第122話 共同出資とヌルヌル

「ゴーストのアリアさん!? それは違うんだ! お胸の膨らみは脂肪じゃなくて夢が詰まっているんだよ!」


 がばっと上半身を起こす……俺の部屋だ、夢か……今朝はゴーストカードのアリアがサキュバスさん達の素敵なお胸の脂肪を消失させようとする夢を見てしまった……現実だったら人類の……いや男の子達に取っての重大な損失になっていただろう



 横を見るとリルルが俺の枕の横で寝ている、吸精してから二度寝をするのがリルルのルーティーンになっている様だ。


『ご覧くださいこの賑わいを、本日、日本の×××には世界のVIP達が集合――』


 ん? 男の声が聞こえると思ったらニュースキャスターの声か。


 珍しくポン子が起きて壁のディスプレイでニュースなんかを見ている、生の放送見るとか珍しいな。


「おはようポン子、俺より早く起きてるなんて珍しいな」

「おはようですよイチロー、今日はほら例の共同出資会社のお披露目ですから」


 そういや今日だったっけ! 今日は鐘有さんと金髪天使さんにゴーストカードを押しつ……託してから二週間ちょっと、5月15日の土曜日の朝だ、遂に例の話が進むらしい、早すぎる気もするけど相当周りから急かされたみたいだ。


「ああ、そうだったな……金髪天使さんこないだ昇天屋に来た時はやばい表情してたけど大丈夫かね?」


 こないだ来た時の顔色が酷かったので4月の終わりあたりにまた玉手箱に送られて来ていたタイシ兄貴からの肉を金髪天使さんにご馳走したんだよね。


 なんでも本人は忙しいとかで代理の人が肉を定期的に送ってくれるとか、お菓子や作物の種や紙に印刷した料理のレシピなんかを対価に要求されたんだけど、そんなんであの高そうな肉を貰っていいものかと迷ったんだけども……。


 ポン子が言うには情報や新種の作物の種なんかは価値があるだろうって事で神界や地獄の作物の種や日本のダンジョンで手に入る種なんかを中心に送る事にしたんだ……アンブロジアの種っていうのもあったけどどんな作物なんだろね?


 ポン子は俺の金髪天使さんへの心配をどうでもいいとばかりに手をヒラヒラしながら。

「イチローに揉まれてさらに貴重なお肉を大量に食べてピカピカ光りながら笑顔で帰宅したじゃないですか、ったく私の肉をあんなにモリモリと食べるなんて……それにあの程度の疲れなんて昔やらかした神界ヌルヌル事件に比べたらどうとでも成りますよ」


 お前は肉をズルズルと吸い込んで食べてたけどな、ってヌルヌルだと!


「なにそれ!? ……えっちぃ奴か? 詳しく!」

「うーん……どちらかというとお笑いの方でしょうか……」


「……じゃ詳しくはいいや、でもまぁ誰が原因だったんだ?」

「ええとですね素材を採取する為に神界で育てていた超巨大スライムがちょこっと暴走しまして……」

 ポン子は俺の質問に対してちょっと顔を背けて応えてきた。


「いや、では無く、が原因だったんだ?」

「……私と不運ついてないですね……」


「やっぱりかよ! ……前回のレストランの時の話にあった天使性別反転事件といいお前らやらかしまくってるんじゃね?」

「私だけのせいじゃないんですよ! 不運ついてないが居ると何故か物事がおかしな方向に行く事があるんですってば!」


『ご覧ください、この人の山……ここに居る人々すべてが新たに設立された会社に出資をして株を取得し優先会員に成った方々です、ここに居る人達の資産を全て合わせたら地球の総資産の7割を超えるとも言われております』


 俺とポン子が過去にあったやらかしについて話をしていると壁のディスプレイには何処かの巨大な会場を埋め尽くす人が映されていた。


「なんかすごい事になってるな……しかもほとんど女性だしなんか熱気というか画面越しにも何らかの圧力を感じるんだけども……」

「ですねぇ……まかり間違ってたらあの会場にイチローが出席するかもだったんですよ?」


 俺はポン子のその言葉に会場内で殺気だった女性達にもみくちゃにされる自分の姿を想像してしまった。

「うへぇ……押し付……託して良かったな!」

「イチローは助言をしたポン子ちゃんに感謝して下さいね?」


「そうだな、ありがたやーありがたやーポン子様ーへへー」

「うむうむ、奉納はチョコレートが良いぞよ」


「じゃ後でお徳用特大チョコを二十袋くらい専門店で買ってきてやるよ」

「え? 本当にいいんですか?」


「まぁそれくらいならな、最近は稼ぎも良いしよ」

「やったー-!! 三十袋楽しみです!」


 地味に十袋増えていやがる……まいいけどよ。


 壁のディスプレイでは会社の代表やらが挨拶をしている訳だが、その基幹メンバーは会社の中心であるエンジェル印の〈ハレルヤ魔道具販売商会〉からの出向メンバーで埋められているそうだ。


 つまり天使が中心になって運営するんだね、金髪天使さんも副社長として紹介されているね……ガンバレ。


「それにしてもさポン子、共同出資会社〈ハレルヤケンコウサロン〉ってちょっとダサくね? 健康って日本語だろ?」

「会社はあくまでも日本を中心としているという意味もあるので日本語にしたそうですよ、カードは海外には持ち出さないで日本でしか利用出来なくするらしいですし、なので今日本には海外のVIP達が別荘を買ったりホテルの年間予約をしたりですごいらしいです」



「鐘有グループを表に出さず共同出資会社の儲けも平等にして恨みを買わない様にしたと思いきやそういう所でしっかり稼ぐ所はさすがだよな……鐘有の夏樹さんが事前に大量の高級別荘地を買い占めた所が数倍所か十倍やらで売れて忙しいとか護衛のユキさんが言ってたぜ、忙しくて連絡があまり出来なくてごめんなさいって……毎日そう言って来るのに忙しいとはこれいかにとも思ったが」


「……好かれている様で何よりです……それと知っていますかイチロー、あの共同出資会社が出来るまでのこの短い間に世界の有名なグループ会社やお金持ちがいくつも分裂したり消え去った事を」



「へ? なんでそんな事になったんだ? エステを経営してた所が潰れたとかそんな話?」

「違いますよ、表に出なくても日本を中心とした鐘有が色々握っているのはバレバレですからね、ライバル会社が嫌がらせを仕掛けようとしたら……内部から崩壊していったそうです」



「えっと……鐘有さん達が経済戦争を仕掛けたとかそんな話か?」

「いえ、彼女らがした事は一つです、ライバル会社にもちゃんと共同出資の話を持ち掛け、断ったり邪魔をしてきたら優先会員の話も無くなり営業も遅れるとグループ内の全女性達にメールを送っただけだそうです、彼らは身内の裏切りや離反によって自滅したそうです」



「……なにそれすっげぇ怖いんですけど!?」

「だから言ったじゃないですかイチロー? 女性の美に対する執着を甘く見たら……痛い目を見ますよ? と、図らずも世界のお馬鹿な男達がそれを証明してくれた様ですね、とある崩壊したグループの会長は身内のあまりの裏切りの多さに人間不信になって田舎で畑を耕す事にしたとかなんとか……」



 俺は女性の美に対する執着を甘く見ていたのかもしれない……。




 ――


 ――



 いつだったかポン子にやっぱりちょっと気に成ったから神界ヌルヌル事件について聞いた事があるんだよ。


 話を聞くに神力をエサにする巨大なスライムを素材回収用に神界で飼っているらしく、それがポン子や金髪天使さんのせいで暴走をしたんだって、一度暴走したスライムは分身して飛び回り神力を吸収しちゃあ巨大化して爆発をして周囲にローションの様な自身のヌルヌルの体をまき散らす訳だ。


 で神界中がヌルヌルに成る訳で天使達はまともに歩けずスッテンンコロリンしまくって体中をローションスライムまみれに成る、そして彼女彼らは思う訳だ、『歩けないなら飛べばいいんじゃね?』と。


 天使の翼は神力を物質化した物だ、つまり……神力をエサにしているスライムにしたら新たなエサを貰える様なもので、天使が翼を出すと周囲や体についていたローション状のスライムが翼に吸着をして力を吸い取り巨大化&分裂&爆発の連鎖、そして神力を吸われて飛ぶ力を失った天使は地上のローションの海に落ちる、という悪循環が各地で起こり、益々神界はローションまみれになって行くという地獄絵図。


 結局神力を使わずに全て手作業でスライムを排除せねばならず、しかも足元はローションだらけなので、天使達はみんな四つん這いになって赤ちゃんの様にハイハイ移動をしながらその作業をしたそうだ……。


 その作業が終わった後に原因となった二人がどれだけ叱られたかは…‥ご想像におまかせする。




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