第14話 アキラ生まれて初めてのデート
アキラは女性と一緒に歩くのは初めてだ。しかも隣にいる女性は美しくアキラ好みだ。美代は身長一六〇センチ前後、決して大きくはないが小さくもない。年齢はアキラと殆ど変わらず、若い女性に見られがちなチャキチャキした感じもなく、どことなく品がある。どこかのお譲さまなのだろうか。二人は駅近くのレストランに入った。ちょうど昼どきだが意外と空いていた。二人は椅子に腰掛けてメニューを見る。しかしアキラはレストランなど無縁の世界だった。ましてや若くて綺麗な女性と入るなど夢のようだ。
結局は彼女と同じ物を頼んだ。アキラは果たして食事が喉を通るのかまるで夢の世界に居るような錯覚を覚えながら落着かなかった。
「あっ申し遅れました。改めて私まごころ銀行の浅田美代と申します」
結構美人だ。笑窪が可愛い。なんとなく気品があり流石は銀行員と感じだ。それでいて控えめな態度に好感が持てる。こんなに可愛いく大人しそうな彼女が頭取や我が社の社長に直談判する行動は、どんな度胸しているか驚くばかりた。
「ぼっ僕こそ名前は聞いていると思いますが、山城旭と申します。よろしくお願いします」
「ハイ勿論存じております。あのう良く聞かれと思うのですが、山城さんって本当に大きい方ですね」
「ハァー良いのか悪いのか分かりませんが、使い道のない身体ですよ」
と頭を掻いた。
「いいえ女性ならともかく逞しくて女性から見て誰でも素敵だと思いますわ」
アキラは、お世辞でも女性に褒められるなんてことは初めてだった。
「まさか今迄まで怖がられても褒められた事ないんですよ」と顔を赤くした。
「ウフフッ山城さんって初心な所があるんですね。そんな所が素敵ですわ」
美代は、くったくなく笑った。
アキラは天国でもいるような気分だ。本来なら今頃は解雇され地獄を味わっていた筈なのに。今朝は解雇される覚悟で出社したのに二時間後には、いままでに経験した事のない幸福の世界に居るのだ。それに先ほどから周りの席だろうか、嫌な視線が感じられる。 チラッと見ていたかと思うと、またチラッと見る視線が突き刺さるように分かる。
たぶん『あの彼女は何処が良くてあんな野獣と』そんな風に思っているのだろうか。
それは当のアキラもそう思っている。ましてや他人は言いたい放題だろう。
アキラは不慣れなフォークを使って時々、美代に微笑みを浮かべ、食べながら何故か雲の上をフワフワと飛んでいるような心地だった。
アキラは不思議でならなかった。お礼をしたい気持は嬉しいのだがそれなら用件を終えた時点で、サッサと帰っても礼に欠けることはないのに、こうしてその美しい笑顔を絶やしことなく一緒に食事をしているのだ。
『もしかしたら?』アキラは一瞬、頭を過ぎったが『まさか俺みたいな男に……』
改めて否定した。太陽が西から登り東に沈もうが有り得ない事だ。
やがて短いような長いような〔人生最高の幸福の時間〕が終わった。
二人は一時間あまりの昼食を終えて、美代を自宅近くまで送った。
勿論どんな家に住んでいるか分からないが、都内でも有名な高級住宅街で知られる一画だった。後で分かった事だが美代はアキラの為に、わざわざ有給休暇をとって来てくれたらしい。
この浅田美代という女性にアキラは何処か品があると感じていたが、そう遠くない日に分かる事だが、とてつもない財閥のお嬢さんでアキラの人生を大きく変える人物となるのである。既にアキラは幸運を手に入れる運命にあったのだ。アキラは取り柄がないというがアキラの魅力は人を引き付ける魅力があるのだ。既に占い師の真田小次郎、西武警備の社長と浅田美代の心を掴んでいた。
つづく
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