担当護衛官編

第103話 担当護衛の初仕事

 少し前に俺のサクセスロードの始まりだ、なんて勘違いしていた事を言ってしまい申し訳ありませんでした。


 こんにちはイチローです、俺は今とあるダンジョンの中層に来ている。


 今日は姫乃から護衛官合格の知らせを受けてから五日程過ぎた月曜日の午前になります。


 学校から送られたきた電子書類にて各種契約をし、その後は新しく得たスキルの習熟に費やした、今週末は昇天屋をお休みしてダンジョンに行こうと思ってたのだが、俺の部屋に直訴に来るサキュバスや天使がそこそこ居たので、少人数だけ予約を取る事にしたんだよ。


 彼女らにお願いされる時に言われた禁断症状って何? ……あれは冗談だったんだよね?


 まぁそれは置いておこう、姫乃達は基本的にはパーティごとにダンジョンに潜るのだが、たまに纏まって潜ってお互いの実力を見せ合うのだとか、成績に直結するので皆張り切るらしいんだが……。


『ドガーンッ』


 俺のはるか前方でオークが吹っ飛ばされてるのが見えた。


「あれはドロップ拾うのが大変そうだねお兄ちゃん」

 俺の護衛するべき相手である姫乃がそう言った。


 今居る中層は広大なフィールドにゴブリンやオークの砦が各地にあるという構造をしている、そこの入口で姫乃の学校の一クラス分くらいの人数が集まって戦闘をしている訳だ。


 クラスを超えてパーティを組む事もあるので全てがクラスメイトでは無いとか、だいたい四十人くらいいるかね?


 パーティごとに分かれて入口を背に半円上に配置をして背後に居る教師やらに見守られつつ戦闘をする訳だ、敵は戦闘教官とやらが奥に入り込みこっちに誘導してるんだとか。



「あいつらなんであんなに張り切ってるのかな……装備もしょぼい素オークにあんな派手な技いらんだろうに……ドロップは金持ちエリートだしいらねーのかもな」



 俺らは半円上の配置でも壁付近に追いやられたので暇でしょうがない、まだ武器持ちゴブリン二匹しか倒して無い。


『ズドーンッ』


 ゴブリンの一団がファイヤーボールの直撃を受けていた。


「オーバーキルですねぇ……力はあれど加減を知らずですか……探索者としては素人と言う事です」

 ポン子が訳知り声で俺の頭上からそんな事を言う。


 あれ? お前ちょっと前に砂漠部屋でアホなオーバーキルしなかったっけか?


 ちなみにリルルは人が多いので俺のツナギの中でお留守番をしている、危険な戦闘になったら出て来てくれるとは思うんだが、教師とか戦闘教官なんかも居るしそんな事は起きないだろうね。


『シャカシャカッ』

 木三郎さんも何かを言っている、何を言ってるかは判らん。


 姫乃は持っていた鉄扇で配置ラインの前線付近を刺しながら。

「あそこに居る鐘有さんにアピールしているんでしょうね、自分はこんなに強いからパーティに入れて下さいって」


「なるほどな……、そういや姫は鐘有さんからのパーティ要請断っちゃって良かったのか?」

 姫乃は彼女の誘いを断ったみたいなんだよね。


「良いに決まってます! ただでさえお昼ご飯を一緒に食べる様になってから周りの有象無象からねちねちと聞こえる様に嫌味を言われているのに、これでパーティを組んだら直接な嫌がらせが来るに違いありませんよ! それが判っているから鐘有さんも引いてくれたんですから」

 姫乃はプリプリとしながら鉄扇を一閃。


 十メートルは離れていた近づきつつあるゴブリンが消えていった。


 その飛ぶ斬撃ってどうやるの? かっこいいから俺もやってみたいなぁ……。



「そうなると鐘有さんのパーティに入ったあの女の子は大丈夫なのかね?」


 鐘有さんとユキさん、そして見知らぬ女の子の三人パーティになったみたいなんだよな、彼女らも戦っているが派手さは無く粛々と危なげなく倒している様子が遠くから伺える。


「あの人は仕事で関係があるとかで……利益があるうちは絶対に裏切らないから判り易いとかなんとかご飯を食べた時に言ってましたね、ちなみにご飯は私と鐘有さんと小雪さんの三人で食べてます……コン様コン様ってちょっと煩いんですよ、あのお嬢様」


 ビジネスライクなパーティって事か、それはそれで寂しい気もするけどね。


『ドゴーンッ』


 また大技が決まった様だ。


 俺はその爆散する地面とオーク達を見つつ。

「むーん、やってる事は無駄だがその威力はすげーよな、さすがエリート校の学生だ……俺よりつえーなありゃ……はぁ……上には上が居るって判るが年下に見せつけられるとサクセスロードがどうこう思ってた自分が馬鹿かと思うぜ……」


「何を言ってるのお兄ちゃん! こんな可愛い子が妹で嫁でも有るんだよ!? その時点でもうサクセスロードまっしぐらじゃないですか!」

 姫乃がバサっと鉄扇を開き決めポーズをしながらそう言ってきた。


 頭上からポン子の「よっ美人嫁姫ちゃん超可愛い!」なんていう適当な掛け声が聞こえてくる。


「そうでしょうそうでしょう、ポン助は判っているわね、後でお菓子を買ってあげるわ! 当然リル助の分もね」


 これが狙いかポン子! いや姫乃が可愛いのは当然だがあんまり煽ててやるなよ?


「そういえばお兄ちゃん明日誕生日ですよね? 平日なので遊びに行くのが難しいので今お祝いしておきますね! 十八歳おめでとうお兄ちゃん、これで結婚出来る歳になったね……少し前は私が居ない間にかっさらわれるんじゃないかと不安だったけど今は周りに誰も居なくて超安心です!」


 そうか明日は誕生日か……祝われるのは三年ぶりか? 姫はちょいちょいこんな言い方をするが……記憶の無い頃の俺には仲の良い女子でも居たんだろうか? いたような居ないような……はぁ……この記憶障害もどうにかならんかね。


『ドンッ』


 俺と姫乃の前で木三郎さんがオークにジャーマンスープレックスを決めた、それを見ていた周りの学生パーティから嘲笑と皮肉の呟きなんかが聞こえる、うっせーわ、こう見えてもうちで一番強いのは木三郎さんなんだよ!


 遠くから『コン様素敵です!』って声がするが気のせいに違いない。


 む? 遠くから土煙が……うぇあれやばくねぇか?


「なぁ姫、あれ百は超える集団に見えるんだが、大丈夫と思うか?」


 遠くからオークとゴブリンの混成部隊っぽい物が土煙を上げながら近づいて来るのが見える、今までは多くても十は超えない感じだったのだが……教師が釣りを失敗したのだろうか?


 姫乃はそれを見ながら……。

「ああいえ、たぶん長距離が得意な子達の為の的だと思います、あ、ほら始まりました」

 まったく動揺すらしなかった姫乃であった。



 俺が姫乃から魔物の部隊に目を向けると……大量の魔法やスキルによる遠距離攻撃や魔法を帯びた矢などが降り注いでいた……なにあれ……今までのは近接戦の為の敵だったのか。


百を超える魔物の群れは学生達にたどり着く事無く消えていった……。


 うん、俺は井の中の蛙って奴だったかもしれない、一般人の探索者の中ではスキル数で初級者を飛びぬけたかと思ってたんだ、イモムチローから蝶に成れたなガハハとか内心では思って居た……。


 血筋や資金力って馬鹿にできねーなぁ……、俺はまだイモムチローでいいや。


 っと追加が次々と釣られて来るのが見える、教師達も生徒の実力を見極めて大丈夫だと思ったんだろう、これからが本番なのかもしれない。



 俺らがいる方にも武器持ちゴブリンや無手オークなんかがバラバラと飛び掛かって来る。



「うっし、じゃあ俺らも真面目にやるか! これは姫の実習なので、姫が先頭、俺が右側、木三郎さんが左側でサポート ポン子は上空から随時援護射撃」



「ふふふふ……お義母さんの特訓に比べたらこんなもの蚊に集られている様なものです、ふふふふふふふ」

 姫乃は鉄扇を持った右手を真一文字に振りぬいた、それだけで魔物の先頭を走っていた二匹が切り裂かれて倒れる、そしてちょっとうちの妹の笑い方が怖い、お母さんとの特訓で何かあったの?


「やるぅ姫ちゃん! では私も少し削ろうかなっとウインドスラッシュ!」

 ポン子が風の攻撃魔法を放つとゴブリンの首が飛んでいった、風魔法の意力が上がってるなぁ……〈風魔法〉スキルのおかげだね、まぁそれ相応の魔力を消費するらしいので他の初級魔法の出番が無くなる訳じゃないのだろうけども。



『シャシャシャ!』

 木三郎さんがマラカスを一振り、ズドンと吹っ飛ばされて消えていくゴブリン、ほんと木三郎さんは前線で暴れるタンカーとしてもアタッカーとしても優秀になったよな、相手が一人になるとプロレス技になるのは……木三郎さんの趣味やロマンだからね仕方ないね。


 そして趣味のあるウッドゴーレムって益々表に出せない存在になっていく、君は何処まで行くんだろうね……そのうち人間の知性を超えてウッドゴーレムを率いて人類に反逆とかしない事を祈ろう、まぁこの世界はSFじゃなくファンタジーだから大丈夫だとは思うけども。



 うーん十分俺達でもオーバーキルだなこれ、っと俺の方にも来た。


 オークのパンチを六角棒で受け流す、この天使さんに届けて貰った新しい武器も魔力の通りが良いのか使い易い、オークの体勢が崩れた所に〈マラカス〉付与して突きを放つ、体に穴が空いて電撃を食らったオークは倒れていき……そして消えていく。


 まぁ魔物にもスキル持ちがいるそうだし、そういったのが出てきたら大変になるんだろうね、武器持ちゴブリンにもたまー---に手強い奴とか居て戦闘スキルを持っていたんじゃないかなって思う時がある。


 そうして戦う事三十分程、全体の戦いも終わり教師陣から撤収が言い渡された。


 てか派手な戦闘してたあいつらは本当にドロップ拾ってないのな……拾いたい、いらないのならそのドロップをすごい拾いたいが……姫乃の担当護衛官として来ている俺がそんな事を出来る訳もなく、そのうち消えていくのかなぁ……もったいねぇな。




 そんな思いを抱えながら姫乃と一緒にダンジョンから出ていくのであった。

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