第115話 ダンジョンからの帰り道

 あのリビングアーマ―ぶん殴りからしばらくの間石造りの迷宮をうろうろ、もう一体見つけてポン子が魔法を連打したが接敵するまでに倒しきれなくて悔しがっている、最終的に木三郎さんが近付いてきた魔法でボロボロのリビングアーマーをガシッっと掴みパイルドライバーで倒す。


 金属鎧にも効くプロレス技ってすげぇなー、実はプロレスが最強なんじゃね? ちょっと俺は混乱の状態異常にかかってきている気がする。


 姫乃の目的は済ませたって事で早く帰る訳だがなんと帰り道でゴーストカードが出てしまった、これもまたリルルの研究行きかね?


 二階の平原フィールドもまだ敵が回復しきっていなかったのか散発的な襲撃で済んだので外の広場まで出て来たのがお昼を少し過ぎた時間だ。


「思ったより早く出て来ちゃったな、まー諸々売り払って帰るかぁ、と言っても殆どDコインしか無いんだけどな……低層階のドロップが不味過ぎる」


「おかげでノンビリ狩りが出来ましたけどね、他に探索者がいると気を使って面倒ですし」

 お前はリビングアーマーを落とせなかったからって二階ではっちゃけすぎだポン子、魔力使い切るまで連打するってどんだけやねん、あれをノンビリ狩りだなんて俺は認めないよ。


 ちなみにもう木三郎さんはカードに戻してある、運んで貰う様なドロップ品も無かったしな。


「じゃぁお兄ちゃん行きましょうか」

 姫乃が俺にそんな事を言って来るが。


「何処に行くんだ? もうDコインやドロップ品は石板換金でいいだろうし……帰るって意味か?」


 姫乃は鉄扇じゃない普通の扇子を取り出し顔の下半分を隠すようにバサっと開く。

「リル助に聞いたんだけど、こないだの狩りの後に美味しい物を皆で食べにいったんだって? どうなの? お・にーい・ちゃ-ん?」


 扇子で顔の殆どが隠れている姫乃の目は笑って居ない。


「あ、いやあれはな予約が必要でな、それに結構遅い時間になるから……ごめんなさい姫乃さん次からはちゃんとお誘いします」

 釈明をする途中にもう無理だと思い頭を下げて素直に謝る事にした。


 予約をした時はポン子と一緒に美味しそうな記事を読んでテンションあげあげだったからすっかり姫乃の事を忘れてたんだよな……。


 センスをシャッっと閉じてそれを何処かに仕舞った姫乃は俺の腕を取りダンジョン広場から出る為に歩き出す。

「次は無いですからね? こんな可愛い妹嫁を仲間外れにするなんて酷い事をしたら……次はお義母さんとの特訓にお兄ちゃんも強制参加させます」

「もう絶対にやりません! でもさ姫……お母さんとの特訓が罰ゲームだと言ってないかそれ、どうなんだ?」


 俺の指摘に姫乃はアワアワと動揺をし出して。

「今のは無しです! 絶対によそに今の話を漏らさないで下さい! さっきの件も許してあげますから絶対にお義母さんには言わないで下さい、聞いてる? お兄ちゃん!」

 姫乃の必死な様子につい笑いを零していた俺は怒られてしまった。


「了解だ、やぶはつつきたく無いしな」

 ダンジョン広場のゲートを通り抜けながらそんな返しをした俺。


 頭上のポン子が俺の言葉を補足した。

「蛇どころか鬼が出て来そうですしね」

 と。


「ちょっとポン助シー、シー」

 姫乃が焦って口の前に人差し指を立てながらポン子に注意をしている。


「どうした姫?」

 なんでそんなに焦っているんだろうか?


「お義母さんは自分の悪口に対してものすごい勘の良さを発揮するんです、特に二つ名の、お……節分の時に退治するあれの事とかを出しちゃ駄目です、スキルか何かで気付かれる可能性があります」


「いやいや姫の家までどんだけ距離があると思って……」

 俺がさすがにそれは無いよと姫乃を見ながら言おうとしたが、姫乃のあまりの真剣な表情を見て言葉を途中で止めた。


「おーけい姫、俺はもう言わない、ポン子もやめとけ」

「わ、わかりましたイチロー、姫ちゃんもごめんなさい」

 さすがのポン子も姫乃の真剣さに腰が引けた様だ。


「いいの、普通ならありえないと思うよね、でもね上級探索者ってのは……理不尽の塊だって最近思い知ったの」

 姫乃に一体何があったんだろうか、聞きたい様な聞きたく無い様な。



「確かに……上級って事は神に近しいって事ですもんねぇ」

 ポン子が頭上でそんな言葉を呟いていた……。


 ん?

「どういう意味だポン子?」

 俺はポン子の呟きに詳しい説明を求めた。


 ……しかしポン子からの返事は無かった、俺の質問が聞こえなかったのかな?


「お兄ちゃんこっちこっち」

 俺が再度ポン子に問いかけようとした時に姫乃から腕を引っ張られた、どうやらここで曲がるらしい。


「ああすまん姫、それでこの先に何があるんだ?」

「ふふーん、実はこの先に知る人ぞ知るダンジョンデザートを出すお店があるんですお兄ちゃん! ちゃんと個室で全員分予約してあるので大丈夫ですよ」

 姫乃はそう言うのだが。


「いや……え? リルルにさっき聞いたのに予約がもうしてあるのか?」

 俺は不思議に思い、疑問を姫乃にぶつける。


「リル助に聞いたのはもっと前の話ですよ、今日のダンジョンの中の雑談とかで教えてくれるのかなーって思ってたんですけどねーお兄ちゃん?」

 俺の腕を組む姫乃の力が少し強く成った、イタタタ甲冑が甲冑が痛い。


 腕が締め付けられる中、俺が姫乃の肩に乗っているリルルを見ると。

「姫様とはモバタンで会話したりチャットをしたりしてますです」

 リルルはそう答えて来た、仲いいなお前ら、いつのまにそんな事になってたんだか、リルルがたまにモバタンを借りていくのは研究の為かと思ってたが姫乃と連絡を取り合ってたのもあるんだな。


 姫乃は片手の人差し指をリルルの前に差し出しながら。

「私とリル助は仲良しで友達だもんね~」

「はい! お友達です姫様!」

 リルルはその指先を両手で掴みながら答える。


 二人はニコニコと笑顔で嬉しそうにそう語る、ボッチで人見知り気質が似てるから波長が合うのだろうか? しかしこれからはリルルから全ての情報が洩れ……水着撮影会の情報も姫乃は知っているのだろうか……?


 俺は隣の姫乃を見てみる。


 姫乃は俺の目線を感じるとニッコリと笑顔を返してきた……。


 うん、こっちの藪もつつくのはやめておこう。



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