第10話 第一フラグ
おはようございます。朝です。待望の、朝です。
俺は今、王太子とヒロインの出会うお茶会の会場に向かっています。
ヒロインのドタバタ☆愛されライフ!王太子に気に入られちゃった私!一体どうなっちゃうの〜!編でございまーす!
「お兄様?大丈夫ですか?」
「………ちょっとだいじょばない」
ガタゴトと揺れる馬車で、俺はお茶会と言う名の戦場に行く前から既に死にそうだった。
改めましておはようございます。ルイーナです。
最初のは何かよくキャッチコピーみたいだな…。
安そう。
俺のテンションが可笑しいのは車酔いならぬ馬車良いのせいだ。
前世でも乗り物系は必ず寄ったし吐いたりしていたが、まさか転生しても変わらないのには驚きだ。
「ちょっと休めば良くなるよ……」
「そうですか…?」
心配そうに小首を傾げこちらを見るルーチェを安心させようと笑みを浮かべる。
今日はアルバは友人と遊びに行くらしくお茶会に参加するのは俺とルーチェの二人だけだ。
そもそも今日のお茶会は王太子の婚約者候補を見付けるために開催されたのではと噂されている。
まぁ当たりっちゃ当たり……か?
このお茶会は王太子の婚約者候補を見付ける……ではなく王太子の友人を作るために開催された。
泣き虫で城から出られず同年代の友人がいなかった王太子に、彼を弱愛している現王が友人となれる者を見付ける為に開催した。というのが正確だ。
だがゲームではそこでヒロインと出会ったため、ある意味婚約者候補を探していたという噂は合ってはいる。
本来は俺は行かなくても問題は無いが、王太子とのフラグを破壊するためにも今世で仲良くなった俺の友人に会うためでもある。
「お兄様、そろそろ付きますよ」
「分かった〜……」
それにしても、やっぱり見慣れないなぁ。
俺と同じ橙色の目のルーチェは…。
アルバの様な濃い緑の瞳はそれ程珍しくはないが、新緑を彷彿とさせる若草色の瞳の色は貴重であり神の愛娘である事の証明となってしまう。
だから魔法で瞳の色を変えてもらったのだ。
ゲームでは神の愛娘を周囲の貴族に見せるために無理矢理連れて行かれたヒロインだったが、今は両親にルーチェの精神的負担をこれでもかとプレゼンした結果、その手の魔法が得意な母にルーチェが好きだといった橙色にした。
その際に狡いとむくれたアルバと自慢げなルーチェとで一悶着合ったが只々二人が可愛いだけだった。
「んぁ〜〜、やっと着いたぁ……」
「お疲れさまですお兄様」
「まぁ帰りにまた乗らなきゃいけないんだけどな」
あー、空気が美味しいんじゃぁ〜。
乗り物から降りてしまえばすぐに元気になるのは良かった。
長く続いてたら最早何も出来ないし動けなかっただろう。
馬車から降りて会場に向かえば、着飾った子息や令嬢達とその親が既に大勢集まっていた。
これが屋外で良かった。室内でこれだけの人数がいたら只でさえ鼻がひん曲がりそうな香水臭さの種類が合わさって馬車から開放されたと言うのにまた気分が悪くなっていただろう。確実に。
「取り敢えず飲み物だけ取って様子を見ようか」
「そうですね………あっ!」
「えっ、どうし…ぴゃあ”ッ?!」
「ぴゃあ”ッって…はははは!へ、変な声だな」
「っ!急に冷たいモンが当たったら誰でも驚くだろ!レオーネの馬鹿!」
「お前が面白いのが悪いんだよ」
むっかつくなぁ???
灰色の髪に金の瞳のコイツは俺の友人のレオーネ・アロルド。
ゲームには……出てこなかったと思う。
だけどゲームに出ても不思議ではないくらいのイケメンだ。
俺と同じ十六歳でありながら王城で働いているらしい彼は王太子とも親しいらしく当たり障りのない範囲で城や王太子の事を教えてくれる。
が、こうやって俺をからかって来るのは止めてほしい。
お前のせいでルーチェに笑われただろうが!
格好良い兄ちゃんでいたいのにっ!!
「こんにちはレオーネ様」
「やあルーチェ嬢。今日も美しいね。
その瞳の色は俺の好きな色だ。とても似合っているよ」
「ふふふ、ありがとうございます」
ニコニコと笑い合う二人は、認めたくはないがお似合いだと思う。
十六歳と十四歳で二つしか変わらないから恋人ですと言われても違和感はない。
それに攻略キャラ達よりレオーネの方がルーチェを幸せにしてくれそうだ。
………でもやっぱり駄目だ!
ルーチェはまだ嫁には出さん!!
「何一人で百面相してんだよ」
「なんでもない!」
「そう言えば今日は王子も来てるぞ。運が良ければ会えるかもな?」
「王子なんて運がなくても見付けられるだろ。令嬢等に囲まれて今頃困ってるんじゃないか?」
「さぁ?どうだろうな」
ニヤニヤと笑うレオーネから水の入ったコップを奪い取り喉を潤す。
兎に角今日の目的はルーチェと王太子を出会わせないことだ。
「ルーチェ、この後はどうするか決めてるか?」
「えっと……、この前会った子とまた会う約束をしてて」
「あぁ彼女か」
今もルーチェに話し掛けたいけど俺等がいるから行っても良いのかとオロオロしてるな。
日の光に照らされ宝石のように輝く銀髪に桃色の瞳の少女。
確か名前はルナちゃんだったか。
小動物と言うか兎みたいな子だな。
「じゃあ俺達はここら辺にいるから楽しんでおいで」
クルリとルーチェを半回転させ件の彼女の方へと背を軽く押してやる。
そうすれば彼女を見付けたルーチェは目を輝かせ、嬉しそうに頷き彼女の元へ駆け寄っていった。
「良かったのか?」
「流石に妹が友人と楽しく過ごす時間を奪いはしないよ。変な虫が近寄ってきたら話は別だけどな」
「お前は相変わらず妹も弟も大好きだな?
俺も変な虫が付かないように見張っとくか」
「んー、良いんじゃない?」
王太子から令嬢達を遠ざけたいなら近くにいた方が良いんじゃないか?
「その噂の王太子はまだ来てないみたいだな?」
「来てはいるはずなんだが、どっかで迷子にでもなってんのか?」
「探しに行ってやれよ」
でも面倒くさいと顔にも声にも出すコイツは本当に王太子と親しいのか疑わしいな。
新しくテーブルに並べられた飲み物を取り、ルーチェを見守りつつレオーネと話していると、視界の端に気になるものが見えた。
「ん?」
数人の令嬢達が一人の令嬢を囲むようにして近くの林の中に消えていったのだ。
妹と同じ年くらいの子が身を縮ませ消えていくのが何だか見過ごせなくて、レオーネに暫くルーチェの事を見てくれるよう頼み、俺も令嬢達が消えていった林の中へと入った。
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