第112話 お化け屋敷ダンジョン一階
一本道の終点にたどり着いた俺達、その部屋の入口の向こうは西洋の墓場……いやゾンビ映画に出てくる廃れた墓場のイメージかな? 明るさは昼間なのに分厚い雨雲のせいで暗めに感じるってくらいで視界はそれほど問題は無い。
一階からゾンビが出てくるんだよなぁ……まぁリルル起こすか。
俺は胸ポケットで仮眠を取っていたリルルを軽く揺らして起こす。
「おーいリルル、ダンジョンについたぞー起きろー」
しばらくそう声を呼び掛けて揺らしてやるとリルルは。
「ふぁぁっぁぁぁああ……おはようございましゅご主人様……んーんんん、はぁ……姫様もポン子先輩もおはようございます、木三郎さんもおはよう」
「おはようですよ後輩ちゃん」
「おはよーリル助、今日はよろしくね」
『シャシャッシャ!』
フヨフヨと俺のポケットから飛び立ち皆に挨拶をしているリルル、まぁ大丈夫そうだな。
「じゃぁ入る前に情報の確認な、まず一階は見ての通りの墓場フィールドだ、出てくる魔物はゾンビと後は鬼火や人魂なんて呼ばれる浮いてる奴な」
「走らないゾンビなだけありがたいですよね、イチローは噛まれてゾンチローとかに成らないで下さいね」
ポン子がアホな事を言うが映画じゃないんだから噛まれてゾンビに成ったりしないだろ? モバタンではそんな情報は何も出てこなかったし、ないよね?
「火の玉は近寄ってきて破裂して魔法の種火をまき散らすんだよね、私の防具だとほとんどダメージを食らわないけど……近寄る前に遠距離攻撃で迎撃がセオリーみたいだしそうしようかお兄ちゃん?」
『シャ!』
「姫様に賛成します、髪の毛焦げたら嫌です」
深刻なダメージを食らうとは誰も思ってないのな、ある程度スキルを持ってると魔防値とかも勝手に上がってるっぽいしな……。
「じゃぁ火の玉で呼び名を統一な、ポン子の魔法と姫の飛ぶ斬撃は火の玉を優先で、ゾンビは俺と木三郎さんが優先して当たる、リルルはタゲ散らしでフォローな」
「了解ですイチロー」
「判ったよお兄ちゃん、リル助は私と一緒にいこう」
「頑張りますご主人様、では姫様の肩にお邪魔しますです」
『シャッ!』
「じゃ木三郎さんを前にしていくぞー!」
「「「おー!」」」
『シャッ!』
木三郎さんを先頭にしたいつものフォーメーションで墓場フィールドに入っていく俺達。
まだ入ったばかりで魔物は居ないな、〈気配察知〉も皆持ってるし大丈夫だと思うがさてはて。
「姫の目的は三階だっけ?」
俺は周囲を確認しつつそう横を歩いている姫乃に質問をする、敵がまだ居ないのでポン子は俺の頭上にリルルは姫乃の肩に座っている。
「そうだねお兄ちゃん、三階にはリビングアーマーが少し出てくる様になるんだって、こないだのオークやゴブリンなんかは防具とかほとんど装備してなかったじゃない? だから金属鎧相手にどれくらい通じるかを試しておこうと思って……後は単純に学生にここが人気ないからってのもあるけどね」
後半の方が主要な理由な気がしてきたな……そりゃ日帰り出来るダンジョンだとある程度範囲が決まっちゃうしな。
『ぐぉあぁぁ』
〈気配察知〉捉えていた魔物がいたがこちらに気付いた様だ、ゾンビに火の玉が一体づつ近づいて来る。
「まずは木三郎さんとポン子でゴー」
魔物が近付いた段階ですでにポン子とリルルは飛び立っている。
「ポン子ちゃんにおまかせあれっと、ウインドショット!」
ポン子の魔法は正確に的を打ち抜き、火の玉は消えていった。
『シャァァァ!!』
ドゴンッ、マラカスアタック一撃で消えていくゾンビだった……ゾンビが弱いのか木三郎さんが強いのか……。
ドロップはダンジョンコインのみだった、このダンジョンが人気無いのってドロップが美味しくなるのが結構深い階層からだからってのもあるみたい。
そしてすぐさま来るお代わりゾンビ、奴らは走らずにゆったり歩いて来るので余裕で迎撃出来そうだ。
「んじゃ次は俺がやるね」
皆の前に出てゾンビを待ち受け何かをされる前に千年樹の六角棒を脳天に打ち下ろす、ドゴンッズドンッ、くっ……二発必要か、ゾンビは耐久が高めなのかもしれない。
……見た目は予算の少ないB級映画みたいで、リアルで気持ち悪さ満載なゾンビじゃなくてよかった、いやそれでもちょっと気持ち悪い見た目ではあるんだけど……ゾンビ汁とかが飛び散らないだけでも十分だわ。
姫乃もさっくりとゾンビを飛ぶ斬撃で倒していた、一階は問題なさげだな。
ズドンッ。
「しかしゾンビの見た目がほぼ同じってのもすごいよな」
「ウインドショットッ! 子供のゾンビとか居たら嫌でしょうが……」
ザシュッ!
「それは嫌ねポン助」
『シャシャシャ……』
「Dコインしか出ないです……」
もう狩りながら会話をする余裕も出来た俺達、この墓場の部屋って数キロあるんだよな……似た様な風景で下手に横道に入ったら迷いそうだ。
ドガンッ。
「よっこいしょ! そういやこないだの学生達の合同狩りの後は特に問題無かったか?」
ドザシュ! ザシュ! ザシュッ! ザシュュ! ザシュッ!
「……」
姫乃からの返事は無く斬撃を遠くまで飛ばしてゾンビをひたすら狩り始めた。
ああうん、あったんだな……遠くで倒すとドロップ拾うのが大変なんだけどなぁ……。
「姫ちゃんが荒ぶってますどうにかして下さいイチロー」
「姫様こわいです」
『シャシャ……』
いつのまにか先頭を歩いて近寄る魔物を片っ端から鉄扇から飛ばす斬撃で倒している姫乃に近づいていき。
「姫乃さん? おーい大丈夫か? どうした?」
俺の声かけにやっと歩を止めた姫乃はこちらを向くと。
「もうあいつらは何なんですか! お兄ちゃんがツナギで貴方に迷惑をかけましたか!? 木三郎さんがプロレス技を使って貴方に何の関係が? フェアリーを連れ歩く事がどうしてロリコンに成るんですか! あーもうムカツク! ムカツク! ムカツク! どうせ私が鐘有さんに近しいから嫌味を言いたいだけでしょうに、でもそれがお兄ちゃん達を馬鹿にする理由には成らないでしょうが!」
ああうん、全部説明ありがとう。
「そうだなぁ……俺は気にしないんだが姫は違うんだよな、えーと……ポン子さん何かいい手は無いかな?」
何も思い付かなかった俺はポン子に丸投げをした、不甲斐ない兄でごめんよ姫乃。
飛んでいたポン子は姫乃の肩に着地すると姫乃の頬に手をあてて。
「姫ちゃん、今度そいつらの嫌味やらは全て録音しておいて下さい、そして木三郎さんを悪く言ってる部分をすべて鐘有のお嬢様に渡してみて下さい」
……思ったよりもえぐい方法を提示してきた、ポン子さんは権力と愛情を利用しつくす気の様です、ポン子恐ろしい子、でも俺もそれは良い手だと思ってしまったから同類だな。
姫乃はポン子の提案を聞くに。
「確かに鐘有さんはいつも木三郎さんの話をするけども……その程度で何か介入してくれるかなぁ?」
「勿論飴も用意します、姫ちゃんは今日の狩りの中で木三郎さんの雄姿をモバタンで何度か撮影して下さい、そして食事会でそれを見せつつこう言うのです『有象無象の戯言が減れば私は鐘有さんと画像をメールで送り合う様な仲になれるのに』と」
俺と姫乃はポン子の提案に絶句をしている……確かにただ助けてと言うよりも利益を提示した方があの子は受け入れる気もするけれど。
「なるほど……ポン助の案でやってみようかしら? 木三郎さんお願いしてもいい?」
姫乃はすぐ立ち直ってその気になっている。
『シャシャシャシャーシャ!』
木三郎さんがすごいやる気になっている。
……そしてしばしの間、墓場でゾンビを相手にしたプロレス大会が開かれるのであった。
今木三郎さんはゾンビにフランケンシュタイナーを決めている、姫乃は良い映像を撮ろうと角度を変えるべく色々動いているしリルルは姫乃に付いていって木三郎さんの応援をしている、応援や歓声があると〈プロレス〉や〈パフォーマー〉スキルは見栄えのする動きを出来る様になるとか……いや本当か?
「ポン子、本当にこの映像に需要はあるのだろうか? だって相手はゾンビだぜ?」
「恋は盲目と言いますしどうでしょうか? あ……首が飛んでゾンビが消えちゃいましたね……駄目かもしれません……」
そうして通り抜けるだけのはずだった〈お化け屋敷ダンジョン〉の一階で時間を取られてしまった俺達である。
――
後日の話だがこれらの木三郎雄姿プロレスコレクションを気に入った鐘有のお嬢様は姫乃に高性能な撮影用機材と照明等をプレゼントしたそうだ……。
それと姫乃の周りでうろちょろして居た一部の学生が何故か他の地域にある探索者専門高校へと転校する事になったそうだ。
こんな時期に転校なんて親の転勤とかだろうか? ヤータイヘンソウダナー。
その頃には姫乃への陰口とかがかなり……いやまったくもって消えたそうだよ? なんでか判らないけど皆でお祝いしちゃった、やったね姫乃。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます