第108話 余波

 雨がザーザーと降っている中コンビニにお昼を買いに行き、ちゃちゃっと飯を済ます。


 さて午後は三人相手のマッサージ業だ、頑張るぞっと、準備も万端でお客を出迎える、ちなみにリルルはロフトの上に逃げている、まだ天使は苦手みたいだ。


 天使側の魔道具の側に魔法陣が出現し一人の天使が現れる。


 俺と、肩の上のポン子はお客様を迎え入れる。

「いらっしゃいませ」

「いらっしゃいですよ」

 現れた天使は金髪天使さんだった、そういや優先権があるとかなんとか言ってたっけか。


 金髪天使さんは背中の翼を消して近づいて来て俺の前にある座布団に座ったので俺も座る、サキュバスもそうなんだが天使も翼は消したり出したり出来るのよな、マッサージの時は消してくれるのがデフォだ、半魔法物質だとかなんとか? よくわかんね。


「こんにちはモミチロー先生、やっと諸々の仕事に目途がついたのでまた来てしまいました」


 やっとあのハゲ中年の後始末が終わって……いや目途が立つって事は終わってないのかな? まいいか。


「お疲れ様です金髪天使さん、今日も頑張って癒し揉みしますからね」

「はい! お願いしますモミチロー先生」


 俺と金髪天使さんがニコニコと笑顔で会話をしているとポン子が横から口を出してくる。


「それで例のハゲ中年の件は問題無く終わったんですか?」

 俺もちょっと気に成っていた事をポン子が金髪天使さんに聞いている。


 その瞬間笑顔だった金髪天使さんの表情が固まった、しばらくしてあからさまに目を逸らして言って来る。


「も、勿論ですとも……あの悪魔に憑かれたハゲの能力は消しましたし、ばらまかれた荒魂や封印された妖怪やら何やらかにやら……思い出したらもう一回ぶっ飛ばしたくなってきました……まぁそれらも全て倒したり再封印はしましたよ……」

 目は逸らしたままだが話を聞くに終わっている様だ。


「そうですか、では何の問題も無く終わったんですね?」

 ポン子が再度同じ事を聞いている、大事な事だから二度聞いているのだろうか?


 どうしてこんなに念入りに聞くのかね?


 俺がポン子から金髪天使さんの方に視線を移すと、金髪天使さんの額から脂汗が滲み出てきている、その視線は泳ぎまくり口は小さく開いたり閉じたりしている……え? 何かあるの?


 ポン子は再度聞いて行くようで。

「何の問題も無く終わったんですね? ……どうせ違うのでしょうし早めに情報をくれないですかねぇ……後で黙っていた事が発覚したら昇天屋予約の優先権を剥奪します」


 どうしてポン子はそこまで……。


 その時金髪天使さんががばっと頭を下げて来て。

「すいませんそれだけは許して下さい」

 そう謝って来るのであった。


 ポン子は溜息を吐きながら。

「はぁ……貴方が関わって問題が起きない訳が無いんですから……それで何があったんですか?」


 そういやポン子が前に金髪天使さんの不運がどうたら言ってたっけか、そんなにすごいのだろうかこの人の不運って。


 金髪天使さんは顔を上げると申し訳無さそうな表情で語り出す。


「この間の事件で日本の神々が管理している区画でも戦闘があったのです、そこの温泉旅館を天使側の対応ミスで破壊してしまったのを謝りに行ったのですが……丁度その謝りに行く日が前回モミチロー先生に私が揉まれたあの日でして……私の様子の変化から相手の日本由来の神に、私が主神以外からリソース供給をされてる事を突っ込まれまして、モミチロー先生の事がばれてしまいました、ごめんなさい」


 ポン子はアチャーと手を顔にあてている。

「あの時の貴方はハイテンション状態でしたものね……それだと根本的な原因がイチローに有りますね……こちらが謝らないといけないかもしれません」


 え? よく判らんが……。

「俺が悪いのか?」


 俺がそんな事を呟くと金髪天使さんが両手を前に出し手の平をこちらに向けて横に振りながら。

「違います! モミチロー先生は悪くないですよ! 私が先生の揉みの効果に気付いていれば良かった話なんです、天にも昇る様な心地の癒しを受けてテンションが高いまま日本由来の神様との話し合いに行ってしまったのが悪いのです、まさかモミチロー先生がリソース譲渡まで可能だとは……仙人にでも教えを受けたのでしょうか?」


 動画の匠師匠さんは自身の事を仙人と言ってるからなぁ……動画を見る事で教えを受けたという事になるのだろうか?


「それでその神はイチローの事をなんて言っていたんですか?」

 ポン子が真面目な顔で聞いている。


 金髪天使さんはその時の事を思い出しているのか目線を上に上げて考えながら口を開く。

「えーと私の様子がおかしい事からリソースの事に気付かれて、事情を知る為だけで悪い様にはしないから話してしまえとそんな風に話を持っていかれまして、元々こちらが謝罪をする場でしたので……モミチロー先生の事を説明しましたが、相手の神は『今はワシの胸の内だけの話にしておいてやるわい』と言っていましたので……問題は無いかなって……」


 まったくもって問題が無いという様な声色では無いけどな。


「判りました、今すぐどうこうの問題じゃない分だけいつもよりマシですね」

 ポン子は何故か安心をした風にそう言うのであった。


 金髪天使さんはどんだけ問題を起こしているんだろうか? いや不運というなら問題に遭遇する体質とかなのかね。


「覚悟が出来る分以前よりマシです、この話は終わりにしましょう、厄介事は未来のイチローに丸投げです!」

「俺が被るのかよ! いやまぁどうにも俺のせいって事でもあるみたいだからいいけどよ……、そうだ金髪天使さん揉みの極意、あーリソース譲渡揉みはやめておきますか?」

 俺が金髪天使さんに極意揉みをやめるかと聞いてみたら。


「あんな素晴らしい技をやめるなんてとんでもない!」

 グァっと体を前に乗り出し、自分の両手で俺の両手を握りしめそう宣言してくる金髪天使さんであった。


 そうしてあの極意の揉みがいかに素晴らしいかを一通り語り終わった金髪天使さん、自分がずっと俺の両手を握りしめている事に気づき、その体勢のまま。

「あ、あのモミチロー先生、もし、もしですよ? 日本の神々が問題を持ち込んできたら、私が、その……責任を取ってですね……モミチロー先生の守護……守護天……えと、守護天使を増やす気になられましたでしょうか?」


 俺の両手を握りしめ顔を少し俯かせながらボソボソと話す金髪天使さんの声は小さく良く聞き取れなかった、最後の守護天使を増やすかの質問だけはしっかり聞こえていたので。


 あれだろ? ポン子増殖計画の事だよな?


「いやエンゲル係数でうちの家計が破裂するので増やす予定はありません」


 そう答えておくのであった。


 俺の肩に乗っているポン子からは溜息と共に、違います、という呟きが聞こえるがお前が増えたら家計が終わるじゃん? 合ってるだろうに。


 金髪天使さんは何故かすごいテンションの下がった感じで離れていく、お仕事忙しいのを思い出しでもしたのだろうか、なれば今日も精一杯癒し揉みをしようじゃないか!


 金髪天使さんにはお世話になってるしな、その恩に報いてあげないとね!


「では始めましょうか金髪天使さん、こちらのマットの上にどうぞ」

「あ……はい……お願いしますモミチロー先生……」



 うぬ、何故か急に元気が無くなったな、これは本気で癒さないといけないな。


 実はスキルを一杯覚えたり何度も〈マラカス〉や〈ナデポ〉を使っているうちに力の使い方が一段上手くなった気がするんだよね。


 という訳で今日は今まででも最高の揉みが出来る気がする、匠師匠の動画を思い出し呼吸を整えてから、いざ、いきます!



 ――

 ―




 毎度思うんだが〈生活魔法〉の結界を利用した遮音魔法があって良かったなぁと思う。


 あれが無いと隣近所から苦情か通報されるんじゃないかってな、今日も金髪天使さんは前回より大きな声を出して気絶しちゃったしな……すやすやと気持ちよさそうに眠る金髪天使さんの顔は普段より少し幼げで可愛いよね。


 こんな可愛くて美人な天使さんがなぁ……俺の守護天使とかだったらなんて夢想をしちゃう事はあるよね、現実はポン子な訳だが……いやまぁポン子も一緒に居て楽しいけど。




 さて次のお客様を待つか、リルルー木三郎さん召喚してお茶にしようぜーそうロフトに呼びかける俺であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る