第123話 過去との対面
「今あそこはそんな事になっているのか?」
俺はダンジョン前で広場での時間が来るまでの暇つぶし雑談で横に居る姫武将姿の姫乃にそう感想を述べる。
今日は5月の19日俺が担当護衛の初仕事をしてから一月がたった、また同級生と合同でのダンジョン探索の日だ、今日行く場所は〈海鮮ダンジョン〉で、その通称の通り海鮮食材が多く取れる場所だ。
姫乃のお義母さんが出てた突撃ザメの輪切り映像もここの深層だったと思う。
俺達が行くのは4層の浜辺で〈突撃キス〉や〈頑健蟹〉や〈痺れダコ〉なんかを相手にするらしい、目的は痺れダコで状態異常の恐ろしさを理解してない奴に教え込む為だとかなんとか。
「ええ、超絶不人気であった〈お化け屋敷ダンジョン〉はギルドが整理券を配って侵入数制限をするほどだとか、他にも日本のダンジョンでゴーストが出る場所は軒並み似た様な状況らしいですよお兄ちゃん」
「うへぇ……まさかゾンビが出る様なダンジョンが人気になるとはね」
「特殊個体狙いなんでしょうね」
「またあの骨が出る階層は行きたかったですー」
俺とポン子とリルルはその状況に驚いてしまった。
姫乃が俺の顔に近づいて小さな声で。
「リル助が居ないと無理なのにね、もう一枚やるとかしないの?」
俺や皆も顔を寄せ合って小さな声で話す。
「どうも確実では無いみたいで、元となるカードにも個性があるみたいなんだ」
「一枚融通して貰って後輩ちゃんが試しましたけど、お肌のシワをある程度消失させる効果になってしまったんですよ……勿論主人は
「その個体によって力の流れが違うんです姫様、人間といっても一人一人個性があるように魔物カードも一枚一枚まったく違うんです、研究し甲斐がありますです」
「なるほどー、というかポン助その新しいカードもやばくない?」
「やばいですね」
「やばいらしいとユキさんは言ってたな」
俺とポン子は同時に応えた。
「例のケンコウサロンでは一人二分以内で処置をして24時間364日営業になるんだってさ……金髪天使さんが憔悴しながら言ってた、カードは貸出になるから本人がずっと出る訳じゃないみたいなんだけどね、使う人間の目の前で貸し出す宣言はしないといけないからねぇ……」
金髪天使さんにはお世話になりすぎたのでめっちゃ気合入れて揉みで癒してあげたさ……。
「それでも一日700人ですか……順番決めとかどうしているんです?」
姫乃が首をかしげながら聞いてきたが、俺は細かい事を知らんのでポン子を見る事で話しを振ってやる。
ポン子は知っていた様で。
「出資した優先会員は返事をした早い順に番号が振られていて、その番号順です、この取り決めも事前に決めてあったので出資のお誘いも一斉に同時刻くらいになるように調整したそうです、時差は考慮せず日本のお昼に送ったそうで……その時深夜だった地域の人達はごねた人も居たそうですが……ごねたら番号を一番最後にするというルールが結構効いたみたいです」
「その割り振り通達の仕事はしたくないわね……」
「まったくだな」
「同感です」
「怒られそうで怖いです」
話がひと段落ついた頃に時間が来た様でダンジョン前広場の隅に居る先生達が集まる様に声を張り上げている。
俺達がそこに行くと参加をする姫乃の同級生達が護衛を含めて100人くらい、それと先生達の側にリボンやネクタイの色が違う上級生っぽい人達も10数人いる。
先生達が言うには今日は前回に比べると危険なので護衛として上級生も呼んであるらしい。
……なんだろう、あのリボンの色は確か三年生の色だったかな? の一人がすげぇ俺達を凝視している、茶色いロング髪の女の子で毛先がドリルになっている、ポン子やリルル達と見たアニメの悪役令嬢キャラの様な見た目だ。
俺の隣にいる姫乃は何か緊張をしている感じだ。
「どうした姫乃」
姫乃は俺を見上げながら真剣な表情で
「いえ……お兄ちゃんはあそこに居る人達に見覚えはありますか?」
「んー? いやどうだろ……もしかして中学の頃一緒だった奴がいるのかね? つっても記憶が薄れちゃってるからなぁ……直接話したりすると色々と記憶が蘇ってくるんだけどな姫の時みたいにさ」
「そうですか……」
姫乃は安心した様な落胆した様な複雑な表情をしている。
先生達が後15分後に出発をするので事前準備をしっかりする様にと話をして一旦終了した、皆は装備の確認等をしている人達もいる。
あ、ちなみに今日は木三郎さんは居ません、海水がなぁ……ちょっと苦手らしいのよ、というか水全般が苦手っぽい、俺達の中で一番強いと思われた木三郎さんに意外な弱点が見つかった訳だ、体が浮いちゃうらしいよ?
危なく成ったら頑張るから呼んでくれと言われているけど……海水に浮いた木三郎さんとかどうやって戦うのだろうか、プロレスに空中殺法があるなら海中さ……海上殺法とかもあるのかね?
なんて下らない話をポン子としているとさっき俺達を凝視していた上級生な女子ともう一人が俺達に近づいて来る。
茶色ロング髪ドリルと黒髪ボブの女の子の二人だ、もう一人黒髪の方はメイド服でホワイトブリムを装備している……姫乃の装備みたいにダンジョン産のセット装備とかかな?
ドリルが俺と同じくらいでメイドがちょこっと低い身長だね、165cmの160cmって所か、ちなみに姫乃は155cmだったかな。
「こんにちは姫乃……それと、いち……山田君」
「お久しぶりです姫乃様、一郎様」
ドリルとメイドが挨拶をしてきた、んー俺と姫乃の知り合いだったのか……むーん思い出せない……。
「こんにちは先輩方」
「どうも」
覚えてない相手だからな、どうにも話し辛い。
「あ! なたは……やはりそうですか……」
ドリルが俺の挨拶に激高をした様に見えたがすぐ後には悲しそうになった、ちょっと失礼な挨拶だったかな……。
「あ、えっと先輩、お兄ちゃんはえっと……」
何故か姫乃はすごい焦っている。
「いいのよ姫乃もう判っていた事だわ、もうフラれているのだし……でも貴方との交流まで無くなるのは寂しいわ、昔みたいにねーさんって呼んで頂戴、ではまた後でね……」
ドリルは俺と目を合わせずに姫乃と会話をすると踵を返す、メイドはこちらにゆったりとした礼をするとドリルに追従していく。
「なぁ姫乃」
「何……お兄ちゃん」
「あの人達なんて名前なんだ?」
俺が横で顔を俯かせていた姫乃にそう質問をすると。
姫乃は顔をあげて悲しそうな目で俺を見る。
「やっぱり覚えてないんだねお兄ちゃん……全部私のせいで……でもそれを嬉しく思っている私も……ぅぅぅグスッ」
姫乃が急に泣き出してしまった、俺は慌てて姫乃を慰めようとする、頭を撫でればいいかな、俺がワチャワチャとどうしたらいいか姫乃の側で右往左往していると。
側にさっきのドリルが立っている事に気付く、うぉ! びびった……なんでこんな近くに居るねん……。
「なんで姫乃を泣かせているの? いち……山田君? それと私達の名前を聞くってどういう事!? 名前を忘れたふりをするくらいに私の事が嫌いだっていう事!?」
ドリルが俺のツナギの胸ぐらを掴んで揺すってくる、ちょいちょいまってまって。
「結構離れてたのになんで聞こえてるんだよ、てか知らんものを聞いて何が悪い?」
「貴方達の会話に集中してたから聞こえたに決まってるでしょう! また知らないとか言う! ……もうあれだわ……姫乃を泣かせた罪も含めて殴ってもいいと思うのだけど」
会話を盗み聞くのに集中してたとかストーカーかよ。
「待って、待って下さい桜ねーさん! お兄ちゃんは……お兄ちゃんは……中学三年の夏に悪意のあるスキルで記憶を弄られているんです……そのせいで中学の頃の記憶が……」
姫乃が俺の胸を掴んでいるドリルの腕に縋り付き、言葉を濁しながらもそんな事を話す。
ドリルは姫乃の話を聞いて俺の胸から手を離す……ドリル、いや桜ねーさんと姫乃は呼んでいたな、そういえば姫乃との記憶の中にそんなセリフがあったような……。
ドリルは姫乃の肩を掴み揺さぶりつつ。
「どういう事!? 三年の夏ってそれは……スキル? 記憶を? ちょっとどういう事なの姫乃!」
そのあまりの揺さぶりの激しさに姫乃が答えるに答えられない様にも見える。
俺は手を伸ばし止めようと、したら俺の側にメイドがスッっと現れ。
「一郎様、私の名前をご存知ですか?」
「いやすまん……中学の頃の記憶はほとんど無いんだよ……知り合いだったら姫乃の時の様に名前やらエピソードやらを聞く事で思い出していくと思うんだが……」
「なるほど……では、私の名前は『根石 純子』と申します、一郎様には純と呼び捨てをされ、一緒に手を繋いでお買い物デートをちょくちょくしたりバレンタインのチョコをあーんで食べさせ合ったり、クリスマスやお正月や海の遊びで一緒に出掛けたりしております、思い出せませんか?」
根石順子……ねいしじゅんこ……純? いや……。
『根石……なんで手を繋いで買い物しなきゃいかんのだ?』
『手が冷たくて寂しいからでございます一郎様』
『あーん、もぐもぐ、いやまぁ姫達で慣れてるけどよ……親しい女子意外とはするなって言われてるんだけども……』
『一郎様と私は親しい仲ですよね? ですのでホワイトデーの前払いを要求します、あーん』
『いや似合ってはいるけどよ根石……ちょっと中学生にしてはセクシーな水着過ぎねぇ? それに皆もう待ってるから早くいこうぜ?』
『一郎様だけに見せるからこれでいいのです、ふぅ……仕方ないですねウインドパーカーを着るのでお待ち下さい』
俺の頭の中に様々な記憶が浮き出てきた、そうだ、このメイド……いや純……いやいつも根石って呼んでたよな? いや二人っきりの時だけ純と呼べって言われた事があったかも? ああうんそうだ……。
「ああ、そうだな……少し思い出したよ根石……」
「純と呼び捨てでお願いします」
「それは二人っきりの時とか言ってなかったか?」
「もう中学でも無いのですし是非とも純でお願いします」
「気が向いたらなメイド」
「一郎様は昔と変わらず意地悪ですよね」
俺と根石……メイドでいっか、メイドが笑いながら話していると。
「ちょっと純! 今のは何よ! デート? あーん? 二人っきりの時に呼び捨て!? 私そんなの聞いてないんですけどー!? 私の事を応援するって言ってたのは嘘だったの?」
ドリルは姫乃から離れるとメイドに詰め寄って質問をし始める。
ドリルから解放された姫乃が俺の側に寄って来た。
「大丈夫か姫?」
「姫様大丈夫ですか?」
「うん大丈夫リル助もありがと、お兄ちゃんは根石先輩の事を思い出したんだね?」
ポン子とリルルは空気を読んで沈黙をしていてくれたみたいで、リルルは姫乃の肩に移って心配そうにしている、泣いちゃったからなぁ姫乃。
ドリルとメイドは未だにやりあっている。
「落ち着いて下さい桜子様」
「これが落ち着いていられますか! 私だってまだあーんとかした事無かったのに!」
「全ては来るべき桜子様の為に事前確認をしたまでです」
「その気がないのに一郎君に迫ったって言うの? それは尚許せないのだけど」
「いえ、私はまぁ桜子様の次でいいかな、と」
「嫁に成る気満々じゃないのよ! 手繋ぎデートとかなにそれ……私は集団でしかお出かけ出来てないのにぃ!」
「ただの買い物ですよ桜子様、それに良いのですか?」
「二人っきりなのが大事なのよ、それで何が良いって?」
「早く一郎様に記憶を思い出して貰わないと探索時間が来ちゃいますよ」
「確かに!」
ドリルがぐるっと俺の方を向いてツカツカと歩み寄り俺からほんと数センチの距離で停まるとさらに顔を寄せて来る、近い近い近い、距離感がちょっとおかしい気がする。
「事情は姫乃に聞いたし純との話も聞いていたわ山田君、いえ一郎君」
「お、おお、えーとそれだとやっぱりあんたも俺の知り合いって事だよな?」
「ただの知り合いでは……いえ私の名前は『神楽台 桜子』よ一郎君、私は純と貴方と一緒に三年間同じクラスだったわ、私の母親がイギリス人でハーフだからこの茶色い髪が天然なのだけど色々言われた時に貴方は助けてくれたわよね? 他にも毎回私が色々なイベントの時にお出かけに誘うと貴方は、じゃぁ友達皆で行こうぜって言って集団お出かけに成ったわよね、三年の夏に初めて二人っきりで夏祭りに行く事を了承してくれて……そしてすっぽかされて……夏休みが終わると貴方は人が変わっていた……それでも色々話しかけててもほとんど無視をされ卒業式に告白をしたけど、結局フラれたんだわ、もしそのスキルとやらで記憶や性格を弄られなかったら貴方は……貴方は私が告白しようとしていた夏祭りに来てくれたのかしら……?」
神楽台桜子……カグラダイサクラコ……サクラコ……サクラ。
『うっせーなお前ら、こいつは天然だって言ってるじゃんか、どうせ可愛いから揶揄ってるだけなんだろ馬鹿共が……なぁ神楽台、その茶髪は母親からの遺伝なんだろ? すっげぇ可愛くて似合ってるぜ! 今のミドルヘアもいいけど長くしたらもっと可愛いかもな』
『あ、ありがとう山田君……』
『あ、あの山田君! 夏休みにプールに行きませんか!』
『おー……お前もあいつが目当てか……いやなんでもない、じゃぁ友達誘ってみんなで行こうぜ』
『あの山田君、お正月の初詣に行きませんか?』
『いいぜ、じゃぁ皆に連絡しとくな』
『なぁ神楽台、髪が随分長くなってきたよな、そしてなんで毛先をそんな風にまるく――』
『一郎様、それ以上は駄目です、二か年計画で数ミリづつ巻き髪部分を増やしていく計画なのです、今の所は桜子様には気付かれてないのでご協力お願いします』
『ちょっと純に山田君! 少し距離が近すぎじゃないかしら!』
『ねぇ一郎君……そのね……夏休みのお祭りに一緒に行かない?』
『いいぞ桜、えーと……皆は誘わない方がいいか?』
『うん!』
『なんで! なんで来てくれなかったの一郎君!!』
『……知らん』
『ねぇ一郎君、クリスマスなんだけど』
『……忙しい』
『一郎君? これチョコレート貰ってくれる?』
『モグモグ』
『一郎君、今日はホワイトデーなんだけども……』
『……だから?』
『……私何かやっちゃったのかなぁ? ねぇ一郎君、私には何も思い当たる事がないの……何かあったら言ってくれれば直すから! だから! だから……私とお付き合いしてくれませんか?』
……ああああああ……記憶が洪水の用に浮かんで来る、メイドの時と比べものにならないくらい沢山の記憶と感情だ、これは一体……俺はこんな酷い事を桜に……最後のこれは……俺は……なんて答えたん……だ…‥。
ドサッ。
気付いたら俺は倒れてしまった様だ、意識が遠のいていく……俺を呼ぶ姫乃やポン子やリルルの声が遠くに……そして……。
「一郎君!」
「一郎様!」
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