第116話 庶民? のダンジョンンデザート
ここはとある商業ビルの一角にあるデザート専門店の中にある予約客用の個室だ。
甘い匂いの立ち込める店内、お客のほとんどが女性の中、俺達は予約をしてあった個室へと入って行く。
今は予約の品が届くのを皆で待っている所だ。
「一般メニューは普通なんだな」
俺はテーブルに置いてあったメニューを確認しながらそう呟く。
俺が見ているテーブルの上に開いたメニューの上に四つん這いで乗っかっているポン子が。
「イチロー! これ! 追加の注文はこれにしましょう!」
そう言ってポン子が写真の上に乗り指さしているのは、特大ジャンボパフェ十人前だった、値段が一万円するというパーティ用の奴だ。
「普通なら何を言ってるんだと突っ込みを入れるんでしょうけど……ポン助なら一人で食べられちゃいそうなのがすごいよねお兄ちゃん」
「写真を見ているだけで胸焼けしそうです……」
「ふっ、神界で〈底なし腹〉と呼ばれるこのポン子ちゃんならこの程度軽く三杯はいけますね」
ポン子がポーズを決めながら自信満々にそう語っている。
姫乃とリルルは『『おー』』とポン子に向けて拍手をしているが……食べられたとして三杯分の支払いは俺に来るんだよな?
その時個室の扉が開けられカートを引いた店員さんが入ってくる。
「お待たせしました~ご予約のダンジョンデザートになります」
俺達の前に並べられるデザート達。
「ではごゆっくりどうぞ、追加のご注文があればそこのボタンを押して下さい、失礼します」
店員さんが出ていったので目線をテーブルに戻す。
そこには到底四人前とは思えない無い量のデザートが置かれていた。
ダンジョンチョコパフェ
ダンジョンフルーツパフェ
ダンジョンフルーツタルト
ダンジョンチーズケーキ
ダンジョンドーナッツ
ダンジョンパンケーキ
ダンジョンマカロン
ダンジョンショートケーキ
「なぁ姫、これ全部ダンジョン素材が使われているデザートなんだよな?」
目を輝かせながらデザートを見ている姫乃に聞いてみる。
「そうだよ、基本的に魔小麦を半分近く使っていて果物やなんかも一部ダンジョン産が使われているんだって、リル助が食べたいって言ってたし、ねー?」
「姫様! ……覚えててくれたんですねありがとですー」
リルルが感激したのか姫乃の頬にキスの嵐をしに行っている。
そういやダンジョンン産の肉を取りに行った時にリルルが今度は果物が良いとか言ってたっけか? 姫乃にもその話をしたのかな?
「ちょリル助やめなさいって、あははくすぐったいってば、こらちょっとぉ!」
「ちゅっちゅっちゅっ姫様大好きなお友達ですーちゅー」
姫乃はリルルを止めようとしているが本気で叩く訳にもいかないのかその手の防御はかなり甘い、リルルはその手を避けて姫乃の頬にキスをしまくっている。
リルルはなんかこう……ポン子にもそうなんだがお友達に対する対応が少しズレてるよなぁ……俺も良くほっぺにチュウされるしな……。
やっぱりサキュバスの文化か何かなのだろうか?
さて、アイス部分が溶けたら勿体ないな。
「食べ始めるかポン子」
「ですねー、姫ちゃんに後輩ちゃん! 選んじゃいますよー?」
ポン子の声かけでやっと収まったリルルのキスアタック、妖精のキスなんて表現にするとファンタジー的に何か効果がありそうに聞こえるよな回復とか状態異常とか。
「あ、待って待ってポン助、何を選ぶかは相談ね相談、被ったらジャンケン」
「ほいほい、了解姫ちゃん、じゃぁ私はチョコパフェがいいです」
「私はフルーツパフェが食べたいです!」
リルルが珍しく強く主張してるね。
「じゃぁ私はチーズケーキね、お兄ちゃんはどうする?」
「俺はリルルと一緒に食べるよ、リルルもそれでいいよな?」
「はいご主人様、私では全部食べれませんですし」
「おっけー、じゃぁみんな頂きます」
「頂きます」
「頂きますです」
「いただきます」
それぞれが自分の前にあるデザートを食べ始める中俺はフルーツをスプーンで分割してリルルに分けてあげる、それじゃ俺も一口……、うわやっべぇ、なんだこれメロンは普通だったが桃っぽい奴の豊潤な香りと味が口の中でカーニバルを開いている。
この桃は絶対にダンジョン産だな。
俺と同じ物を食べて居るリルルは幸せそうなとろけた表情をしている。
「ご主人様~この桃はすっごく美味しいですー」
ポン子と姫乃を見てみると。
「チョコの風味が一段違います、それとこの生クリームに使われている材料ももしかしたら? ぶつぶつ」
「んー---美味しい! 卵なんかもダンジョン産なのかなぁ……もう一口!」
二人共目の前のデザートに夢中な様だった。
俺はパフェ用の細長いスプーンで生クリームをすくいあげるとリルルの前に出してやる。
「ほらリルルアーンだ、ポン子が言うには生クリームも美味いらしいぜ」
「ありがとうございますですご主人様! あーんぱくっ……んんー--美味しいです! 幸せですー」
お返しですーと小さな体で大きなスプーンを持ち俺にも食べさせてくれるリルル。
その生クリームを食べると脳内に牧場が出て来た、最高の環境で育てられた最高の乳牛から取れる最高の牛乳を材料に作られる生クリームそれは最高の……。
しまったちょっと別な世界に意識が飛んでいたようだ、さて続きを……
あれ?
俺の前にあったパフェの器が空になっている、おや?
テーブルの上を見ると空の皿が目立つ、んん?
ポン子はドーナッツを食べていて、姫乃はリルルと一緒にショートケーキを食べている。
残りはパンケーキしか無いな……俺は付属のハチミツをたっぷりとかけると一切れ切り離しパクッっといく、美味い! この魔小麦の力強い麦の香りが心地よく、使われている卵やバターも……いやなんでもいいや兎に角美味い。
俺は味を楽しむために目を瞑り舌に意識を集中させる。
ハチミツも恐らくこれはダンジョン産だな恐ろしく美味い、蜂タイプの魔物を倒した時のドロップか蜂の巣を壊した時にドロップするとか書いてあったが、瓶に入った状態でドロップするんだっけか? いつか狙ってみたいもんだ。
俺はゆっくりと目を開き、さて次の一切れを……あれ?
俺の前の皿は空っぽになっていた。
「俺のパンケーキが消えた!」
俺は犯人であろう口をモグモグさせている皆を見回す。
「もぐもぐ、イチローが目を瞑ってブツブツ言っていたのでもう要らないのかと思いました」
「もぐもぐ、美味しいハチミツだったねお兄ちゃん」
「もきゅもきゅ、いつか取りにいきましょうねご主人様」
こいつら……。
「本当に俺が要らないと思ったのだろうか?」
俺は三人をジッと見つめる。
するとポン子も姫乃もリルルも視線をさっと俺から逸らしていった。
いやポン子と姫乃は判るがリルルまでかよ! 段々染まってきたなぁこの子も……良い事なのかそうじゃないのか……。
俺はちょっと物足りなかったので普通のデザートを追加で頼んだんだが、皆もさらに頼んでいた、お前ら結構食ったはずだよな?
別腹? さいですか……。
――
――
「さて一杯食べたし帰ろうか」
「そうだねお兄ちゃん払いはまかせてね」
「いやいや妹に払わせる訳にはいかん、ここは俺が払うよ」
「でも予約をしたのは私だし、お義母さんにも緊急予算で貰ってるから大丈夫だよ?」
「こないだ誘わなかったお詫びもあるからな、その予算はお土産にでも使え」
「本当にいいの? お兄ちゃん」
「まかせとけ!」
俺がそう胸をドンと叩きながら言い切ると姫乃はポン子とリリルを連れて先にお店を出ていった。
俺はレジにつき清算をお願いする。
ポン子が結構追加したからなぁ……こないだのラーメンより高くなりそうだよな。
店員さんが魔道レジを操作して告げてくる。
「三十四万五千八百円になります」
「は?」
「三十四万五千八百円になります」
店員さんは笑顔で告げてくる。
聞き間違いじゃ無かった様だ……どういう事? いや……そういやさっき姫乃が魔小麦を五割使ってさらに他にもとか……ラーメンの麺は魔小麦が二割だった……てことは……。
「お客様?」
店員さんが怪訝な顔でこちらを促している、っと考えるのは後にしよう。
「ああえっとはいモバタン払いでお願いします、レシート貰えますか?」
「はいモバタン払いですねーここにかざして下さい、はい、値段にお間違えが無いなら承認お願いします、こちらレシートです、ありがとうございました、またのお越しをお待ちしております」
俺は長いレシートを貰いお店の外に向かって歩いていく。
歩きながらレシートを見てみるとダンジョンデザート各種の平均値段が四万円くらいだった……まじかー。
そして外で待っていた姫乃達にひきつった笑顔で合流する俺だった。
帰り道の事、俺の顔色を見たのか姫乃がこっそり『やっぱり私が払う?』と聞いてきたがそこはお兄ちゃんとしてのプライドがあったので断った。
やっぱダンジョン産の食い物は高いんだなと実感する……いやいや! あれが安く思えるくらい稼げばいいんだ! ……もしか自分で取りにいけば?
ちょっとモバタンでハチミツが取れる場所を調べてみた、軍隊蜂の襲撃というタイトルな動画を少し見た瞬間にサイトを閉じました、あれはムリ!
空が見えないくらいの蜂の群れってなんだよあれ……。
後でもう一回調べると、複数の中級範囲魔法を持つ人を揃えて尚且つ十以上のパーティで組んで戦うのが基本らしい、あ、上級探索者とかは別の話ね、一般の中級探索者って呼ばれている人達の方法でって事、戦いが終わった後には地面のそこら中にハチミツ瓶が落ちているとかなんとか……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます