第12話  アキラ運命の宝くじを買う

真田と別れて池袋駅にあるデパートの前を歩いていたら宝くじ売り場が目に入った。アキラはこのかた、宝くじなんて買った事がなかった。

 ましてや、そんなもの当るなんて考えた事もないが今回は自分の運を確認する為にも買うことにしたのだ。まだツキがあるのか無いのか占う為に。

 丁度この時期サマージャンボが発売されていた。それも発売最終日だった。

 「おばさん、当たりそうな宝くじあるかい? 十枚頼む」 

 アキラは軽口を叩いた。

 おばさんも心得たもので「アイヨ! 一等賞と前後賞で三億円だよ」と笑った。

 アキラは大きなグローブのような手から三千円を渡した。

 「ありがとうさんよ。おばさん当ったら飯ごちそうするぜ!」

 「ああ楽しみにしているよ。あんた見たいにでかい身体だからすぐ分かるからね」

 「そうかい、じゃおばさんとのデート楽しみにしているぜ」

 アキラは十枚の宝くじ券を受け取りながら笑って街の中に消えた。

  まさか、のちに仰天するような出来事になるとは夢にも浮かばなかった。

  世の中、何が起きるか分からない。まさにそれが人生なのかも知れない。

  冒頭でも述べたが人間の一生使う脳の活用は一割程度と言うデーターがある。

  もちろん科学者など、特別な能力を持った人間は沢山いるがそれでも数パーセント向上するに過ぎない。つまり細胞は脳に使うだけじゃないのだ。


 しかし『運』これは能力などまったく関係ない。その運も、誰がいつ、何処で、その運が現れるか又、まったく現れない人もいるだろう。人には一生に三度の大きなチャンスが訪れると言われるが、それも運だろうか。

 そのチャンスが、いつ自分に来たのかさえ分からないで一生が終わる人も居る。すべては、神のみが知るのみ。

 アキラらはその神に選ばれた幸福者か、はたまた、その宝くじさえ紛失して、または時効まで忘れて自ら幸運を逃す不幸になるかも知れない。

 今のアキラには数日後に言い渡されるであろう。解雇通知だけが頭を過る。

 前の会社で解雇同然に追い出された、あの日が忌々しく甦るのだった。

 -----哀れアキラ! またしても浪人ゴリラになるのか? -----


 その運命がいま下される。アキラが翌日に緊張と諦めの覚悟を決めて出社した。

 「山城くん総括部長が来るようにって」

 上司の課長から言われた。アキラはすでに覚悟は出来ていた。

 あの真田が言ってくれた言葉が支えだ。「見方を変えればアキラは功労者だ」

 その総括部長室の前でコッコ、コッコあの日と同じようにノックする。

 「入りたまえ!」部屋の奥から貫禄のある総括部長の声がした。

 「失礼します」デスクの前で総括部長が待っていたが、怒鳴る事はなかった。

 「よし、じゃあ一緒に着いて来い」  

 「ハアー? どこに行くのでしょうか」

 「社長室だよ。良く分からんが君を連れて来るように、との事だ」

 そうか社長自ら雇ったので社長が解雇を言い渡しんだな。まあ、どちらでも良いが律儀な人だ。そう思いながら、その総括部長の後ろに続き社長室に入る。

 「社長、連れて参りました」                          

 部長は腰を百十度くらい折り曲げて、お辞儀をした。

 『なっなんなんだ。この変わりようは? 俺には威張り散らしていたくせに』

 いかめしい顔で俺を怒鳴り散らした奴が、社長の前では手もみまでして精一杯の笑顔を作っている。でもこれが出世のコツなのか、嫌だねぇと思った。そこまでして出世したのかと思った。


 社長の机の隣は大きなソフアーセットがあった。

 流石は一流企業の社長室だ。ホテルのVIPルームのように豪華だ。

 そこにチョコンと若い女性が座っていた。何処かで見たような女性だと思ったが。

 社長が笑顔で言った。

 「おう山城くん、久しぶりだな。先日はごくろうさん、まぁ座りたまえ」

 とても解雇を言い渡しにしては、笑顔過ぎではないかと思ったが。

 直立不動の部長はアキラの後ろで、社長の(判決)を至福の時とばかりそのゴリラがクビを切られる瞬間を楽しんでいるように見えた。


つづく


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