。
「おっ、おばさん、俺をちょっと、ひっ叩いてくれないかい……」
「おめでとう。お兄さん、もう間違いないよ。おばさんも嬉しいよ」
「さあ早くこれを持って銀行に行きな! と言っても今日は閉まっているから明日の朝一番で銀行に行くんだよ。いいかい絶対に失くしては駄目だよ」
「おばさん。これ夢じゃないのかい! まだ信じられないんだ」
「そう思って当たり前だよねぇ、あたしだってまだ信じられないくらいだもの」
因み宝くじ売り場の利益は客が何億当たろうと関係ない。売上金の八%が利益らしい。百万円の売り上げで八万。一千万で八十万となる。ただこの売り場で一等が出たと噂になれば売り上げが何倍に上がるとか。
アキラは、おばさんに祝福されて売り場を何度も振り返りながら後にした。
しかし帰る道のりは周りを歩いている人々が、みんな自分の宝くじを狙って襲ってくるのじゃないかと言う妄想に駆られた。それは無いだろう、アキラが襲っても襲われることは考えられないよ。
きっと誰でも、そう思うかも知れない。人は幸せを感じた時、心が守りに入ると言う。アキラはタクシーを拾って、その巨体を後部座席に沈めた。懐には、お宝である当り宝くじ券が入っている。
つづく
第一章 終
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