第111話 お化け屋敷ダンジョン
「ふぁーあ……ねみぃ」
俺は欠伸をしながら体を少し動かして眠気を覚まそうとする、おいっちにーさんしーにーにさんしー。
「わわっちょっ、イチロー急に頭を下げないで下さいよ」
俺の髪を掴んで落ちない様に堪えているだろうポン子が頭上から苦情を訴えてくる。
「すまんすまんポン子、いやちょっと眠気を覚まそうと思ってさ」
頭上にいるポン子に謝りながらリルルの様子を伺うと。
「すやすやすや、ごしゅじんさまぁ次はすくろーるげっとですぅすぅ……」
リルルは俺のツナギの胸ポケットの中で寝ていた……。
『シャ!』
木三郎さんはいつも元気だ、このダンジョンは他の探索者に人気ないのか早朝で誰も居ないから木三郎さんを石板の裏で呼び出しちゃったのよね、リルルはは寝ぼけながらカードを出してまた眠っちゃったけど……そういやウッドゴーレムって寝ないでもずっといられるのか?
俺が疑問を伝えると。
『シャシャ!』
否定してきた、その難解な演奏と身体言語から読み取るにたまには休息が必要だが人のそれよりは少なくて済むらしい? で合っている?
『シャッ!』
どうやら合っている様だ、へぇー休憩は必要なんだな、無限のエネルギーなんておかしいものな。
今俺は通称が〈お化け屋敷ダンジョン〉なんて呼ばれている場所に来ている、家を早く出ないといけなかったんで眠いんだよな。
天使さん達を揉んだのが水曜で、木曜は〈草原ダンジョン〉で肉集めをしてた、いやほら誕生日パーティとかでさすがに全部あっち持ちなのは悪いから在庫の肉を全部クィーン姉さんに渡したんだよ、おかげですっごい美味しい料理の数々を披露してくれた訳だが、ポン子の熱い説得により再度肉集めに行った訳で、今の俺達の戦力なら壁際じゃなくても余裕だったのが嬉しい、むしろドロップ集めて拾う方が大変だと思ったくらいだ。
その肉集めの途中で速度を一定時間上げる消費型のスクロールが出たのでまたリルルさん行きに、家に帰るなり白衣をバサっと広げて着こみ眼鏡を掛けてロフトに行こうとしたのでガシッっと掴み夕飯を食べてからにしろとテーブルに引き戻した。
リルルさんは研究の事になると猪突猛進になってしまう様だ、たぶん真夜中か朝方までずっとやってたんだろうなぁ……毎度あるポン子との寝技勝負の声も聞こえなかったしね……。
消費型のスクロールなら研究や改造が終わったらまた協会に売っちゃえばいいし、経費のかからない趣味みたいな物だよね、たまに失敗してゴミになるらしいが……まぁ一個二万円もしないスクロールならいいだろ、お給料なお小遣い額もそんなに上げなくて良いって言われたしな。
とまぁ〈お化け屋敷ダンジョン〉前のあまり他の冒険者が居ない広場で雑談をして待つ事しばし。
「お兄ちゃんお待たせ~」
入口のゲートを通ってきた姫乃が手を振りながらこちらに駆けてくる。
え、お前その恰好のままで来たの?
姫乃の見た目なんだがこないだの〈攻城戦ダンジョン〉の時は学校の制服と鉄扇だけだったのだが、今はその制服の上から鎧を着ている。
鎧は日本の甲冑とも言える様なもので……がっちりした甲冑では無くて軽量化をされて各種パーツが減らされているその見た目はアニメに出て来そうな感じで、そうだなぁ……日本の女子高生が戦国時代にタイムスリップして姫武将として戦いました、だけど体のラインが見えなくなるリアル甲冑はアニメ的に可愛くないので少し簡略させて見た目重視にしました! みたいなイメージだ。
頭は鉢金だけで髪の毛も後ろてまとめて背中に流している、たぶんダンジョン産だから魔力的な何かで防御は上がってると思うんだけどね。
「おはよう姫、それが本気装備なのか?」
ポン子や木三郎さんとおはようの挨拶をしていた姫乃に俺はそう問いかけた。
「そうだよお兄ちゃん、お義母さんのお古を貰ったの、姫武将シリーズの装備でセット効果も付いててすごいんだよこれ、本当はお義母さんみたく拳や蹴りで戦いたいんだけど私には血統スキルが継がれないから……今は鉄扇でいく、でもいつか拳でミスリルゴーレムとか爆散させるのが夢なんだ」
姫乃の夢を聞いてちょっと引いている俺が居る、ミスリルゴーレムって爆散する物なの?
「そ……そうかJK姫武将って感じで可愛いよ、それに姫武将シリーズ装備なんてあるんだな」
「そんな可愛いだなんて……私もそう思いますビシッ! 〈
俺の褒め言葉に喜びつつも鉄扇を開きポーズを取りつつ可愛いのは当然だと返す姫乃、さすがだな。
俺の頭上からは『センキ呼びは継がない様にするんですね』というポン子の呟きが漏れ聞こえるが姫乃は聞こえて居ないフリをする……あの二つ名は可愛くないものな。
俺と姫乃はお互いの装備の確認等を済ませると〈お化け屋敷ダンジョン〉の入口へと歩いて行く。
先頭を進むのは木三郎さんその後ろに俺と姫乃、ポン子は敵が出るまでは俺の頭上で、リルルは……俺の胸ポケットの中でまだ寝ていた、姫乃がもう少し寝かせてあげようと言っているからいいけど。
ダンジョン入口の階段を降りると長い一本通路が伸びている、途中には転移魔法陣部屋しかないその道を歩きながら姫乃が。
「お兄ちゃんはシリーズ装備とか知らなかったの?」
歩きつつ俺と腕を組みながらそう聞いてきた。
甲冑が当たってゴツゴツするんですけど……。
「そうだな、情報を集め始めたのが最近ってのもあるが、まずは手の届く値段の物から調べてたからなぁ……存在は知ってたが高そうだしまだ詳しくは調べてないな」
オークションで自分が買えない範囲の物をちょろっと見たくらいだったな……あれはなんとか魔術師シリーズだったか? 入札値が億超えてたから詳しくは見なかったんだよ。
姫乃は俺と腕を組みつつ空いた片方の手の人差し指を唇に当てながらしばし考えて。
「んー、ピンキリかなぁ……まぁ安めの物なら中級探索者でも手が届く感じかな、姫シリーズって一杯あってね、武将でもバリエーションはあるし、戦姫巫女シリーズなんてのもあって可愛いの! いつか一緒に取りにいこうねお兄ちゃん!」
笑顔でそう言う姫乃は可愛いけども、その戦姫巫女シリーズが出るダンジョンってやっぱそれなりにやべー所だよね? もっと強くなるまで待って下さいお願いします。
それに女子のそういう装備って可愛いってだけで性能を超えて女子探索者に人気が出て余計に高くなってそうな気がする……そういや街を歩いているコスプレちっくな探索者ってもしかしてシリーズ装備な人も居るのかも?
「んじゃ姫、その中級探索者でも手が届く安いシリーズってどんなのがあるんだ?」
まずは俺が買えそうな物から調べないとな、地獄産ジャージの上から装備できる鎧は欲しい所だし。
姫乃は何故か少し嫌そうな顔をすると。
「え……お兄ちゃんゴブリンシリーズとか欲しいの? ごめんなさい私一緒に歩けないかもしれない」
姫乃は俺の腕を離すと、一歩分距離を空けた。
「いやいや値段を聞いてるだけだから、名前を聞くだけでもう要らない気もするが一応な?」
「そうなの? ゴブリンシリーズ買ったりしない?」
姫乃の問いかけに俺はコクリと頷きで返すと、姫乃は安心したのかまた俺に近づき腕を取ってきた、だから甲冑がゴリゴリっとして痛いんだけどな……。
「私が知ってるゴブリンシリーズは〈
「意外と高いな……実は効果がすごいとか?」
思ったより高いのでびっくりしてしまった、姫乃はすごく言いづらそうに続ける。
「シリーズ装備なんかは上位種を倒さないと出ないからダンジョンの奥のレアドロップになるの……ゴブリンシリーズはその……色々上がるんだけど一番の目玉は……」
姫乃が言い淀んでいるので俺は促す様に聞き返してしまった。
「目玉は?」
「……基礎能力のうちの精力がすごく上がるんだって……お兄ちゃんのエッチ! 私に何言わせるのよ!」
俺と腕を組んだままの姫乃は少し頬を赤くさせた顔で見上げながらそう言ってきた。
頭上からポン子の笑い声と共に。
「アハハそれならイチローはすでにゴブリンシリーズを装備している様なものですねぷっふふっ」
なんて声を掛けてくる。
『シャッ!』
木三郎さんも肯定しないでいいから!
それに、たぶんだが俺の精力はそのシリーズ効果より上だよ! ゴブリンに負けてたまるか! ってなんでやねん! そんな所で勝負したくないわい。
姫乃が抗議の意味を籠めて俺の腕をギュッっと強めに絞めて来る、だから甲冑が痛いねん……いや……甲冑が無くてもクッションが無いから同じかも――
「お兄ちゃん?」
なんでもないです。
「……馬鹿にされたと思ったんだけど気のせいか……、そういえばオークションではゴブリンシリーズとかオークシリーズが姫騎士シリーズと一緒に良く売れるんだって、なんでだろ?」
ポン子が『それはですね』と頭上から説明をしだしたので、俺は頭を激しく振り回してポン子の言葉を止めた。
知らないなら知らないままでも問題ないからな。
と思ったが俺とポン子の攻防を見た姫乃の笑い方からして知ってる気がした、お前は俺に何も言わせたかったんだ……。
兄が妹にその因果関係を説明するとかどんな罰ゲームだよ。
っと一本道の終点についた、ここから先は魔物が出るから真面目に行かないとな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます