第119話 素直さって大事だと思う
俺がテーブルに出したカードをユキさんが手に取り調べて鐘有さんに報告をしている。
「相談とはこの件なのですか? 草野さんのお兄さん」
「ええ、そうなります」
俺がそう鐘有さんに返事をすると横のユキさんが困惑気味に話しに入って来る。
「イチローさん……ゴーストカードは下手したらスライムカード並みに安いカードなのをご存知ないのでしょうか? 何か他の物と勘違いしたのでしょうね……ああうん、勘違いは誰にでもあるししょうがないですよね! 今度私がカードの価値について二人っきりで教えてあげますね、早速予定を立てましょう」
何故か俺の膝の上に手を置き、最後の方は少し早口で言うユキさんだった、いや安いのは知ってるねん、そうじゃなくてね――
「ユキ、少し黙ってて頂戴」
鐘有さんの低い真剣な声が響く、部屋の中が何故か緊張感に包まれた気がする。
「畏まりましたお嬢様」
ユキさんがピタっと止まり椅子に座り直し姿勢を正す。
「どうぞ話を続けて下さい草野さんのお兄さん、いえ山田様」
鐘有さんが俺の呼び方を変えてきた、長い呼び名に疲れたのかもしれない。
俺はテーブル上のカードを示しながら。
「このゴーストはダイエットに使えるスキルを持っているんです」
俺の言葉にユキさんが少し体を動かすも何かを言う事は無かった。
「それは、ひと昔前にあった詐欺の話では無く本当の意味でという事でよろしいかしら? 山田様」
鐘有さんは俺の話を信じてくれる様だ、俺が初めてポン子から聞いた時は時間がかかったもんだが……木三郎さんの主人だから信じてくれるのかな?
「そうなりますね、うちの妖精が言うにはエナジードレインが改に成って脂肪を吸引だか消失だかをする効果に変わって居るそうで」
俺がそう内容を告げた瞬間だった。
部屋の中の空気がさきほどの緊張とはまた違った物に変わる、女性陣の表情が真剣な物に変わりゴーストカードをじっと見つめている。
というか運転手給仕さんの仕事の手が止まったので外から新しい料理が来ない、ポン子が少し寂しそうだ、木三郎さんが部屋にある冷めても大丈夫な物を運んでいるがやっぱり暖かい物も食べたいんじゃないかなぁ……。
しばし部屋の中の時間が止まった様な錯覚を覚える、仕方ないので俺は飯を食う、あ、このローストビーフ美味いなぁ……。
――
「コホンッ! 失礼しました山田様、えっと実際に使ったのでしょうか?」
「あ、はい一応自分で使ってみました、太っていた訳じゃないですがお腹の脂肪を取ったら腹筋がくっきり六つに割れているのが見える様になりましたね」
そうなんだよね、一応危険がないか使ってみたんだよ、とはいっても俺は別に太ってなかったからお腹にあったうっすらとした脂肪を消しただけだがすごい効果だった、それとゴーストを呼び出した時もちょっとびっくりしたんだけども……。
って部屋の女性陣は何故か体の各所を触り出している……何してんねん君ら?
「ん! んん! では私も実際に試してみないと話に成りませんよね、二の腕で試してみる事にしましょう、お願いできますか? 山田様」
鐘有さんがそう言って来たので俺は。
「判りましたでは――」
「お待ち下さいお嬢様! いきなりお嬢様に試すなんてそんな危険な事は許可できません! ここは護衛である私が試すべきです! 私の首回りで試しましょう」
ユキさんが鐘有さんの沈黙の命令を無視をして話に入ってきた。
「いいえ護衛である方に何かあっても問題があります、なので代えの効く私が実験体になります、あの……太ももとかお尻でも大丈夫ですか?」
そこに給仕の恰好をした女性の運転手さんも参戦してきた、なんだなんだ!?
「何を言ってるのよここは私がやると言っているでしょう! 主人の命令ですよ?」
「例え主人といえど危険がある可能性は見逃せません! 護衛がやるべきです!」
「私が一番何かあっても問題が出ませんこの身を犠牲にする覚悟はあります!」
「何が犠牲よいつも座ってるから足が太くなってるだけじゃないの」
「あー言いましたね! 基本は後衛だから腕がぽっちゃりしてるお嬢様に言われたくないです」
「二人共見苦しい言い合いは止めましょう、私は前衛で脂肪が少ないですが鍛えすぎてがっしりしている首や肩回りを細く出来るか試してみますから」
「……、一人だけ痩せていると自慢している子が居るわね……あーらユキにはむしろお胸を増やす効果が必要なんじゃなくって? 減らす効果は必要ないわよね?」
「そうですね、やはり女性らしさを出すには出るべき所は出ていませんとね、ユキさんはすべて引っ込んでいるから大変ですよね、私は重さで肩がこるので大変なんですけどね、ここは譲って下さい」
「ちょっとお嬢様何を言うんですか! お嬢様だって言う程大きくないでしょうが! 下着で大きく見せかけてるの私は知ってるんですよ? それと無駄に大きいだけで使う当ての……失礼、こんな私でも可愛いと言ってくれる男性はいるんですー、彼氏居ない歴イコール年齢な貴方には関係無い話でしょうけどね!」
「ちょっとユキ! コン様の前でなんて事暴露するのよ!」
「彼氏なんて! 告白くらい一杯された事ありますよ! ただ全部が趣味じゃない相手だったけです、それと可愛いと男性に言われたとかって言っても子供に言う様な感じでしょう? あはは、可愛いカワイイ」
「にゃにおー! イチローさんは私を大人の女性として可愛いって言ってくれたもん!」
「……」
「……」
「あ……あれ? 二人共どうしたんですか? お嬢様? あ、あの?」
「詳しく」
「詳細に」
「あ、いえその……助けてイチローさん!」
ユキさんが俺の腕を掴み揺らしてくる。
女子のすごい言い合いが急にピタっと止まったと思ったら何故か俺に救援が来た、あまりの早口の言い合いに施設の頃の女子の口喧嘩を思い出していた俺は内容をよく聞いてなかった。
「すいません良く聞いてませんでした、何をどうして助けろと?」
俺は素直に聞いてみる事にした、素直さって大事だと思うんだ。
鐘有さんはテーブルに両手のヒジを乗せ、手は組んでそこに顎を乗せる様な姿勢になった、ちょっと行儀悪くないですか?
運転手給仕さんは鐘有さんの後ろに立って居る、ポン子が新しいメニュー欲しがってるんだけども……気づいてないですね……。
「山田様はうちのユキを大人の女性として可愛いと言ったのでしょうか?」
鐘有さんがそう聞いてきた、なんださっきの話か。
「ああその話ですか、ええ、ユキさんの思いやりのある言動に感動をしまして配慮の出来る大人だなーと思いまして、それにドレスも非常に似合ってて可愛いと思いましてそれを伝えましたが何か問題がありますか?」
「これは……どう思いますか?」
「ナンパでは無い気がしますお嬢様、というかちょっと意味が違うような?」
「ほらほら大人の女性で可愛いと言ってくれているじゃないですか」
「いえユキの言う通りではあるんですが捉えている意味合いが違うような」
「ユキさんは分かれているべき物を無理やり結合しているから勘違いをしているのかと」
「そんな馬鹿な! ……ええ? ……あれぇ?」
途中からユキさんは席を立ち鐘有さんの方へ行って三人でこそこそと会話をしている。
質問されてそれに答えたのに放置される悲しみ……あ、この細かいチーズが載ってるサラダ美味しいな、木三郎さんお代わりちょーだい。
――
俺とポン子が食事に集中していると声がかかる。
「あのイチローさんちょっといいですか?」
「どうしましたユキさん?」
「私のドレス姿どう思いましたか? もう一度聞かせて下さい」
ふむ……よく判らんがユキさんが立ったままクルッっと回って全体を見せてくれる。
「ええ、さっきも言いましたが非常に似合って居て可愛らしいなーと思います」
俺の答えを聞くやユキさんと運転手給仕さんが鐘有さんを見つめている。
鐘有さんは二人に対し。
「嘘は無いですね、そして下心やいかがわしい意識もまったく欠片も無いです」
俺の言葉を判定して居た様だ、スキルかな? こんな事で嘘は言わないんだがなぁ……。
「ほ、ほら問題ないじゃないですかお嬢様、やっぱりこれは――」
「いいえユキ、下心がまったく無いというのは逆に問題があるのです、貴方もやりなさい!」
「名前で呼んで下さいよお嬢様……まぁいいですけど……山田様、私の恰好はどうですか?」
運転手給仕さんが俺に向けてやっぱりクルリと回転して見せる、えーと? 感想を言えばいいのかな。
「そうですね運転手をやっていた時の男っぽい恰好も素朴な美人っぽい感じでよかったですが、貴方が女性用の給仕服を着るとスタイルの良さもあってキュートでかつエロティックさを備えたまた違うタイプの美人さんになると思います」
俺は素直に答えた、素直さって大事だと思うから。
「そ……そうですかありがとうございます……お嬢様どうですか?」
運転手給仕さんが鐘有さんに何かを聞いている。
また嘘判定かな? 別にこんな事で嘘は……
「嘘は無かったわね……だけどちょこっとだけやましさを感じました」
そりゃあんな胸を見せられたら男は反応するだろう!? ちょろっとやましさが入るのくらい勘弁してくれ。
「ええ!? それはつまり……イチローさんは……」
「それでもやましさは少しだけですか? ……でもあっちの姿の時も美人と……」
何故か少し悲し気なユキさんと何かを考え込む運転手給仕さん……意味が判らんのでご飯に戻ろう、木三郎さんそこの保温機からコーンスープ貰えるかな? そのカリカリっとした奴多めに入れてくれる?
俺を放置して三人娘の話は尚も続く。
「山田様は貴方が運転手だと気づいてましたね……」
「そうなんですよ! 使用人の顔を一々覚えるとか珍しいですよね、しかもこの姿と同一人物だと気づいた人は初めてです……ちょっと好感度上がったかもです……」
「ちゃんと相手を見る素晴らしい人だって事ですよ、さすが私のイチローさんです」
「誰が貴方のなんですか! どうしようユキがこんなにチョロくて思い込みの激しい子だったなんてハニートラップに気をつけないと……」
「それは大丈夫だと思いますよお嬢様、ユキさん意外と抜け目無いし相手が心底褒めているのを直感で理解したからこそでしょうし」
「私はチョロくないですよ! イチローさんは純粋に褒めてくれているのが判りますから……その純粋さの中に下心を籠めさせる為にはこちらから仕掛ける必要がありますね……お嬢様私ちょっと小雪家のそっち関係の修行を受けてくるのでお暇を――」
スパンッという音が響いたので俺が顔を上げると鐘有さんがユキさんの頭を叩いた音だった様だ。
「落ち着きなさい、この馬鹿ユキ」
「いったた……何するんですか……」
「自業自得だと思いますが……では私はそろそろ給仕に戻りますね、山田様何か食べたい物はありますか?」
運転手給仕さんが仕事に戻るみたいだし、どうやら話は終わった様だ、そして何故かポン子より先に俺に話しかけてくる運転手給仕さん、折角なのでお勧めのデザートを頼んでみた。
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