第100話 前途洋々

 白夜ダンジョンから帰ってきた俺達、屋台で買った夕飯を囲みながら雑談をしている所に壁が光って一人の天使が現れる。


 こんにちは、と挨拶をして来たその天使さんは堕天使コス撮影をした人だな、金髪天使さんが言っていた千年樹とやらを加工した六角棒を届けてくれた、長さは以前から使っている棒より少し長く床に着けると俺のアゴくらいまである、まぁ〈槍術〉があるから多少長くても使えると思う。


 ありがとうございますと俺がお礼を言うと、まだまだ天使さん達は後始末に忙しいと帰る準備をし、休暇が取れたら即座に揉み屋に予約入れるからねーと言葉を残して転移していった。


 あの暗示のハゲおっさんはどんだけ迷惑かけたのかねぇ……知りたいような知りたくないような。


「イチロー、姫ちゃんから通話連絡が来てますよ~、モグモグぬるい……やっぱたこ焼きは焼き立てがいいですかねぇ……」


 夕飯を食べながらのポン子にそんな声を掛けられたのでモバタンをスピーカー状態にして姫乃と通話する。


『こんばんは、お兄ちゃん』


「こんばんは姫、どうした? いつもならチャットアプリなのに態々通話してくるなんて」


 ポン子がたこ焼きを生活魔法で温めて、それを食べたリルルが熱すぎて悲鳴を上げる、ポン子が咄嗟に生活魔法で氷を出して口に放り込んでた、何してんねん君ら。


『昨日お兄ちゃんからの連絡で木三郎さんの事を教えて貰ったでしょう? そしたら今日早速鐘有さん達が接触してきてね……内密でお話がしたいとか言ってきたの』


「あー客分の話かな、兄妹として姫にも話を通しておこうってか律儀だな」


『……それも有るんだけど、それだけじゃなくてね、お兄ちゃんをというか木三郎さんを守る為には多少強気で行く必要があるらしいんだって、だけど鐘有のお嬢様が年齢が釣りあう男の子をガチガチに守ろうとするのはお兄ちゃんを結婚相手として見てるのではって勘違いされる問題があるらしくてね……』


 確かに……木三郎さんの貴重さを全て表に出す訳にもいかない状態で……表面上はそこそこな特殊個体っぽいカード従者を持っている探索者なのに強権力を行使するって事はその強権力に見合う何かがあるって言ってるような物だしな。


「となるとあまり強固には守れないって話になったのか?」


『逆だよお兄ちゃん、コン様を絶対に守りたいので協力をお願いします、って頭を下げつつ言われてね、木三郎さんの事を何故だかコン様って言うのよねあの人……』


 姫乃への説明ですら俺の名前はほとんど出て来ないらしい。


「で、どうなったんだ?」


 テーブル上ではポン子が食べた焼きそばについていた紅ショウガをリルルが美味しそうに食べている、それだけ食べるって酸っぱくねぇか?


『……』


「姫? どした?」


『私と鐘有のお嬢様が気が合ってお友達になったという設定で、親友のお兄ちゃんだからより強めに守るという話になってね……なぜかこれからお昼ご飯とかを一緒に取る事になったんだよ……私の平穏な高校生活が一学期で終わる事になっちゃったんだけどどうしてくれるの? お兄ちゃん』


 皆が取り入ろうとしているお金持ちにするっと姫乃が横入りした感じになっちゃうのか……嫌がらせとかあるかもか?


「すまん姫、厄介事があったら俺も助けにいくからさ勘弁してくれ、俺に出来る事なら何でも……いや結婚やえっちぃ事以外なら何でもしてやるから」


 危ない危ない、何でもは危険だものな保険を掛けておこう、あ、リルルありがとうあーん。


『にゃんと! ……どうしてお兄ちゃんは私が持っていきたい話の方向をブロックするかなぁ……ちぇー負い目のあるお兄ちゃんが責任とって結婚してくれないかなーとか思ったのになぁ』


 姫乃は本当に判り易い子だなぁ……、モグモグ、海鮮お好み焼きの方だなエビがプリプリしてて美味い。


『お兄ちゃんラブ勢な私は、お兄ちゃんを守る為なら親友の振りくらいどうって事ないからね? あんまり気にしないでね』


 そして姫乃は本当に良い子だ、ここに居たら頭をナデナデしてあげたい、っとリルルにお返しだ、あーん。


「ありがとう姫、通話連絡をしてきたのはそれをちゃんと伝える為だったんだな」


 リルルはお好み焼きに入っていたイカの弾力に苦労をしているようだ、体の大きさから見ると俺が自分の腕くらいの太さのイカを食べる様なものだしな……。


『……えとね、それだけじゃなくて』


「まだ何かあるのか?」


 木三郎さんがお茶を入れてくれている、有難う最近お茶の入れ方の腕がさらに上がって無いか?


『お兄ちゃんを担当護衛官にしたいから面接の予約をしたいって話を学校側に通しておくって話はチャットアプリのメッセージで話したよね?』


「ああそうだな、確か姫はもう探索者資格は取ったんだよな? 来週には探索実習もあるっていうしそろそろ面接とやらを受けないとな、てことは予約出来たのか? なんか緊張して来たな」


 実績がどれくらい通用するか……協会のデータをどれくらい詳しく利用してくるかで変わるよな、戦闘試験とかあれば木三郎さんだけでも受かりそうなんだが。


『合格しました』


 はー美味しいお茶だわぁ……リルルと一緒にお茶を飲みまったりする、今度木三郎さんに本格的なお茶を入れる道具とかプレゼントするのも有りだよなぁ……。


「……ん? 合格って何が? ああ、面接を受けられるくらいの実績はあるって話か」


『違います、お兄ちゃんが私の担当護衛官になるって話が合格しました、オメデトウーパチパチパチパチワー』


 んん?


 いやいやまてまて! 担当護衛官に成るには実績と面接が必要なんじゃないの?


「棒読みでそんな事言われてもな……冗談とかでは無いんだよな? さすがにこんな事で姫が嘘を言うとは思わないけども」


『学校側に予約を申し込んだら向こうはお兄ちゃんの事を調べるよね?』


「まぁそうだな、協会のデータを利用するって話だしな」


 ポン子が残っていた屋台飯達を一気に吸引して片付けにかかる、ご飯が余るって事が未だに一度もねぇんだよな……。


『うん、それでお兄ちゃんは年齢に比べてダンジョンに通っている時間がアホみたいに多いとか、さらに武器持ちゴブリンを幅広く倒しているだろう買取種類の実績もあるとか』


「白夜ダンジョンの実績が通用してるのか! それは嬉しいな、でも最後に面接はやるんじゃないのか?」


『駄目押しが……お兄ちゃんが鐘有のお嬢様の客分って話がもう学校側にも伝わってたみたいで……面接が免除されました、オメデトウお兄ちゃん』


「……ありがとう? なんかこうスッキリしないが……目的が姫の担当護衛官になるって話だからいいのかね」


『鐘有さんの護衛の小雪さんが言うには、学校側の私に対しての格付けも一段上がったそうなんだけども、それよりも鐘有さんの客分って話が大きかったみたいなんだよね……友達も勝手に評価や忖度される世界って……鐘有さんも大変だなって思った』


「そんな世界に姫が入った事は申し訳なく思う、だがまぁせっかくだし利用して守って貰うくらいのつもりで居るのが良さげだな」


『そうだね、ハーイ今行くー、ごめんお兄ちゃんお義母さんからお風呂入るって言われたから切るね、護衛官の詳しい話なんかは学校側からお兄ちゃん宛に電子書類と一緒に送られてるはずだから確認してね、じゃぁまたね~おやすみ~』


「またな姫、おやすみ」


 姫乃からの通話が切れたモバタンを操作すると確かに俺宛に各種契約やら何やらの情報が探索者専門高校から届いていた。


「という訳で俺の担当護衛官に成ろう計画が成就しましたーワーパチパチ」

「意気込んでいた居た分寂しい気もしますが……折角イチローに面接の練習とかして貰う為に色々準備していたのが全部無駄になりました」


 お前の準備した面接とか超怖いんですけど、厄介事の匂いしかしねぇ。


「おめでとうございますご主人様! これで姫様と一緒に探索に行けますね~嬉しいです」

『シャッシャシャ!』


「そうだな姫と一緒に居られる事でナンパから守れる事を喜ぶとしようか」

「魔物じゃなくナンパなんですねイチロー」


「だってあいつの方が強いかもしれないじゃん、戦闘系スキルを手に入れた事で相手の所作でなんとなく強さを測れるんだが……たぶん姫は俺より強い気がするんだよな……鐘有さんとか護衛さんとかも、まぁ今の木三郎なら良い勝負出来るかなとも思うけど」


 戦闘スキルを得て強くなった事で回りの強さがより理解できてしまう、自分はまだまだ探索者としての入り口に入っただけなんだなと実感している。


「エリートが通う高校みたいですし、イチローとは違って色々と事前にスキルを覚えているのでしょう、という事はお嬢様達は油断さえしなければ上位種ゴブリンに負ける事は無さそうですよね……つまり魔物なんかより自身の油断の方が恐ろしいという教訓を得れましたね」


 うんうんと頷いているポン子、確かにその通りかもしれんがお前が落ちの無いまともな事を言うと少し不安になる俺が居る。


「そういえばイチロー、姫ちゃんはお風呂にでは無くって言われたと言っていましたね」


「ん? そうだったか? 聞き間違いじゃね?」


「確かに姫様はそう言ってましたよご主人様」

『シャシャ?』


 よく細かい所まで覚えているなリルルは、でもなぁ言い間違えただけだろ。


「つまり姫ちゃんはお義母さんとお風呂に入って居るという事です!」


 何を言い出すかと思ったら……。


「高校生にもなってそれは無いだろ、てかなんでそんな話を掘り下げようとしてるんだよどうでもいいじゃないか」


「いやイチローが朝見る夢を操作しようと契約魔法陣めいしを見てから寝たりと四苦八苦してるのを見てお手伝いしようかと思いまして」


 ちょ! おま! ポン子! 何してくれてんの!? そんなん言われたら意識してしまうやんけ!


 俺のあの朝の夢に姫とお義母さんと一緒にお風呂とかが出てきたらどうすんだよ! そしてそんな夢を見た事を知られたらやべーだろ! お義父さんには拳で語られお義母さんには特訓をさせられ姫乃には責任を取らされに来るじゃねーか!


 あーもう意識したら記憶が強くなって本当に夢に出てきそうになるじゃん!


 これはもう寝る前に契約魔法陣めいし三十枚全部見るまで眠れません! をやるしかないじゃんか……。


 取り合えず意識しないようにしないとな……皆でゲームでもして忘れるか、よしそうしよう、片付け終わったらゲーム大会でもしよーぜ皆!


「最下位以外を決めるゲーム大会ですね、いいですよやりましょうイチロー」

「この間も楽しかったです、負けませんよ! ご主人様、ポン子先輩、木三郎さん」

『シャシャ!』



 担当護衛官の件も問題無く行けそうだし、木三郎さんも鐘有さんのお陰で守れそうだし、俺の探索者生活も前途洋々と特に問題無く進みそうだ、目指せ蝶も案外すぐなれちゃったりしてな!






 探索者イチローのサクセスロードの始まりだ!



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