第120話 貧乏くじは誰の手に
今俺の前には三人の女性が居る。
鐘有さんは自分の二の腕をさすりながら。
「素晴らしいです山田様」
ユキさんは自分の首や肩を触りながら。
「ぅぅ……あんまり変わってません……」
運転手給仕さんは自分のスカートの上からお尻や太もも等を摩りつつ。
「これは……物凄い効果ですね」
少し前にポン子以外の俺や鐘有さん達の食事も終わりゴーストカードについての相談が始まった訳だが。
まずゴーストを呼び出したら非常にびっくりされた、うん俺も気持ちはすごい判る。
リルルが言うにはスキルの改造をしても良い代わりに見た目と自我をどうにかして欲しいとゴーストに頼まれたそうだ、ゴーストは人の体を模しているが薄っらとぼやけていて出来の悪いモザイクか霧の中にいる人間か……とにかくよく判らん見た目をしていて、自我というか知恵も子供くらいのはずだった……。
だがしかし今のゴーストさんはうっすらと透けているのだが、もし色がちゃんと着いたらただの浮いている女性という感じになる、年の頃は二十歳中ごろの結構な美人さんだ、たぶんこの見た目だけでもすごい価値が出ると思う……。
そうして順番にエナジードレイン改を三人の女性に掛けて貰った所だ、改造されたゴーストさんは声を出せないが口は動かせるしボディランゲージも出来るくらいの大人な知能も備え、というか鐘有のお嬢様が〈読唇術〉と〈読心術〉スキルを持っているらしく普通に会話をしていた。
――
「これは非常に難しい問題になりますね」
自分の二の腕を摩りながら笑っていた鐘有さんは一転厳しい顔つきに成る。
「そうですね……私には意味なかったですけど……本当に胸の脂肪を増やす事は出来ないんですよね?」
ユキさんは近くに浮いているゴーストに確認をする、その質問何度目ですか……?
「服の上からでも正確に吸引……いえ消失させているのでしょうかこれは……」
運転手給仕さんは自分の太ももを撫でている、ですがスカートをまくって撫でるのは目に毒なのでほどほどでお願いします、やめろとは言いませんが。
吸引か消失か……リルルはゴーストのおやつになっているとか言ってたけど。
魔法的な効果を科学的に考えても仕方ないのかもしれない。
「まぁ売りにだすにしろ何にしろ俺が個人でやるのはまずいって助言を受けたので鐘有さんに頼もうかなーと思った次第でして」
「確かにそうですね……でもこれは私でも危険な代物になります……名付けを誰がするかどこに売るか……それだけで醜い争いが起きかねません、正直な話でいえば身内から不届き者が出る可能性を否定しきれません……」
鐘有さんが申し訳無さそうにそう言ってくる、周りにいるユキさんや運転手給仕さんの反応を見ても鐘有さんの言葉は本当っぽい。
こまったな……。
そこにまだ食べて居るポン子が声を掛けてくる。
「イチロー難しく考える事は無いんです、こんな事は予想済みです、カードに名付けをした物を貸し出す感じならいけますよね? 鐘有のお嬢様」
「ええ妖精さん、それならまぁいざという時は持ち主が自分の手元に戻せるので盗難とかは無いでしょうけど……持ち主に迷惑がいっちゃいますよ? 山田様は勿論守りますけど限度がありますし……」
ポン子はフランスパンを一気飲みしてから不敵に笑うと。
「人の物だからそうなるんです、ではそれが神の物なら? イチロー、ブレスレットを使って
はぁ? 待て待てここであの人を見せるのか? 天使だぞ? それにいきなり呼んだらびっくりするんじゃね?
「それはまずくねぇか? 連絡してからとかさ……」
「いいから、翼を出して居ない普段着で来られるより効果的だと思います、それに遠からず教える事になっていたでしょうし早いか遅いかの違いですよ」
鐘有さん達は俺とポン子の会話の意味が判らず困惑している。
ちなみに食事はポン子以外終わってるので椅子に座っているのは俺と鐘有さんだけだ、ポン子はテーブルの上、ユキさんは鐘有さんのナナメ後ろに立って居る。
「判ったよ呼ぶけど……怒られたらお前も一緒に謝れよ? 緊急事態でって言われてるんだからよ……」
俺は立ちあがり少しテーブルから離れると教えて貰ったブレスレットの操作をする、少し光り出したブレスレット……二十秒くらいたっただろうか、俺の近くに魔法陣が出現してその光の中から。
「大丈夫ですかモミチロー先生!」
金髪天使さんが現れたと同時に部屋の中にすごい圧力がかかる、これは魔法の効果? いやただの殺気か? 俺に向けられてないのが判るのに感じるこの圧力はやばいな……。
「我はこの方を守護……天使、この方に仇なすはお前らか! 神の名において誅する物と――」
「しないでよいです」
このものすごい殺気の中でポン子がノンビリと声を上げる、金髪天使さんは俺を守護する天使だと宣言をしていた、なんか恥ずかしいね……『する』がやけに小さな声で聞き逃しそうになってしまった。
金髪天使さんはポン子のそのノンビリとした声を聞き、周りの状況を一つ一つ確認をしていく、その姿は四枚の翼を広げ、戦装束をまとい光を放つ抜身の剣を持つ神々しい物だった、ユキさんも最初だけ武器を取り出してその殺気に抗おうとしていたが今は武器を取り落とし、ただしゃがみこんで震えている、他の二人はいうまでも無く。
周囲を確認した金髪天使さんは殺気を収め、頭付近に魔法陣を出しそれが体を通過して下がっていくと戦装束からいつものブランド物な普段着のモデル風金髪天使さんが現れる、剣も翼もいつのまにか消えていた。
「先生? どういう状況なんですかこれ?」
「あーごめんなさい」
俺は謝りつつも状況を丁寧に説明をしていく、途中で金髪天使さんとポン子との醜い言い争いがあったが割愛する、何故ならば今回はポン子と俺が一方的に悪かったんだが言い争いの中で金髪天使さんの過去の所業とかが出てきちゃったしな……なにしてるんだか過去の君達は……。
「なるほど……つまりこのカードの主に私が成れと? 〈底なし腹〉それが私にとってどんな利益が――」
「イチローの側にいる理由が増えます」
「仕方ないな、先生の利益になるのならばこの私がひと肌脱ぎましょう!」
よく判らんが名付けをして持ち主に成ってくれるらしい、金髪天使さんにはいつもお世話になっちゃうなぁ……。
鐘有さん達は話の蚊帳の外になってしまっている、まぁこれはしょうがないか。
「では早速、お前の名前はアリアだ」
金髪天使さんがカードから召喚をし直してそう言うと一瞬光ったゴーストは嬉しそうにしながらまたカードに戻っていった、そのカードにはアリアの名前が追加されていた。
「ではこれをこの者に渡せばいいのですね? 私はカードを貸し出す事を宣言する」
金髪天使さんが鐘有さんにカードを渡す。
彼女は震えながらも受け取り、そして金髪天使さんじゃなく俺を見ながら。
「確かにお預かりします、ですが山田様その……このカードの持ち主も表に出て貰わないと困るのですけども身分とかはどうしたら? それにしばらくは殺人的な忙しさになると思われますけど……大丈夫ですか?」
そんな事を言ってくる。
しかしてそこにポン子が。
「大丈夫ですよ鐘有のお嬢様、そこの天使は表の身分も持っています、エンジェル印の「ハレルヤ魔道具販売商会」の社員という身分をね」
ポン子がその名前を出すと鐘有さん達が非常に驚き。
「あのアンタッチャブルな会社ですか! なるほど! それならば暗殺者が来ても安心ですね、これから忙しくなると思いますがよろしくお願いします天使様!」
金髪天使さんに向けて何か不穏な事を言う鐘有さん。
「触れるとただでは済まないあそこですか……やはり噂通り神の……それなら囮として安心ですねさすがイチローさんの知り合いです」
ユキさんは何故か俺を褒めている……そして囮って何?
金髪天使さんはポン子に向けて剣呑な声で問いただす。
「……なぁ〈底なし腹〉……私を嵌めただろう……?」
「はて? 何の事やら、ではイチローの身代わりにしばらく殺人的な忙しさと標的になって下さいね、勿論イチローはその事に大変感謝するでしょう! その結果どうなるかは……あなた次第という事です、それともやめておきますか? そのカード持って神界に帰ってもいいですよ?」
ポン子が何故か金髪天使さんを突き放す様な事を言っている、いやまぁカードが無くなれば問題も起こらないしそれでもいいかも?
「むぐぐぐ……やりますやりますよ! 先生……何故だか知らない間に天使の仕事と人間界の仕事で忙しさが倍になりそうですが私頑張りますから! だからその仕事を全うしたら褒めて下さいますか? そして出来ればしゅご……守――」
「はいはーい天使さんこちらでお仕事の話をしましょうねー、ものすごい大きな仕事になりますし忙しくなりますよー、あ、イチローさんちょっと帰りは見送れそうにないのでハイヤーを呼ばせますね、それとモバタンのチャットアプリのID教えて下さい」
ユキさんが金髪天使さんのセリフの途中で割り入ってきてIDやらを聞くと。金髪天使さんを引きずって行った、さっきはあんなに震えていたのにユキさんは強い人だね。
「乙女の勘という奴でしょうか、やりますねあの子も、そして何処にいっても
ポン子が俺を促す、いいのかねあれ放置して……。
鐘有さん達と会話をしながらも金髪天使さんが捨てられた子猫の様な目で俺を見て来るんだが……。
「いいんですよ、また今度昇天屋にお客として来たら労ってあげて下さい、木三郎さんも帰りますよー」
『シャッ!』
木三郎さんは鐘有さんに挨拶をしにいっている。
そこに運転手給仕さんがカートを数台持って来た、その上には持ち帰り用のパッケージに料理が詰められた物が一杯積まれていた、ポン子が隠さずにそれを全て〈空間庫〉に仕舞っていく……いやまぁ天使をさらした後だしもう彼女らには隠し事はあんまりしない事にしたのだろう。
運転手給仕さんはびっくりして目が真ん丸になっていたが、少しすると戻り。
「すごいお人なのですね貴方は、またお嬢様と共に会える事を楽しみにしていますね山田様」
「ええまた次の食事会の時にでも」
テーブルの方では鐘有さん達が話し合いながらこちらに手を振っている、それに手を振り返しながら個室を出ていく、さてはて彼女らはあのカードをどんな風に使うのやら……。
帰り道、ホテルの廊下を歩いている俺達を運転手給仕さんが追いかけてきた、忘れ物でもしてたかな?
「すいません山田様ちょっとお願いしたい事があるのですけど、よろしいですか?」
「ええ構いませんよどうしました?」
俺や木三郎さんはちょっとしたことを頼まれてから帰っていく。
――
今はホテルからハイヤーに乗り家に送って貰っている最中だ。
「ゆっくり味合う事が出来ないからダンジョンラーメンとかのが美味しく感じちゃうんだろな……」
「味だけでいえばホテルの料理の方がはるかに美味しいのですけど、周りの環境も味のうちという事なのでしょう、イチローは庶民派ですからね、仰々しい場所だと舌が馬鹿になるんじゃないですかね」
『シャッ!』
木三郎さんは何処に賛成をしたのだろうか? 彼の言う事が理解できなくて良かったと思ったのは内緒だ。
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