10年目の再会
フィンランド国立図書館に着いた。
見上げてもてっぺんが見えないほど高い。
早速中に入り、夢で見た様に歩いていく。
様々な本が置いてあり、館内の匂いも心地良い。
文字は読めないけどカラフルに並ぶ本を見て、夢に出てくる男の子のようにワクワクしてくる。
(あの子もこんな気持ちで見てたのかな。)
何箇所かベンチがあり座れるようになっている。
何人か座って本を読んでいたが、グリーンのコートを着た80歳くらいの女性に目が行く。
女性のすぐ側には、何冊か本が積み重なっていた。
あかりと弥生は、児童書の本棚に辿り着く。
「ここだね。あの本、探してみよう。」
かなりの数があるのですぐには見つからないかもしれない。それでも、あの本は何としても探さないと…。
何冊か出し入れしながら探していく。似たような絵が書かれているのはあるが違う本だ。
30分ほど探しただろうか。
体をほぐすため小さく背伸びをしていると、さっき見たグリーンのコートの女性が近づいてきた。
女性はあかり達にニコッと微笑み、持っている本を棚に戻していく。
(児童書を読んでいたんだ。佇まいも素敵だな。)
少し離れた所から見ていたら、赤の背表紙の本を戻すのが見えた。
少し時間を置いて、あかりはその本を手に取る。
それは夢で見たツリーの書かれた本だった。
「弥生、見つけた。あの本だよ。」
ページをめくると、小さい男の子とその両親がテーブルを囲んでクリスマスパーティーをしている内容の絵本だった。
あかりは何となく懐かしさを覚える。
さっきの女性が振り返り、あかり達に近づいてくる。
「〜〜〜?」
フィンランド語のようだ。話の内容が分からない。
弥生がすかさず英語で話しかけた。
「I'm sorry. Please say it again.」
「I'm sorry.I like this book. How about you?」
「この人ね、この本が好きなんだって。あなたもこの本好きなの?だって。」
「じゃあさ、10年前からずっと見てる夢に出てくる本で、やっと見つかったって話してくれる?」
「OK」
「I've been dreaming about it for 10 years, and I finally found it.」
「That's a strange story.Can you tell me what kind of dream it is?」
「夢の話を聞かせてほしいって言ってるよ。話してみる?何かヒント出てくるかも。」
「そうだね。あそこのベンチに座ろうか。」
3人はベンチに座る。
弥生はその女性にあかりが見た夢の話を話す。
女性は驚いた様子で、あかりを見る。
「Are you okay?」と弥生が尋ねると、
「This woman dreamed of me a long time ago.The boy is my son.」と返ってきた。
弥生も驚き、すぐさまあかりに話す。
「あかりが見てた夢に出てくる女性はこの人で、男の子はこの人の息子だって…」
(まさか、こんな偶然ってあるの?じゃあ、夢の女性は私の母親で、男の子が私で…私はあの男の子の生まれ変わりって事?)
「弥生、男の子は今どうしてるか聞いてくれる?」
弥生は頷き、
「What's the boy doing now?」と尋ねる。
「…He died. He was sick when he was ten.」
「10歳の時に病気で亡くなったみたい。」
「そうなんだ…。もしかして私はその男の子の生まれ変わりなのかな?」
「どうだろう。何か共通のものがあれば可能性はあるかも。」
あかりは少し考え込む。
そして、生まれつき右肘の内側に3個のホクロがある事を思い出す。横に3個並んでいる珍しいものだ。
「私、右肘の内側にホクロが3個ある。」
「言ってみる。」
「There are three moles on the inside of my right elbow.」
それを聞いた女性は「Show it to me.」
と言い、あかりの右腕を指差す。
あかりは袖をまくり腕を見せる。
しばらくそれを見ていた女性の目からは涙が流れてきた。あかりはバッグからハンカチを取り出して渡す。
弥生は女性と話し、その事を確認する。
「もしかして、亡くなった息子さんにも私と同じホクロがあったの?」
「そうみたい。亡くなる時その子がこう言ったって。また生まれ変わってお母さんに会いに来るからねって。」
それを聞いたあかりは堰を切ったように泣き出す。
夢が二人を導き、ようやく再会した親子。
あかりは母親をぎゅっと強く抱きしめた。
あかりが10年前から見ていた夢。
大好きな母親に会うために
男の子が夢を見せていたんだ。
日本から遠い遠いフィンランドへ
会いに行くために。
10年目の記憶 雨上がりの空 @ccandyy
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます