第5話 テツと、男と。(4)終

「いやだから師匠じゃねぇって…」

「ヤスくん…この人は…?」

「あー…なんつうか…俺の部下みたいな立ち位置だ」


というかテツのやつ、


「なぁテツ。そん中には何が入ってんだ?」

「ああ、これはですねぇ…」


「あのー、大事な話してるんで邪魔しないでもらえませんか?」

「おやまあ、そいつは失礼…それで、必要なんです?」


「…随分と話が早いっすね。ざっと400万っすよ。なんですか?お兄さんが代わりに払ってくれるって…」




バラバラバラッ…




テツはなんの迷いもなくアタッシュケースの中身をばら撒いた。

どこから用意したかも分からない大量の札束が、古びた畳の上に落とされる。


「えっ…これ…あ、もしかして、あなたが代わりに払ってくれるってことでしゅか?」

突然の出来事に動揺した男は見事に噛んだ。


「実は宝くじが当たりましてね!400万で済むなら安いもんですよ!…あなたの目的はこれで果たせましたか?」


「…まぁ、はい。これだけあれば十分です」

「それはよかった!あ、お兄さんにちょっと話があるんで、あっしと一緒に外出てもらっていいですか?」

「え?話ってなん…」


テツは男の腕を強引に掴み、店の外へ引きずっていった。

部屋に取り残された俺とスーさん。沈黙が苦手な俺は、なんとか話を切り出した。

「なぁスーさん、こんなこと聞くのは失礼かもしんねぇけど、なんであんなに借金があったんだ?」

「友達の保証人になった…それだけなのよ」

「なんでまた保証人になんかなったんだよ」

「あの人は私の一番の親友だったの。それこそ、借金を肩代わりするくらいじゃ割に合わないくらいお世話になったのよ。まぁ…その人はもう病気で亡くなってしまったけど…」

「だいたいあいつは闇金だろ?まともに払う必要なんてないだろ」


「テツくん帰還しました〜」


俺たちが話していたところに、満面の笑みを浮かべるテツと、テツのあとに続くように男が戻ってきた。男はなぜか青ざめている。


「あの…借金のことなんですけど…」

「はい…?」

細々とした声でスーさんに話しかける男。

スーさんは困惑しつつも返事をした。


「テツさんや上の者と話し合ったんですけど…返さなくてもいいとのことです…」

「え?返さなくてもいい…?」

「はい…取り立てはもうしません…お金はいりません…だから…今までの暴言とか…色々…許して…もらえない…でしょうか…」


震える声で突拍子もないことを言い始めた。

どういうことだ?


「あ、いえ…暴言のことはもう気にしてませんので…」

「よかったですねぇ。優しい女性のおかげで…」

テツはそう言うと男の耳元に口を近づけた。


(命拾いしましたね…)


ちゃんと聞き取れたわけじゃないが、少なくとも俺にはそう聞こえた。


「あの俺、いや、僕そろそろ時間なんで…お邪魔しました…!」

逃げるように店を出ていった男を見送った俺たち。さっきも言ったが俺は沈黙が苦手だ。


「聞きたいことが2つあるがいいか?」

「なんですか?」

「まず…あの金はどこから用意して、なんでタイミングよく持ってたんだ?」

「今のですでに質問2つ分ですよ」

「そういうのはいい。答えてくれ」

「やっぱりあなたに着いてくとなると少なからずお金は必要かなーと思いまして…あなたの口座から…ちょろっ!とだけ…」

てへぺろじゃねぇよ。


「お前どうやって俺の口座から…もういいわキリがないし…2つ目だけど、あの男と何を話してたんだ?」

「いやー…ちょっとね…それは言えないですよ…公の場では…ね?」

テツはスーさんを見ながらそう言った。


「私からもヤスくんに聞きたいことがあるんだけど…」

「どうぞどうぞ!」

「お前が答えるな。聞きたいことってなんだ?」


「テツさん?とはどういう関係なの?」

「えっと…だからその…」

「師弟関係です!ヤッさんのお宅でお世話になっておりやす!」

「ヤッさんって呼び方やめろ。そんでスーさん、別に師弟関係じゃないからな」


「…そうですね…師弟というより…もっとこう…『夜のお世話』をするくらいの…」


「よくわからんがそれだけは言うな絶対に」

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