第4話 テツと、男と。(3)

「なんと!着いていってはいけないのですね?」

「ああそうだよ。ゆっくりしたいんだ俺は。わかったら今日のところは帰ってくれ」

「わかりました…でもせめて、お見送りくらいはさせてもらえませんか?ご主人を見送るのがあっしの勤めでございますので…」

「誰がご主人だ。そんでお前はこの家の使用人でもねぇだろうが。リフレッシュしたいっつってんのにツッコませるな。じゃあな」


こいつとのやり取りがようやく終わった俺は街の方へ…しかしあいつはまだ家の前にいやがる。

進んでは振り返り、進んでは振り返り…

だるまさんが転んだの逆バージョンが始まってしまう。

家の前でハンカチを振るあいつ。いつまで あそこに残るつもりだろうか…




(このへんだけは変わらねぇなぁ…)

懐かしの商店街に足を運んだ俺。都市開発が進むこの街で、昔の姿を唯一崩さない場所といえる。


そういや、スーさんは元気してるかな?


母ちゃんの友達で、この商店街で服屋を営むスーさん。ガキの頃はよく遊びに行ったりもしたっけか。

思い出もそこそこに、俺はその服屋へと向かった。




(…店に来たはいいけど…照明も今にも切れそうだしスーさんがそもそもいねぇな…でも店は開いてるし…まぁ入ってみるか)

年寄りばかりの商店街とだけあって、店で売られてる服は正直どれも古臭ぇ。けど昔のまんまだ…


「…げんにしろよ!」「…せやがって!」

(ん?)


姿は見えないが、店の奥から男の怒鳴り声が聞こえる。何事だ? 俺は足音をできるだけ消して近づいていった。


「予定は今日だつったよな?あんだけハッキリとこの日までに払いますつったよな?」

「ごめんなさい…本当にごめんなさい…」

「謝ったところで金でも出てくんのか?どんだけ待たせりゃ気が済むの?ナメてんの?」


あー…面倒なことになってらぁ…

助けてぇ気持ちは山々だけどよ… こっちは内定ほしさに疲れきってんだよ。




疲れきってるから手短に済ますぞ。




「おーっす。スーさんいるかぁ?」

「…え?ヤスくん…?」

「ちょっと兄さん、どこのモンかは知りませんけどね、いま大事な話してんすよ」

「そりゃ大事な話だろうなぁ、服屋の店主を怒鳴りつけるくらいだしなぁ」


「そうでやんすねぇ」


…ん?…んん?


「テツ!?」

「師匠…やっとあっしの名前を呼んでくれましたねぇ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る