第106話 誕生日会

 RPGゲームでの勝負は却下されて、ダンスゲーとやらを試す事に、モバタンのセンサーでこちらの動きをトレースして画面内に取り込んでくれるのだとか。


 ふっ〈舞踊〉スキルの有る俺が優勝じゃね?



 ――


 ちょいさ! ほいっと、よっこい、どっこいしょー!


「なんで点が伸びないんだよ! 俺の芸術的な踊りをちゃんと採点してくれよ、このゲームもバグってるな……」


 部屋に無理やりスペースを開けて順番に踊る俺達、まずは俺がと試してみたが点数がさっぱり上がらない、俺がやるゲームは全部バグってるんだが?


「バグってるのはイチローの頭です、チュートリアルをスキップするからいけないんですよ、このゲームは画面の中の踊り子と同じ踊りをするんです、独創性なんていらないんですよ」

 ポン子が呆れ声でそう言ってくる。


 なん……だと……、おれが全身全霊で踊った踊りは意味なかったというのか……。


 その場で項垂れていた俺だが木三郎さんに邪魔だと運ばれた、あれ? 君の主は俺だよね?


 そして真ん中にテーブルが置かれてポン子の番になる。


「へいへい、ちょやさ、まだまだ、ターンっ、そして決め!」


 おー、俺や周りに居たみんなで拍手をする、なかなか決まってる踊りだった、そして点数が出て……A+の評価が出ていた、すごくねぇかこれ?


 俺? 俺はほら……D-でしたが何か?


 次はリルルの番だな。


「1234、56っと、123ターンで、決め!」


 うわぁ……すげぇなリルル完全に一致しているというかこの子たまに画面を見ないで踊ってたんだが、俺やポン子の時に踊りの構成を覚えたって事?


 っと拍手をせねばパチパチパチッ、恥ずかしそうにしているリルルだったがS-の評価だった、これは決まったかなぁ。


 テーブルを片して次は格ゲー姉さんの番だ、俺はこれをすごい楽しみにしている、何故ならば。


「ほっ、やっ、とやっ!、にゃっ跳ねると胸が邪魔、やぁターン、そして決め!」


 素晴らしい光景に俺は拍手を惜しまなかった、パチパチパチパチパチ。


 リルルもすごかったがジャージだからな……格ゲー姉さんのその体にピタっとした格ゲーコスプレでお胸様がダンスの動きと共に跳ね回る、うむ、大きいと慣性の法則で踊りの邪魔になるというのは新しく得た有意義な知識だった、ポン子? ああうん可愛いらしい踊りだったよ?


「なんでしょうイチローに馬鹿にされた様な気がしたのですが」

 ポン子が呟いている。


 気のせいだ。


 ちなみに格ゲー姉さんの評価はB+、これで決まったかぁ……。


『シャシャ!!』

 そこに木三郎さんが躍り出た! なんだと、もうS評価が出て居るこの魔境なゲームに参戦するんだな?


 俺がそう木三郎さんに聞くと彼は。


 コクリと頷き。

『シャッ!』


 そのマラカスを鳴らすのだった、漢や果てしない壁でも挑戦する漢がここに居る。


 ポチっっとゲームを始める木三郎さん。


『シャ! シャシャ! シャシャシャ! シャッシャ! シャー!』


 すごい画面内部の踊りと完璧にシンクロしつつ尚且つマラカスの音も合っている!


 ……ダンス評価だしマラカス必要なくね?


 俺や皆は万雷の拍手で木三郎さんの踊りを称える、ちなみに台所のクィーン姉さんも拍手をしていた。


 そして評価は……ゴクリッ……S+!


 俺は木三郎さんの勝利を宣言する。

「木三郎さんの優勝だ――」

「ちょー-と待ったぁぁぁ!」


 そこに台所から声がかかる、そう、エプロンを外し派手なフサフサのついた大きな扇子を持ったクィーン姉さんの声だった。


「なにやつ!」

 俺は一応そう聞いてみた。


「ふ、ダンス勝負と聞いてこの私が参加しない訳にいかないわね、思い出すわ……まだダンジョンが出て来ていない日本でしていたサキュバスの営業活動……ワンレンボディコン姿でこのセンスを振り振りと回しお立ち台で踊っていた日々を……お立ち台のクィーンと呼ばれたこの私の踊りを見せてあげるわ!」

 何故かノリノリのクィーン姉さんだった。


 ダンジョンが無い頃の日本って1999年より前って事だよな、サキュバスの年齢とか聞いちゃったら駄目なんだろうなぁと思う、ポン子が言うには神や悪魔に年齢の概念はあんまり意味ねーって言ってた様な気もするしなぁ……。


 お立ち台とやらでもクィーンだったんだねクィーン姉さんは、だけどワンレンボディコンってナニー? 後で調べておこうっと。


 そしてポチっとゲームを開始するクィーン姉さん。


「ハイハイッ、フッフ、ソーレッ、ヒラヒラヒラ、ターンで決め!」


 俺達は一応拍手をしながら思う訳だ。


 あの……クィーン姉さん? 画面の踊りとまったく違いますよね? なんですかその踊り、しかし俺達が疑問の声を掛ける間も無くクィーン姉さんは台所に帰っていった、その顔はやり切った感じで満足している物だった……。


 そして俺の横を通りすぎる時にさっきのちょっと待ったの時の返し方に駄目だしをされた。


 いや、意味判らないから! 扇子をヒラヒラさせて体を捻る動きはセクシーだったけども! ゲームの主旨を無視した……そういや俺も無視してたっけ、うんそういう事もあるよね、そして返しが違う? よく判らんけど後で調べてみますね。


 クィーン姉さんの評価はD+だった……何故俺と同じに無茶やってるのに俺より評価が高いのか? ……解せぬ。


 そろそろ夕方というのでテーブルを並べる、異世界焼肉の時の様な感じだ、そういや兄貴から肉こねーなぁ……一応お菓子を入れて完了ボタンを押しておいてあるんだけどな。


 テーブルに次々と並べられる料理、まさにパーティといった感じだ、ピザもスパゲッティも唐揚げも美味しそうだな。


 そして壁の魔法陣が光りポニテ姉さんがやってくる、皆でお祝いって言ってたけどポニテ姉さんとクィーン姉さんと格ゲー姉さんしか居ないんだがこれで全部なのかな? いやまぁ部屋が狭いからそう何人も入れる訳じゃないんだが、木三郎さんも部屋が狭いから玄関方面に退避してくれたしな。


「おー準備万端だね、じゃぁ始めましょうか、あ、ご主人ちゃんはこっちの席ね」

 ポニテ姉さんが俺を台所側に呼ぶ、ふむお誕生席って奴か?


 そして始まるお誕生会であった。


 ポニテ姉さんが場を取り仕切ってくれる。

「ではご主人ちゃんの十八歳誕生日を祝ってカンパーイ」


「おめでとう、お料理一杯作ったから楽しんでね」

「おめでとーご主人君」

「おめでとうですよイチロー」

「おめでとうですご主人様」

『シャシャシャ!』

「おめでとうご主人様、これでR18が解禁されたわね」

「おめでとー」

「おめー」


 ありがとういやぁ嬉しいなぁこんなに祝って貰えるなんて……って、背後!


 俺は後ろを振り向いた、すると可憐姉さんが俺の背中に張り付いていて、さらに僕姉さんや他にも見た事のある人達が、そして魔法陣から次々とサキュバスさんが出てくるんですが!


 いやいや狭い狭い部屋が狭いから!


 ポニテ姉さんは何故か据わった目で。

「サキュバスがお祝いするって言ったでしょう? ご主人ちゃんに挨拶がしたいっていうサキュバス全員を順番にご招待しました! なので握手をしていってあげて下さい! お願いします!」


 ポニテ姉さんが何故かそう必死な感じで俺に頭を下げてお願いをしてくる、まるで俺が握手をする事でポニテ姉さんが救われるかの様な必死さだ、勿論俺は。


「ええ、勿論いいですよ、俺を祝ってくれるなんて嬉しいですからねどんと来いです」

 俺は笑顔でそうポニテ姉さんに言った。


 ――



「このピザも手作りなんですよね……素晴らしいですしお店とか出せちゃうんじゃないですか?」

 ポン子がピザを食べながらクィーン姉さんの料理を褒めている。


「天使妖精さんそれは褒め過ぎよぉ~もう只の料理好きな素人だってば、ほら妹ちゃんもちゃんと食べなさいね」

「ありがとうです姉様」

 クィーン姉さんやリルルも楽しそうにパーティを過ごしている。



 ……そして俺は。


「はいお祝いありがとうございます」


 次々と現れるサキュバス達から契約魔法陣めいしを貰い、そして握手をしていく、その時少しだけ精力を吸われているらしいが……よく判らん、体調に変化も無いし。


 俺は笑顔で握手をしながら横でご飯を食べているポニテ姉さんに声を掛ける。


「あのポニテ姉さん? これもう一時間はやっているんですが何人来る予定なんですか? あ、どーもありがとうございます、契約魔法陣めいしはそこの箱に入れて下さい、勿論です! 後でしっかりと見させて貰いますね~はいさようならー」


 魔法陣の前で消えていくサキュバスさん、そして新たに現れるサキュバスさん。


「そうねぇ……ねぇご主人ちゃん、一日ってのは二十四時間しか無くて一時間は六十分しか無いの……つまり一日は1440分しか無いのよね? そしてご主人ちゃんの事を聞きつけたサキュバスは日に日に増えているの……つまり一分で一人以上対応しないと一日たっても終わらないわね」


 千五百人超えてそうじゃないですかー! えええ? まじで言ってるのか?


 あ、どうもーありがとうございます。


「ぎりぎりまで頑張りますけど切りの良い所で止めてくださいね?」

「勿論よ、はぁ……ねぇご主人ちゃんこの握手会定期的に開かない?」


「なんでそんな事に!?」

「だってこれ私が毎日やってるのよ? おかげで地上の勤務から外されてしまったわ……」


 まじか? あ、どもーありがとうございます、はいまたーバイバーイ。


 しかしちょっと疑問に思うんだが。

「ねぇポニテ姉さん、リルルはポニテ姉さんから精力を吸い出してましたし、俺から吸った精力を誰かに渡して代わりに握手会? ってのをやって貰うのは駄目なんですか?」

 俺がそんな風に聞くとポニテ姉さんは目を大きく開いて俺を見ると……。


「……その手があったか……私超馬鹿じゃないの……」

 ポニテ姉さんがテーブルに突っ伏した……。


 そしてむくりと起き上がったポニテ姉さんがやけ食いを始めた。


「はいどうもーありがとうまたねー、あのポニテ姉さん悔しかったのは判るんですが、俺の背後から抱き着いて当てている可憐姉さんもどうにかして欲しいんですけど」


 実はずっと背後から可憐姉さんに抱き着かれている、背後霊みたいなんだが。


「モグモグモグ……部隊長が言うにはね、お酒でもたばこでも急に辞めさせるのはよくないんだって、変態もまたしかりって事で満足するまでそのままでお願いしていいかな?」


 俺の背中に抱き着く事が可憐姉さんを救う事に繋がるならいいけども……一体何があったの?


 禁酒に禁煙ねぇ……俺はまだ後二年待たないと飲めないし吸えないが禁煙するにはニコチンの含まれたガムを噛むとか聞いた事がある、つまりこの場合俺はガムの役割って事で……ん? ……変態の含まれたイチローって事なのか? ……解せぬ。



 あ、どーもどーも、この間昇天屋に来てくれた人ですよねありがとうです、撮影は今日は無しですねーさすがに数百人撮るのは……はいではまたー。



 はいどーも握手ですね、いやーありがとうございます、契約魔法陣めいしはその箱でお願いします、はいまたよろしくー。



 そういや俺、まだ何も食べれてないな……ポン子がどんどん食べていっちゃってるんだが、残しといてくれてるよなぁ!?



 ――

 ―


 その握手会は誕生日が終わるまで、つまり0時まで続いたのだった。

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