第11話 第一フラグ
「田舎者もお呼びになるなんて、陛下は何を考えてるのかしら」
「こんな古めかしいドレスなんて、私だったら恥ずかしくて外も歩けませんわ」
「王太子様もこんな田舎者、相手にするはずありませんわ」
聴こえてきたのはそんなテンプレの様な台詞だった。
そんな古いと言うか変な格好か?
俺からすればお前らの服装の方が、ちょっと近くに行くのも来られるのも困るんだが………。
ギラギラした宝石に絶対重いだろう山のように盛られた髪の毛、フリルがあれば何でもいいと言わんばかりのフワフワを通り越してゴワゴワのドレス。
しかも色はめっちゃ濃いピンクや紫色やどす黒い赤。
離れていても臭うキツイ香水の匂い。
その点田舎者と言われ木に背中を合わせ縮こまっている少女は長い金髪に落ち着いた色合いの薄い黄緑色を基調にしたドレス姿だ。
細やかな刺繍が施されたドレス。
宝石も何も付けていないにも関わらず、シンプルながら少女の愛らしさや美しさを引き立てている。
このドレスを少女が選んだのか少女の両親が選んだのかは分からないが、とても良く似合っていると思う。
「あら、田舎者は言葉も話せませんの?」
「こんな服しか着れないのでしょう?ここに来るのも大変だったんじゃありません?」
「そんな事聴いても話す口も無いんですから話せませんよ?」
品のない声で嘲笑うなぁ。キーキー喚き立てて……ゴブリンのほ方がまだマシだぞ?
「何、まさか泣いてるの?」
「やだ汚い。ドレスに田舎者の涙が付いてしまうわ」
「これだから田舎者は。例え田舎者だとしても少しは貴族としての自覚は無いのかしら」
「そんなものある理由わけありませんわ」
田舎者田舎者って、しつこい上に失礼だな?
だけどここで俺が出て顔バレしてルーチェやアルバに迷惑がかかるのもなぁ。
それに気になって付いて来たが、俺が出る意味はないんだよなぁ。
俺が出て更に今後のあの子等の関係が悪くなるのは俺自身も本意ではない。
あー、でも………。
「あら、ごめんなさい?折角のドレスを汚してしまいましたわね」
「でも何処が汚れてるか分からないし、その古めかしいドレスも少しは役に立ったわね?」
「アハハハ!さっきよりとってもお似合いよ?」
わざと地面を蹴って泣いている少女に土を掛け嘲笑う姿は分厚い化粧でも誤魔化せないくらいの醜い顔だった。
「失礼お嬢様方。こちらで何をしていらっしゃるのですか?
会場はあちらですよ」
「………あら、ごめんなさい?彼女が疲れてるようだったから来ただけですの。
でもそろそろ私達も王太子様に呼ばれてるので会場に戻らないと」
「そうですか。ならそちらの方は私が会場までお連れしますので、お嬢様方はお戻り下さい」
「その子は一人でも大丈夫ですよぉ〜、それよりぃ貴方が私達をエスコートして下さらない?」
「そうね!仮面で隠れてるけれどきっと格好良いんでしょう?」
止めろこっちに寄って来るな。
葉で作った子供が作りそうな面を魔法で見た目だけ変えた物を付けて出たはいいが近くで見ると更に酷い顔だな。失礼だけど。
「いえ、私などお嬢様方の美しさの前では霞んでしまいますよ」
「そう仰らずに……」
「おや?そのドレスもお綺麗ですね。
その茶色のアクセサリー、良くお似合いですよ」
「アクセサリー……?」
「ほら、その足元の」
「いえこれは!」
「それは?」
ドレスに皺が付くことも厭わず強く握り締め肩を震わせ俯くご令嬢。
茶色のアクセサリーと言ったのは、地面を蹴った時に付いた土のことだ。
もう少し言い方があったとは俺も思う。何だよ茶色のアクセサリーって。
「これは……いえ、何でもありません。
私達はこちらで失礼します」
「そうですか。お気を付けて」
ふーん、怒鳴りつけて煩く喚き立てると思ったけど以外だったな。
そこはまだ貴族(笑)としての自覚でもあったのかな?
肩を震わせながらも会場……とは真逆の方向に向かっていく三人組を黙って見送る。
ここで逆ですよなんて言ったらそれこそ不粋だろう。
「さてと、大丈夫か?」
「はい、大丈夫です…」
三人組が見えなくなったのを確認し、件の少女に声を掛ければ小さく嗚咽を漏らしながらも大丈夫だと答えた少女。
あーあ、目元が赤くなってる。
………もう少し早く出てやれば良かったかも。
罪悪感に駆られながら少女の足元に跪き触れていいかの許可を貰い汚れを軽く払う。
幸い水気を含んだ土では無かったので比較的簡単に汚れは取れた。
これが足元で良かった。これなら目立つことはないし
お茶会も参加できるだろう。
「はい、俺ので悪いけどこのハンカチ使って」
「ありがとうございます……」
「目元も冷やした方がいいんだけど…」
「あ、大丈夫です。自分で出せるので」
水魔法が得意なんですと恥ずかしそうに笑う少女。
良かった。やっと笑ってくれた。
「やっぱり笑顔の方が素敵だよ。そのドレスも凄く似合ってる」
「そ、そんな事…無いです…」
俯いてしまったがサラリと金髪が流れ赤くなった耳が見えてしまっている。
「本当だよ。正直さっきの子等の何万倍も君に良く似合ってる」
「あの……なんで助けてくれたんですか?
こんなに泣き虫で、助けたって貴方に何もいい事なんてないでしょう……?」
「んー、泣くのって悪いことなのか?」
「泣くのは悪い事じゃないんですか…?」
「それで誰かに迷惑を掛けたの?」
「………。」
「泣くのは悪いことじゃないよ。
泣くのは自分の感情に素直って事だろ?
素直であることを治す必要なんて無いさ」
思わず頭を撫でてしまったが、ここで離すのも何だか忍びなくそのまま優しく撫でる。
「自分の感情を押し殺してまで治すことなんてしなくていい。
そうだな……もし苦しくて辛くて泣きたくなったら、それを誰かに話してみるのもいいかもな」
「話せる人なんて、いないもの……」
「うーん……」
「でも、お兄さんになら話せる…かも……」
指先で小さく俺の服を引く少女。
可愛い……。いや、ロリコンではないよ?
ただこう…庇護欲が刺激されると言うかなんと言うか……。
「じゃあ何かあったら俺に話してごらん。俺の名前はルイーナ・ファウスト。
君の名前は?」
仮面を外し、軽く髪を整えながら尋ねる。
「………チーロ・ステファノ」
「ステファノ嬢?」
「チーロって、呼んで欲しいです」
「分かった。宜しくな、チーロ」
「はい!」
「どうする?会場に戻るか?それとももう少しここで休む?」
「もう少しここで休みます。今度お話を聴いてくれますか?」
「何時でも聞くよ」
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