第118話 食事会
俺の目の前で車を降りる鐘有夏樹さんがスっと手を出す、これはエスコートをしろという事なのだろう、なので俺は……。
――
今俺達は前に来た高級ホテルに来ている、月曜日の夜に食事会を受ける連絡をしたらその日のうちに予定を立てて来て二日後の水曜日にはこうやって食事会に招かれていた、どれだけ木三郎さんに会いたかったんだろうかあの人は。
夕方に俺の家のあるマンションというか団地というかとにかく目の前まで高級車で迎えに来てくれた、おかげで木三郎さんを公道に出さずに召喚したまま連れていけるのでありがたいんだけどね。
ついでにタキシードっていうの? 正装を木三郎さんの分と二着プレゼントされたので一応それを着てお呼ばれをしている訳だ。
リルルは嫌がったので家でサキュバスのお姉さん達とお留守番だ、何人かがリルルに付き合ってくれるそうでありがたい事だね、姉妹の交流を楽しんでいる事だろう。
――
そしてタキシードを着ている木三郎さんが車を降りた鐘有さんの手を取って自分の腕に軽く組ませホテルのレストランに向かっている……。
……俺も真似した方がいいのかね? えーとこうか? 木三郎さんの行動を真似して側に立って居た護衛のユキさんに手を下にして差し出す。
「ほぇ? ……あ、ありがとうございます、失礼します……」
ユキさんは俺が差し出した手にびっくりしていたが、すぐに理解をして少し恥ずかしそうに俺の手に彼女の小さな手を乗せてきてくれた、俺はその手をそっと俺の曲げた腕にちょこんと置く感じにした。
背の小さなユキさんだが鐘有さんの着ているシックで大人っぽいドレスと違いフリルのついたドレスを着ていてとても可愛らしい。
「本日はお招き頂きありがとうございます、ってホストにお礼を言うべきなんでしょうけどね……」
「あはは、申し訳ありません草野さんのお兄さん……」
主賓は木三郎さんっぽいしなぁ……今も俺達の前を歩き鐘有さんと木三郎さんは楽し気に会話? をしている、腕を組んでない方の手でマラカスを振る木三郎さんは礼儀作法的に有りなのだろうか?
「俺の事は山田かイチローでいいですよ、草野さんのお兄さんなんて長いでしょ」
どうせ俺と姫乃の事は調べてあるみたいだし苗字も言ってしまう。
「はい……ええと……苗字が違う呼ばれ方は嫌じゃないですか?」
俺の腕に軽く手を置いているユキさんは俺の方を見上げながら、ちょっと心配そうな表情でそう聞いてきた。
ああ、この人はそれを慮ってわざわざあんな呼び方をしてたのか……相手を思いやる事の出来る人なんだね、そういや施設に居た頃に姫乃達が女子に対して心に浮かんだ褒め言葉や感謝はちゃんと口に出せと言っていたっけか、嘘はだめだがとも言ってたけど。
まぁこれは嘘では無いんだしここは。
「お気遣いありがとうユキさん、貴方は相手を気づかう事の出来る優しさを持つ素敵な女性なんですね、そのドレスも似合っていてとても可愛らしいですよ」
と素直に思った事を伝えておこう。
「ふにゃ! やさ!? かわ! ……あ……ああ子供っぽくて可愛いって奴ですよねうん、はは、いつも言われ慣れてます髪も戦闘の邪魔にならない様に短くしてますし」
ユキさんは何故か狼狽したが、すぐ立ち直ってそんな事を言ってきた。
だけど俺は少し間違っている認識を正しておこうと思う。
「子供はあんな配慮は出来ないよ、背が小さくても髪が短くても一人の大人の女性として素晴らしいと言っているんです」
俺は素直に思う所を伝えていく事にする、姫乃達にも言われていたしね。
ユキさんは目を大きく開いて俺を見つつ、しばらくすると顔を少し伏せつつ俺の横を歩いている……耳が少し赤くなっているから少し恥ずかしかったのかもしれない、姫乃達とは違って褒められて恥ずかしがる相手もいるんだな。
そして何故か軽く置いていた手をきっちりと姫乃みたいに組んできたユキさん、少し空いていたお互いの距離もピッタリと体をつける感じで詰めてきた、まだ少し顔い赤で俺を見上げると。
「ではこれからは、やま……イチローさんとお呼びしてもいいですか?」
そう言ってさらに腕をギュッと組んでくるユキさん。
「ああそれで構わない、よろしくユキさん」
俺達が笑顔でそう会話をしている所に今まで黙っていたポン子が俺の腕を組んでない方の肩でポソっと『ホストクラブ再登場です』と呟いたのが聞こえた、なんのこっちゃ?
エレベーターでレストランのある階まで来て店内に入る……あれ? 前と違って他にお客がいる。
俺は横に居るユキさんへ話しかける。
「今日は貸し切りじゃないんですか?」
「今日は奥の個室へ行きます、お客を入れているのはわざと目撃者を出す為です」
とユキさんは俺の耳の側に顔を寄せて小さな声で教えてくれた……俺の耳に少しでも近づく様にと精一杯背伸びをしている姿が子供みたいでとても可愛かった。
後でポン子に聞いたら公表をされている情報を信じない人もいるので、あえて少しだけ隙を見せてそういった輩が調べる事が出来る様にしているのだろうと言っていた……自分で調べ上げた情報なら例えそれが用意された物であっても信じるのだそうだ……うん、よく判らん。
奥の個室へとたどり着くとそこはポン子にとってのパラダイスだった。
大量の料理が設置されているが話を聞くに冷めても大丈夫な物や保温機に入ったスープ等がここにあり、出来立ての暖かい状態が美味しい物は随時運び込むらしい、ただし情報秘匿をお願いしてあるので給仕さんは一人だけだ……ってあの人車の運転手さんじゃん……わざわざ女性用の給仕服に着替えたのかよ随分印象が変わるなぁ……とりあえず会釈だけしておく。
中央のテーブルに着く俺と鐘有さんとユキさん、木三郎さんの席もあったが彼は給仕をすると言……マラカスを鳴らしてから立って居る。
「コン様が座って下さらないのは残念ですが食事会を始めましょうか、今日こそはご満足頂けると自負しておりますわ妖精さん」
鐘有さんの声掛けにポン子はニコっと笑い。
「私はいつでも挑戦を受けますよ」
と返事を返すポン子だった。
そして運転手さんと木三郎さんの給仕により料理を食べながら会話をしてく、ポン子だけはすごい勢いで食べていくので運転手給仕さんが個室の外にお代わり料理のカートを出し入れするのに忙しそうだ、うちの子の為にごめんなさいね……。
「そんなにあの木三郎さんの映像が気にいったんですか?」
「勿論ですわ! コン様の素晴らしい雄姿を見られて満足しない訳がありません、妹さんには高性能のカメラをプレゼントするのでこれからもお願いしますわね?」
お化け屋敷ダンジョンの木三郎コレクションがお気に召したのか鐘有さんは饒舌だった。
そこに横からユキさんが追加の情報をくれる……なぜかユキさんは鐘有さんの居る対面ではなく俺の横に座って居るんだよな……それと俺と会話をする時に俺の膝に手を置いてくるんだよな……これが高級なレストランでのマナーって奴なのかな?
「イチローさん、お嬢様は大変喜んでいましたよ……ただ少し相手のゾンビが弱すぎる部分が気になる様でしたが」
「あーそれは俺達も思ったかも、プロレスをするのに丁度良い魔物とかって居ないもんかね?」
「プロレスを前提にすると今までの情報が意味を為さないですよね、こちらでも調べてみてイチローさんのモバタンに情報を送っておきますね、メールだけではあれなのでチャットアプリのIDを聞いてもよろしいでしょうか?」
「ああ、じゃ帰り道にでも教えますよユキさん」
俺とユキさんがそんな会話をしているのを鐘有さんが訝し気に聞いている。
「『イチローさん』? ねぇユキ――」
「そうだイチローさん! 今日は何か相談もあったんですよね? それを聞いておかないと、お嬢様もそれでいいですよね?」
鐘有さんが何か言いかけたがそれをユキさんがぶった切って俺の相談の話を持ち出す。
「え、ええいいわよユキ……」
鐘有さんもユキさんの勢いに押されたのか特に問題は出なかった、さっき何を言いかけたのだろうか?
まぁいいや。
「ええ、実はこんなカードが手に入りまして」
俺はポケットから一枚のゴーストカードをテーブルに出してみせる。
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