第2話 テツと、男と。
「こんにちは!あっし、テツいいます!」
テツと名乗るその男は、俺が家を出ようとしたところに突然現れた。
「
ただでさえ知らねぇ男の訪問は怪しいってのに、よりにもよって奴はヤクザみてぇな格好で絡んできたんだ。警戒はする。
「あっし…あなたの生き様に惚れやした!」
奴は俺の右手を、両手で強く握ってきた。
「…とりあえず手ぇ離せよ。そんでその『あっし』…?っていう言い方はわざとか?」
「はい!あなたのようになれるように!」
「いつも通りの言い方でいいぞ」
「そうですか?…じゃあ、『てっちゃん』!てっちゃんはあなたの…」
「ちょっと待った。やっぱり『あっし』に戻してくれ。その見た目で自分のこと『てっちゃん』呼びはキツいわ」
見たところ20代前半ってところか。
ゆとりの匂いがプンプンする。
「それでお前は…俺の…生き様?がどうとか言ったっけか。俺の何を見て、その…惚れたっつうか、憧れたわけだ?」
「へへっ、照れてるあなたも素敵です…」
「…ちゃんと答えてくれ。正直言ってお前のことがなんにも分からねぇんだ」
「…覚えてますか?昨日のこと…」
「…き、昨日?昨日か?」
「はい。昨日のことです」
まさかそんなに最近の出来事だとは思わなかった。こういうのって普通、短くても数ヶ月前とかじゃねぇのか?
「すまん、覚えてねぇわ。昨日だよな?どっかで会ったか?」
「そんなっ…覚えてないんですか…?」
奴は漫画みてぇに表情を変えた。信じられないとでも言いたげに、にじり寄った。
「悪いな。昨日の何時ぐらいだ?」
「昨日の、昼の4時ぐらいです」
「…ん?昼の4時?夕方じゃなくてか?」
「え?…ああ!夕方ですね!太陽があなたみたいに眩しかったんで夕方です!はい!」
ますます怪しいな。適当に俺を持ち上げようとしてるのが見え見えで絶妙にムカつくし。
「昨日の4時に、俺たちが出会ったと?」
「はい。昨日のそれくらいの時間帯に、あなたは婆ちゃんを助けてくださいました」
「婆ちゃん…ああ!」
思い出した。歩道を歩いてた婆さんが、原付に乗った男のひったくりに遭って…
「さすがに原付の男を蹴っ飛ばしたのはやりすぎな気もしましたけど…」
「仕方ねぇよ。とっさに出たのが脚だったんだよ」
今思えば、転んだ原付が人や車を巻き込んだかもしれねぇよな…とっさとはいえ…
「もしかして、あんときの婆さんの孫か?」
「いえ、YouTubeです」
「は? 孫じゃなくて婆さんのYouTube?」
「違いますよー あなたがひったくりを捕まえたときの様子を誰かが撮ってたみたいで、それをYouTubeで観たんです」
「…どうやって俺の家を知ったんだ?」
「特定です!」
…ひとまず、言動を慎重にしようと思う。
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