第124話 イチロー蝶に成る?

 俺は担当護衛官としての仕事を終えいつもの様に家に帰って来る。


「ただいまーっと」

「ただいまですよ」

「ただいまです、勉強のし直しです」

「ただいまー疲れたよー」

「お邪魔しますわ」

「失礼します」


 ……。


 部屋に戻った俺達は探索用装備を脱いで着替えると床のクッションスライム達に座りながらテーブルを囲む。


「なぁリルル、その本なんなんだ……?」

 俺は姫乃の肩に乗りつつ『ギャル会話集』と書かれた本を読んでいるリルルに問うた。


「これですか? この本はポン子先輩がくれた『ギャルっぽい言動集その3』です」


「なんか今日のエロゲーっぽいオークダンジョンではいつもと言動が違うと思ったらそれのせいかよ! しかもその3って……俺は自然なリルルの方が可愛いと思うんだ、無理しなくてもいいんだぞ?」


「演技をするのも色々楽しいから無理してないです、でもご主人様の前では自然にしますね! えへへ」


 俺とリルルが仲良く話しをしていると、横にいる桜子とメイドがコソコソと会話をしていた。

「すごい仲がよろしいわよね……本当なら私と一郎君はゴール手前でしたのに……」

「桜子様、私達はもう出遅れているのです、運が悪かったとはいえそれを認めてこれから巻き返せばいいのですよ」


 おもっきし聞こえてるけどな……。

 あの日こいつらに会って俺が倒れてから一月以上たっている。

 俺は色々と思い出したが元に戻せない物もある、それは夏祭の日に俺はこいつに告白をしようと思っていたんだ……だが今は記憶はあれど感情がついてこない、なので一から関係を積み直そうと思っている。


 俺が寝ているベッドの側で心配そうな表情で手を握りしめてくれていた二人には過去の対応について頭を下げた、桜子達は許してくれたが完全に元通りとはいかない。


 姫乃もこっそり謝っているのを見てしまった……あいつは俺と桜子が最初にくっつくと確信していたらしい、そして俺に再会して記憶の件を知った後で桜子に伝えなかった事をずっと気に病んでいたのだとか、姫乃の気持ちを思うと判らんでもないよな。



 俺も色々と覚悟を決めないとなぁ……誕生日も来たし結婚も出来る歳になった、問題は俺が神格を得て寿命がほぼ無限になってしまった事か……どうにもそれがあって一歩を踏み出せないでいる。



 幸いというか桜子とメイドも姫乃の担当護衛官についてくれたので、これからはいくらでも話をする時間はあるだろう、桜子達は学校でも有名人で益々俺や姫乃が目立ってしまったが問題は無い、そもそも……。


「イチロー、モバタンに鐘有の護衛から連絡が来てますよ、モミチロー先生の出陣要請です」

「う……またかぁ……こっちの予定を伝えて調整よろしくと返事をしておいてくれ」


「お兄ちゃんもすっかりモミチロー先生として有名人になっちゃったよね……まぁ確かにあの揉みはすごかったけど」


 そうなんだよな……実は金髪天使さんが忙しい合間にしていたサロンの会員やお金持ち相手のパーティやなんかでポロッと俺の事を漏らしちゃったらしいんだよ。

 ゴーストカードの主になれたのはモミチロー先生に譲って貰ったからだと。


 幸い名前が違うから俺とはばれなかったけど……今は世界の女性達の希望のカードを二枚も提供した正体不明で流離さすらいの揉み師モミチロー先生として大きなサングラスと付けヒゲをつけてサロンで揉みのお仕事をする羽目に……ドウシテコウナッタ……。



 ポン子いわく、不運ついてないが側に居てこの程度ならまだましなんだと言われた、いやでもそもそもカードを押し付けたのは俺だし……守護天使として受け入れるくらいはするだろう? まさか俺の側に守護天使として居たいなんて言われると思わなかったけど俺はそれを受け入れた、まぁぼちぼち頑張るしかねーよなぁ……。


 ケンコウサロンでの仕事なんだが、仙人の匠師匠の揉みの極意を人間の女性達にするとなんかリソースだか気だか俺の神格だかのせいなのか、お肌がピチピチになるんだって……サキュバスさん達や天使さん達はそもそもお肌ピチピチばっかりだったから気付かなかったのよな。


 おかげでやべー事になりかけたりもしたんだが……まぁ後ろ盾の鐘有さんが胃を痛くしながら奮闘してくれたり、金髪天使なソフィアさんが羽を4枚出して戦闘形態で脅したり、まぁ色々あってどうにかこうにか成っている。


 美の伝道師みたいになってしまって女性陣からの好意があるせいか〈ナデポ〉が発動しちゃうのを必死におさえる日々なんだよ……。


 揉みの極意をやるとそっちに意識がいってしまって〈ナデポ〉が自然と出ちゃうんだよなぁ……付け髭とサングラスをしているし移動は金髪天使なソフィアさんの転移を使わせて貰ってるので身バレはしないと思うが……。


「お兄ちゃんまた私も揉んでよー、そうだお義母さんもやって欲しいって言っててね、今度お土産持って挨拶に来るって」

「まじか姫!? ……いやでも今はゴーストカードや揉みの件で鐘有さんから貰う報酬としてのスキルスクロールとかでどんどん強くなってるしなんとかなるか? よし! どんとこい姫、俺がお前もお母さんも揉んでやるぜ!」


 姫乃からの予期せぬ母襲来の予告があったが、俺のスキルはどんどん増えてそれなりに強くなってきている、むしろ一度上級探索者の訓練を受けてみたいくらいだ!


 俺や姫乃の会話を横で聞いていた桜子が。

「ハレンチです、一郎君は女性ばっかり揉んでハレンチです!」

「桜子様は揉みの時間がいらないの様なので私が貰いますね一郎様、桜子様の分まで私を一杯揉んで下さいまし」


 メイドは俺のスライムクッションに一緒に乗り込んで体をピタっとつけて俺の手を握り耳にほど近い所で囁く様にそんな願いを言ってきた。


 なんかメイドはすっごい積極的なんだよね、今思うと中学の時もすごかったなぁ……俺はなんであんなに鈍感だったんだろ?


「純! 何してるのよ離れなさい! そこは私の―」

「まかせて下さい桜子様、中学の時の様に私が先駆けを務めます、手を握るのもデートをするのもキスをするのも私が桜子様の為に試しておいた様に、そしていずれは最後まで……安心して下さい結婚は桜子様が先でいいですので」


「安心できる訳無いでしょ! って……ちょっと待って純……キスって何?」

「私も聞きたいです根石先輩!」


 桜子と姫乃がテーブルを迂回して俺の横にいるメイドに詰め寄っている。 


 そういや頬とかじゃない俺のちゃんとした初キスはメイドとだったっけなぁ……まぁあれは気づいたらされていたって感じだったけど。


「中学二年の時ホワイトデーのお返しに何も用意していなかったというので要求したのですが何か問題が?」

「問題だらけでしょー! 何してるのよ貴方は! 羨ましい!」

「いつのまにそんな事を! 『おいまじか同盟』でもそんな情報つかんでないのに……根石先輩恐ろしい人……さすが忍者の家系……」


 姫乃がポソっと洩らした、そういや自分はメイド忍者だとか言ってたっけか……桜子が元々神に巫女舞を捧げる御神楽家を支える神楽台家でさらにそれを支える根石家って感じだったらしく歴史のある家だとかなんとか。


 今はもう御神楽家との付き合いは無いみたいだけど……ダンジョンのせいで魔法の名家がいくつも衰退したって話をこそっとしてくれた事があるんだよな、最近までそんな話も忘れてたけどよ。


「後で舌の使い方を桜子様にも教えてさしあげますから同じ様に要求すればよろしいのですよ、3年分ムチューっとしちゃいましょう、なんなら根石流忍術十二術が一つ、色術も手取り足取りお教えしましょうか?」

「ちょ! そんな……そういうのはもっとこう静かな湖畔とか文化祭の後夜祭とかでこうムードのある中でやるもので……ゴニョゴニョ……」


「……桜子様……キスはレモンの味とかしないですからね?」

「根石先輩いくらなんでもそれは……」


「ええ!? 純! それほんとなの!?」


 ……。


 メイドと姫乃は唖然としてしまっている。


「夢見る少女ですか貴方は……」

「桜子さん乙女ですねぇ……」

 ポン子とリルルにも突っ込まれている桜子だった。



 そしてメイドや桜子と姫乃達が会話をしていると、転移魔法陣が起動してそこから。


「ご主人ちゃん遊びにきたわよ」

「またご飯を作りに来てあげたわ」

「ご主人君、僕もご飯手伝うからね! お蕎麦を茹でるのならまかせて!」

「新しいゲームも持ってきましたので今日こそ決着をつけましょうご主人君」


 ポニテ姉さんとクィーン姉さん、そして僕姉さんと格ゲー姉さんがやってきた。


 そしていつの間にか俺の背後には。


「ご主人様、私と新たな扉を探しに行きましょう」

 元に戻った可憐姉さんがいつもの様に背中に当ててんのよをしてくる、うん、良いお胸様だ。


 ガヤガヤと俺に近づいてきて体をくっつけたり触ってきたりするサキュバスさん達、今日も騒がしい日に成りそうだ。



「一郎君!? もー昔は私が一番だったのにぃぃぃ! ちょっと待って私も混ぜてー」

 見た目は悪役令嬢みたいだが実はすごい純情で恥ずかしがり屋の桜子が珍しく俺に飛び込んできた、右も左も後ろも前も女性女性女性女性だ。



 ポン子が言ってたよな、いずれ蝶に成りましょうと。


 まだ上級探索者とは言えないが、お金があり権力者とも知り合えた、大きな屋敷では無いが人がたくさん集まる部屋に住み、美味しいご飯を一杯食べ、高価な装備で身を包み、流離さすらいの揉み師モミチローとして周りから尊敬をされ羨まれ名誉を得た、人との様々な縁を結び、友は……あれ? 男はタイシ兄貴くらいか……恋人は……まだ決めてないけど今のこの状況はハーレムの様なものだよな、ムフフな事はまぁ……そのうちな、そんな蝶さんにイモムシから変われたんじゃないかと思っている。


「なぁポン子この状態は蝶と言えないかな?」

「……そう言えるかもしれませんねイチロー」


 俺は女性陣にもみくちゃにされながらもテーブルの上にいるポン子と語る。



「お兄ちゃんちょっと足開いて下さい、私も前に座ります」

「私も負けていられないですね、一郎様もっと近くに座りましょう」

「ご主人君いつもみたいに勝負しよ! じゃ横に失礼しまーす」

「ご主人様の背もたれに成る事は譲りません! このまま背中で押し潰されたい……ハァハァ」


「ちょっと姫乃、私が前に居たのに無理やりこじ開けないでよ! ……仕方ないわね……じゃ私は右足に座るから姫乃は左足ね、半分こにしましょう」



「ご主人ちゃんもてもてねぇ……私の固有結界が必要ならいつでも言ってね、とはいえ折角だし参戦しようかな、末妹いもうとちゃんも行くわよ!」

「はい姉さん! では行きます! ご主人様! 私も混ぜてくださいです!」

「ずるい! 僕もそれやるー、ご飯作りは後で、とぉージャンプッ」


 ちょ! 前前後左右埋まっててるのにさすがにこれ以上は、ってポニテ姉さん僕姉さんにリルル! その隙間の埋め方は危ないってば! エロイ意味で! あまりにエロ過ぎて言葉で表現出来ないでしょー!




「やれやれ……ハーレムを制御できないようじゃまだまだ蝶と言えないかもしれないですね、さて私はご飯の味見係でもしてきますか、頑張って下さいイチロー」



 ちょ! ポン子助けて! さすがにこの人数は、ってなんかサキュバスと天使側の転移魔法陣も両方また光ってるんですけどぉぉ!!?



 へーるぷみー!!

 ……。

 ……。





                おしまい。







 ちなみに金髪天使なソフィアさんは緊急なお仕事が入ったので出番はありません。








 ◇◇◇


 お読みいただきありがとうございました


 以上を持って「ダンジョンのある現代」完結となります


 ◇◇◇


 出来ましたら感想や☆☆☆で評価等お願いします。




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