第99話 パーティ強化で白夜ダンジョン
高級レストランでお礼をして貰った昨日の夜に護衛のユキさんがスクロールを届けてくれた。
朝出かける前に各自に配り覚えていく、そう俺だけで無くポン子やリルルの強化もしておこうと思ったんだ。
ポン子に〈魔力回復強化〉〈風魔法〉〈気配察知〉
リルルに〈魔力回復強化〉〈隠密〉〈気配察知〉
俺には〈槍術〉〈身体強化〉〈気配察知〉〈舞踊〉
こんな感じ、二人の魔力は草原ダンジョンあたりだと結構カツカツで俺がちょいちょい〈救世〉をかけて回復する羽目になったので魔力回復強化を覚えて貰い、そして気配察知は全員で覚える事に、それぞれ役目を特化させて強化するのは戦闘タイプ別にするならいいけど斥候系だけは一人に集中させるのは悪手らしいとか情報があったんだよね、まぁ覚えて損する物でもないしな。
ポン子の魔法は初級魔法だけだったので風の中級が使えるような物を、リルルにはタゲが行かない様に隠密を、俺の〈杖術〉は攻撃に使えなかったので〈槍術〉と〈身体強化〉で攻撃も出来て尚且つ全体の底上げをしてみた。
ポン子が強烈に押してきた〈舞踊〉は中級探索者でも上位になると覚えているスキルなんだとか、〈足さばき〉スキルやらと同じく術理の違う戦闘系スキル同士の連携に役立つらしくシナジー効果が出るとかなんとかでポン子も色々探索者情報を調べてくれていて有難いよね、まぁ……本命はイチローアイドル化計画らしいが。
これで俺はスキル六個持ちだ、新人探索者は戦闘系スキルを買って初級探索者に、さらに複数の戦闘に使えるスキルを買って補強できた頃が中級の入口と言われる、資金的に一千万以上は必要な話なんだが、今回のでスキル数だけなら中級の入口に入れたと言える、経験が圧倒的に足りないからまだ中級者が行く様なダンジョン探索をする気はないけれども。
スキルには熟練度があり使えば使うほど熟練度が上がり基礎能力への補正値やスキル効果が上がると言われている、〈気配察知〉〈身体強化〉〈隠密〉などは常時発動する事も可能だが微妙に魔力を消費する、しかし発動しておけば勝手に熟練度も溜まるというお買い得なスキルだ、ダンジョン以外では常に発動をし、ダンジョンの中で移動中は節約できる部分は節約して戦闘に入ったら全部発動てな感じで行く予定。
そうして白夜ダンジョンに向かっている途中である。
「じゃぁリルルはもうあのスクロールはいらないんだな?」
「はいですご主人様、もう調べて改造も終わりましたし……はぁ……失敗作ですが……一応使えはするのでご主人様のお好きな様にして下さいです」
例の〈身体硬化付与魔法〉スクロールの改造は終わったらしく今朝渡された、キャンセルで鑑定してみたが効果時間は倍の二十分になっており単体付与から範囲付与に変わっていたが使用回数が一回に減っていた、リルル的には納得のいかない出来らしく失敗作扱いだった、消費型スクロールは改造出来る部分の余地が狭いらしく難しいらしい。
「元気だせですよ後輩ちゃん、これからいくらでも研究出来る物が出てきますよ」
ポン子は俺の頭上からそう慰めている。
「ううポン子先輩……優しいですー」
リルルは俺の肩から浮かび上がり頭上に居るポン子に飛びついていった、狭い頭の上で妖精が抱き着いてイチャコラしてると思う訳だが、俺にはそれが見えない! くっ……死角を見る事が出来るスキルを鐘有さんに頼むべきだったか? いやまぁそんなスキルはリストに無かったんだけどな。
「狭いので後輩ちゃんは肩に戻りませんか……?」
「いやですー今日はポン子先輩と一緒です」
仲が良くて大変結構だ、俺の視線には二人の足しか見えないがな! そして二人で座るには俺の頭が狭いせいかバランスを取るのに俺の髪の毛をガシっと掴んでいる二人、頑張ってくれ俺の毛根……〈身体強化〉スキルは毛根も強くしてくれるのだろうか?
改造されたスクロールは白夜ダンジョンの協会で売ってしまう事に、いやだって〈救世〉で色々バフかけれるし、消費一回で消えてしまう二万円って貧乏人の俺はいつまでも使えない気がするんだよな……。
そうして辿り着く白夜ダンジョン六階、前回鐘有さん達を助けた階層だね、武器持ちゴブリンからの装備やスクロールを狙っていく、やっぱ自分で出した物の方が遠慮なく使える気もするしな……貧乏で金は欲しいが空から降ってくるような状況は逆に怖くなってしまうんだよね。
木三郎さんはすでに召喚済みでプロレスマスクも外して銀髪狐ジャージだ、鐘有家にどの程度力があるのか判らんのでゴーレムで有る事は自分からばらさないで行く。
「じゃぁまずは順番にスキルを試していくぞー、敵が三匹以上なら全員で戦い、二匹以下ならまず俺が、次に木三郎さんそしてポン子という順番でリルルは皆のフォローと周囲の警戒な、移動中の〈気配察知〉は魔法で魔力消費をしない俺と木三郎さんがメインでいこうか」
「了解ですイチロー、早く広範囲風魔法とやらを試してみたいです」
「タゲ反らしは任せて下さい!」
『シャシャシャ!』
俺が先頭、木三郎さんがナナメ後ろ、ポン子&リルルが俺の頭に座って戦闘時に発進するフォーメーションで白夜ダンジョン六階の通路を移動していく俺達。
ほどなく前方から魔物の気配を感じる、気配察知のスキル便利だなと思いつつ手をあげて敵の接近を知らせる、曲がり角から顔を覗かせた武器持ちゴブリンがこちらに気づいて気勢をあげて走り込んでくる、どうやら一匹のようだ、ならば俺がと迎え撃つ。
魔物は刃がぼろぼろの剣を使ってくるもまったく圧力が無い、ガンゴンと振るわれる剣を棒で弾いていく。
「なんじゃこりゃ……」
正直スライムより弱く感じる、〈杖術〉と〈槍術〉を〈舞踊〉が仲良くさせて無駄なくナビゲーションしてくれる、そして身体強化だ、剣を受けても子供にじゃれつかれてるが如くだ……これが複数のスキル持ちの世界か……やばいなこれは、最後に相手の姿勢を崩した後に〈マラカス〉付与をした本気の突きを試してみる……あ、頭が吹き飛んじゃった……付与の威力見れなかったな。
ただの棒でこれか……木三郎さんに吸収させたあのプラス棒があったらもっとやばい訳だよな、なるほど戦闘スキルを複数持って初めて一人前という意味が少し理解できた、これは世界が変わる……そして周りの中級探索者はみんなそんな世界に居る訳か。
「お疲れ様ですイチロー、動きがまるで違いましたね」
「ご主人様格好良かったです!」
『シャ!』
そう褒めてくれる皆だが、たぶん君らもすごい事になってるはずだよ?
「ありがとう次は木三郎さんな」
そして始まる蹂躙劇、木三郎さんは武器持ちゴブリンの攻撃は躱した後に掌底を顔に打ち付け相手がふらついた所を捕まえてパイルドライバーを決めていた。
……いやまって木三郎さん! ここはプロレス会場じゃないから! もっとこう普通に戦おうぜ?
そう頼んでもう一戦やって貰う事にしたら武器持ちゴブリンが四匹居たのにも関わらず一人でやるとばかりに前に出たので様子を見た、ローキック一発で斧ゴブリンが沈み、マラカスの一振りで剣ゴブリンの頭がペシャンコに、パンチ一発で棍棒ゴブリンが壁に激突をし、そしてナックルゴブリンにはコブラツイストから決め技に持っていってトドメを刺していた。
……いやいやまって木三郎さん! だから! プロレス技は効率悪くないか!? 相手を拘束するが自分も一匹相手にかかりっきりになっちゃうだろう?
シャカシャカ、シャカシャカと木三郎さんと相談をした結果、プロレス技は最後の一匹かそもそも相手が一体の時のみにする事になった、いやさっきのポストも無いのに決めたムーンサルトプレスは恰好良かったけどさぁ……マラカスアタック一発で沈むんだからそっちを使えばいいじゃないと思う俺も居る。
もしかしたら〈プロレス〉スキルを得た者にしか判らないロマンなのかもしれないな……効率ではなくロマンを理解するゴーレムか……益々知られる訳にいかねーなぁ……。
次の出番のポン子だが広い場所でやりたいと言うので空いている部屋を探して移動狩りをしていく、鎧袖一触とはまさにこの事で木三郎さんだけで敵を蹴散らせていく、そりゃスキル十個だものな、元々ガーディアンになって力がすごい上がってたのに体の使い方を戦闘系スキルで補正する事で歩く凶器と化している、後ろを付いて行くだけの俺らすっごいヒマです、あ、ゴブリンカード出た……まじか。
ドロップを拾うだけのお仕事中にリルルの〈隠密〉も試してみる事に、スキルを使って貰ったらリルルの姿が見えているのに気配察知が反応したりしなかったりした、視界外に行かれると何処にいるかまったく判ら……あ、テイムのパスを意識すると判っちゃうな、でもまぁこれは例外かな、ポン子と木三郎さんはまじで慌てて探してたしな。
六階奥の方の部屋で空きを見つけたので中に入るとそこは砂漠部屋だった……暑いし足元が柔らかくて歩きにくいので人気無さそうな部屋だなとは思う、モバタンによると広さが数キロある部屋らしかった、まぁポン子の魔法だけを試して撤退しよう、ロックショットを遠くに見えるゴブリン集団に撃つ事で釣りをする事にした。
ってポン子さん? なんで複数の集団にロックショット撃ってるのよ! ってぎゃーゴブリン武器持ちパーティが四つくらい同時に来てる! 二十匹以上になるぞこれ。
「何してんだポン子! 皆戦闘準備、接敵前にリルルが幻で――」
「魔力全力全開! ウインドトルネード!!!!」
ポン子が魔法を発動したのだろう……風の竜巻が出始めは小さかったのにどんどん大きくなりつつ離れていく竜巻は砂も巻き込んで砂嵐といった感じ、二十以上は居たと思われたゴブリンは全て砂嵐に巻き込まれて見えなくなり、しばらくすると気配察知にゴブリンの反応が無くなった……ナニコレー。
「これが中級魔法? やっべぇなこれ」
「びっくりしました……」
『シャシャ……』
「ふふーんポン子ちゃん最強伝説の始まりです!」
俺は鼻息荒くそんな事を言っているポン子にデコピンをかましておいた。
「いたっ! 急に何するんですかイチロー!」
「うっさい馬鹿ポン子! 俺や皆の恰好をよく見てみろ、お前の魔法で巻き上げられた砂のせいで全身砂塗れだ、おまけに服の中にまで入ってジャリジャリして気持ち悪いんだよ、説明も無く複数の釣りをするしアホみたいな規模の範囲魔法を急に使うしもう少し周りの事を考えて行動しろ」
「そーいうのはコラテラルダメージっていうんですよ仕方ない物なのです、知らないのですかイチロー? 大部屋で魔法を使いたいって言ったじゃないですか察して下さいよ」
「やむをえない犠牲な訳ないだろうが、てかお前スライムダンジョンの時と同じ事言ってるじゃないか、学習能力ないのかこのポンコツ天使が」
「あーそれをまた持ち出すんですかイチローは! 可愛いからポン子ってつけたんでしょうに! いくらポン子ちゃんがスーパーミラクルな魔法を手に入れたからって嫉妬してるんじゃないですか?」
「んな訳ないだろ、だいたいそのミラクルな魔法は魔力消費はどんな物なんですかねぇ?」
「うぐっ……それはまぁそれなりに? そこそこ? 休憩すればどうにか?」
「全力全開はいいが一回しか打てない必殺技とか狩りに使えないじゃんかよ」
「ボスが相手なら十分じゃないですか! だいたいイチローは――」
「それはポン子がいつも――」
「ケンカはやめて下さいご主人様ポン子先輩~」
『シャシャシャ~』
――
――
あの後何故か砂漠でゴブリンを倒した数で勝負を決める事になり俺とリルル、ポン子と木三郎で別れて全力移動狩りをする事になった、ある程度回って今は入口に戻ってきている所だ。
「なぁポン子」
「なんですイチロー」
「砂漠で全力移動の狩りなんてするものじゃないな……」
「同感です、暑すぎですよ二度とこの部屋で狩りはしたくありません……」
「帰ろうかポン子、リルル、木三郎さん」
「そうしましょうイチロー」
ポン子はそう言うと俺の頭に乗ってきた。
「暑いです~生活魔法もゴブリンのせいですぐ切れるので地獄でした~サキュバスだけになんちゃって~あつぃです……」
リルルも俺の肩に戻る、すごいへばって居るのにギャグを一つぶっこんできた、成長してるなぁリルルも……これを成長と言って良いのかは知らんが。
『シャシャシャ!』
木三郎さんだけはすごい元気だ、君は汗かかないもんね……帰り路は戦闘よろしくね?
そうして白夜ダンジョンから帰還した訳だが、ゴブリンカードも五万で売れたし総額で二十万を軽く超える収入だった、でもあんな無茶な砂漠狩りとかはもうしたくねぇな、草原部屋が人気あるのも判る話だ。
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